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しおりを挟むすでに上映中だった。スクリーンの明かりに、人の頭がぽつぽつと見えた。
……皆、映画館に来てたから、外に誰も居なかったんだ。
阿以子は納得すると、ドア付近の最後列に座った。
〈ならばなぜ、人身御供を奉献せぬ〉
字幕に烏帽子と狩衣に身を纏った神主の台詞があった。顔も知らない俳優だった。
〈この村にはもう、若い女がおらぬからじゃ〉
長老らしき老爺が嘆いた。神主が、集まった村人を見回した。そこには申し訳なさそうにうつ向く老爺と老婆しか居なかった。
すると、神主が観客のほうに顔を向けた。神主と目が合った阿以子はビクッとして目を伏せた。途端、前方からニューッと手が伸びてきて阿以子の腕を掴んだ。
「イヤーッ!」
阿以子は悲鳴と共に身を捩ると座席の背もたれにつかまった。必死につかまりながら、その手を振り払うかのように、夢中で自分の体を右へ左へと揺さぶった。
「……イヤぁ。イヤだイヤだイヤだ……」
邪念を祓うかのように髪を振り乱し、熱に魘された病人の譫言ように呟いた。だが、腕を掴んだその手は更に握力を加えた。
(……もう、……駄目だ)
阿以子は気を失ってしまった。
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「――おい、女」
阿以子は男の声に目を覚ました。薄目を開けると、神主が見下ろしていた。
「ハッ」
「気がついたか?」
「……ここは?」
神主の背景を見ると、先刻の映画に出てきた神社があった。
「神無月神社じゃ」
身を起こしながら視線を落とすと、草履の足元が見えた。ギクッとして見上げると、長老がギョロッと見下ろしていた。
「ヒャッ」
咄嗟に身を退くと、長老の後ろには、映画に出演していた老爺や老婆が勢揃いしていた。
(エッ!嘘。……映画の中にいるの?まさか、そんなことはあり得ない)
阿以子は自分の状況に戸惑ったが、目の前にある光景は、観ていた映画の一齣に違いない、と結論付けた。だが、
(……じゃ、なぜ皆の視線が自分に向いてるの?……単なる思い過ごし?)
そんなことを思っていると、
「女、来いッ!」
神主がいきなり阿以子の腕を掴んだ。
「イヤーッ!」
阿以子は後退りしながら、必死に抵抗した。
「若い女を供えねば、この村に災いをもたらすとの神のお告げがあったのじゃ。わしらを助けると思って生け贄になってくれーッ」
神主は尚も握力を増した。
(!……さっき映画館で腕を掴んだのは、スクリーンの中から伸ばした神主の手!?)
「イヤーッ!」
「長老!お主も手伝えぃ」
「……神主さま、わしにはできませんだ。このおなごさんはよそ者ですだで」
「そんな悠長なことを言ってる暇はないッ!この村が災害に遭ってもいいのかッ?」
神主の言葉に、長老は老いた村人達を見回した。老い先短いことを覚悟するかのように村人達は哀しそうにうつ向いていた。……災害など無い穏やかな村で、皆を往生させてやりたい。そう思った長老は、
「すッ、すまぬ」
そう言って、もう一方の阿以子の腕を掴んだ。
「イヤーッ!誰かー、助けてーッ!」
二人に腕を引っ張られた阿以子の体は、赤子のように、その抵抗を無力にしていた。
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