どちらまで?

紫 李鳥

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少年とのつきあい

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 お父さんの話では、その少年は私と同じぐらいの、小学4~5年だったそうです。

 お母さんに会えるのがうれしかったのか、少年はタクシーの中ではしゃいでいたそうです。

 伊香保温泉に着くと、少年から聞いた旅館を観光案内所で尋ね、旅館の前で少年を降ろしたそうです。

 間もなく、少年のお母さんがやって来て、何度も礼を言ったそうです。

 少年のお母さんは、着物が似合う、キレイな人だったそうです。



「――ちゃんと話できたか?」

「できるわけないじゃないか、ちょっとしか会えなかったんだから……」

「……で、また会えるって?」

「プライバシーをシンガイするなよ」

「ッ……」

「……お父さんのキョカがなきゃ来ちゃダメだってさぁ」

「……か。ま、お母さんの立場もあるからな」

「……グスッ」

「……おじさんにも、キミぐらいの娘がいる。良かったら友だちになってくれないか?」

「顔によるなぁ」

「ッ、可愛くねぇ」



「……ぼくんチ、ここの403号室。じゃあね。あ、そうだ。これ、母さんから預かった。バイバイ。……それと、……おじさん、ありがとう」

 マンションの前で降りた少年は、白い封筒をお父さんに渡すと、そう言って走って行ったそうです。

 それには、

《 この度のご親切を感謝いたします。
 事情があって、息子と一緒に暮らす事ができませんが、お金を貯めたら、息子を引き取るつもりでいます。
  見ず知らずのあなた様に、このようなお話を申し訳ございません。
  あなた様のご親切は一生忘れません。ありがとうございました。
  少しばかりですが、受け取って下さい。》

 と書いてあり、何枚かの一万円札が入っていたそうです。



 もう、輝郎くんは嫌いです。最初はおとなしかったけど、なれると、口は悪いし、いじわるだし。

 お父さんがよけいなことして、友だちになったのを後悔しています。

 えっ?輝郎くんですか?あの、お父さんのタクシーに乗って、伊香保に行った少年です。

 いまでは、家族ぐるみでつきあっています。

 輝郎くんのお父さんもいい人で、お父さんのタクシーをときどき利用してくれるそうです。

 輝郎くんがもう少ししんし的だったら言うことないのに……。



「あっ、それ、返してよー!」

「ヤだびょ~ん」

「テルオのバカー!」

 いつも、こんな調子です。

 嫌いだけど、でも、なんだか会いたくなる存在です。

 そんな、輝郎くんのお父さんとお母さんか仲直りして、いつの日か、また3人で暮らせるようになったらいいなって思います。



 

 近況報告。最近、輝郎くんが少しやさしくなったので、ちょっとうれしいです。



   おわりです。
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