2 / 12
二話
しおりを挟む「きれいな人ですね」
書斎に付いてきた大輝が、俺の心中を見透すかのように、大人びた目で見た。
「うむ……寝顔じゃなんとも言えん。今日の晩飯はお前が担当しろ」
俺は曖昧な返事をすると、話を変えた。
「はい。何にしましょうか」
「冷蔵庫にある物で何か作ってくれ」
「わかりました。ソー、イク、フーをしてみます」
「ん?……頼む」
……多分、創意工夫のことだろう。
俺は椅子に腰を下ろした。
「今日はお客さんがいるので、恥ずかしくない物を作ります」
……むむ。……ってことは、いつも作る俺の料理は恥ずかしいのか?
「ああ、頼む」
「お父さん、お客さんはまだ、お目覚めではないですかね?」
……スゲ。丁寧語だ。
「うむ……どうかな」
「そろそろ、食事ができますが」
「じゃ、ちょっと見てくるよ」
俺は重い腰を上げた。
「あのう、お目覚めですか?」
大輝の丁寧語を頂いて、客間の襖越しに声を掛けた。
「……あ、はい」
お、意識が戻ってる。
ゆっくりと襖を開けると、廊下の明かりが布団の中の女の顔を照らした。
……うむ……馬のような目をしている。
「気が付かれましたか」
「……ここは」
「あ、私の家です。土手の所で倒れていたんですよ」
俺は廊下に両膝を突いた。
「……土手」
女は考える顔をした。
「覚えてませんか」
「……はあ」
「あ、食事ができましたので、一緒に食べてください」
「……でも」
女が躊躇した。
「あ、遠慮は要りません。息子と二人ですから」
「……すいません」
女はゆっくり身を起こすと、
「あうーっ」
と顔を歪めながら、頭を押さえた。
「あっ、大丈夫ですか」
俺は駆け寄ると、女の肩に手を置いた。
「多分、頭を打ったんでしょう。食べたらまた、横になるといい」
「……ありがとうございます」
女は頭を下げた。
「それとも、ここに運びましょうか。食事」
「いいえ、大丈夫です」
女を支えて居間に行くと、湯気を立てた土鍋が座卓にあった。
……女を発見した土手に因んで、もしかして土手鍋か?
「こんばんは」
妻が遺した白い前掛けをした大輝が、女に挨拶した。
「……こんばんは」
女は笑顔を作った。
「どうぞ、座ってください」
上座に客用の座布団を置いてやると、俺は大輝と座卓を挟んだ。
「鍋か。何鍋だ」
「よせ、と言われてないので、ヨセナベです」
「プッ」
大輝の駄洒落に、女が吹き出した。
大輝は自分で笑わせておいて、予期せぬ女の笑いに吃驚していた。
「……くだらないでしょ?」
俺は女に同意を求めた。
「いいえ、楽しいです」
女が笑顔で見た。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる