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十一話
しおりを挟む!……馬?……まさか?
「萩野さん?」
「あ、はい」
「鬼怒川で倒れていた」
「ええ」
「わたくし、クレナイコウという者です。お嬢さんのことでお話が」
俺は勘で、この萩野と虹子は親子だと判断した。それは、“目”の酷似だった。
「……どうぞ」
俺を部屋に通すと、茶を淹れた。
調度品らしき物も無いその六畳一間には、女の気配は無かった。つまり、虹子とは同居していないことが推測できた。
「……娘とはどこで?」
「あなたが倒れていた近くです。彼女も倒れてた」
「えっ!娘が?」
萩野が驚いた顔を向けた。
「ええ。記憶をなくしていて」
「……記憶を?」
萩野は俺の前に湯呑みを置くと、ちゃぶ台を挟んだ。
「何があったんですか?あの場所で」
「さあ……」
萩野は他人事のように首を傾げた。
「さあって、記憶が戻ったんでしょ?」
「いいえ、戻ってません」
「はあ?」
俺は合点がいかなかった。
「知り合いだという女に、名前と住所を教えてもらって、ここに辿り着いたんです。鞄にあった鍵でドアが開いたので、ここに住んでいたのだと分かりました」
「……じゃ、何も覚えてないんですか?お嬢さんのことも」
「ええ。何一つ」
「お嬢さんの名前も?」
「……思い出せません。知り合いだというその女が教えてくれたのは、私の名前と住所。そして、観光をしていたと言うことだけです。ですから多分、足を滑らせて渓流に落ちたんだと思います」
「……お嬢さんに関する物とか、写真とか、何か分かる物があるでしょ?親子なんだから」
釈然としない結果に、俺は苛立っていた。
「いや。私も探してみましたが、何一つ無かった。娘との写真もアドレス帳も……」
「…………」
これ以上、萩野からは何も得ることはできないと判断した。虹子の名前も、住所も……。
取り合えず、自分の本名と住所、電話番号を教えると、もし、娘さんから連絡があったら私が来たことを伝えてくれるように伝言を頼んだ。
大輝の待つ、喫茶店に急いだ。
折角、東京まで来たのに空振りか。それより、朗報を待っている大輝になんて言えばいいんだ……。
窓際に座っていた大輝は、入る前に買ったマンガ本を見ていた。
「ごめん、ごめん」
急いで、大輝の前に座った。
「いた?ニジコさん」
「いや、……留守だった」
「えー?……」
残念そうに、大輝が顰めっ面をした。
「電話をくれるように、虹子さんのお父さんに伝言したから大丈夫だよ。……近いうちに会えるようにするから」
「ホントだよ、約束だよ」
「分かってるって。楽しみにしてな」
難関を切り抜けたかった俺はお茶を濁した。
待望の虹子からの手紙が届いたのは数日後だった。だが、その内容はあまりにも衝撃的だった。
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