退屈おばばの、刺激求めて山手線!

紫 李鳥

文字の大きさ
5 / 6

5 チリパー!vsお浜ばあさん!

しおりを挟む
 

  今回も、【ひなっち!!!】さんからご提供いただいたエピソードをベースに脚色しています。

 ひなっち!!!さん、ありがとう♪

 人の迷惑を顧みない暴走チャリは、絶対に許さない!





 季節は夏。お浜さんは、只今山手線の旅に出掛ける支度中。

 姿見の前で、ファッションチェックに余念がない。

 ピンクのリボンがチャームポイントの麦藁帽子に、ユニ○ロのピンクのTシャツにブルージーン。ピンクのリュックサックとアンブレラステッキは相変わらずだ。

「準備オッケー。あんた行って来るよ」

 いつものように亡き夫の写真に話し掛けると、手を合わせてニッとした。


 駅前の商店街に来た時の事。前を歩いていた親子連れと電動車椅子のおじいさんの間を、一台のチャリが猛スピードで通り過ぎた。

「危ないな。ッタク」

 お浜さんが眉間に皺を寄せて呟いた。

 すると、

「退きなさいよっ!邪魔よっ!」

 チャリに乗ったチリチリパーマのおばさんがわざわざ振り返り、その親子連れに怒鳴った。

 母親は男の子を守るようにそばに寄せて、怖がっている様子だった。

 車椅子のおじいさんも唖然あぜんとしていた。

 頭に来たお浜さん、健脚を活かしてチャリを追うと、アンブレラステッキの柄をチャリの後部カゴに引っ掛けて、その優れた握力でチャリを止めた。(笑)腰は曲がっているが、脚力と握力には自信があるようだ。

キィーッ!

 突然止まった我がチャリを不思議そうに見回す、チリパー。

「おいっ、チリパー、降りろ!」

「チリパーって、誰のことよ?」

「チリパーと言や、あんた以外に、この世におらん」

「何よ!自転車から退きなさいよ、ばあさん」

 チリパーVSお浜ばあさんの騒ぎに、野次馬が集まって来た。

「チャリから降りろ、チリパー。降りないと警察呼ぶぞ。道交法違反で」

「エーッ!」

 “警察”と“道交法違反”に反応してか、渋々と降りた。

「この親子とおじいさんに謝れ」

「……なんでよ」

「なんでよだと?道路交通法も知らんでチャリ乗ってんのか、チリパー」

「……交通法って、何よ」

「自転車も軽車両扱いになるんじゃ。人の多い通りでは、徐行か自転車を押すのがマナーじゃろ」

「こっちだって急いでんのよ」

「急いでんのはチリパーだけじゃないわい。わしだって、午後の山手線でティータイムの予定じゃったのに、正義感が邪魔をしたんじゃ」

「どうでもいいから、その杖を退けてよ」

「いやいや、親子とおじいさんに謝るまで退かん」

「ったく。どうもすいませんでしたねっ」

 不貞腐ふてくされた様子で、親子とおじいさんをチラッと見た。

「それじゃ、謝ったことにならんじゃろが。ババチャリから降りて、ちゃんと謝らんかい」

「ったく、もう」

 チリパーは面倒臭げにチャリから降りると、親子の前にスカスカと歩み寄り、

「すいませんでした」

 と頭を下げた。男の子は今にも泣きそうだったが、母親は会釈をした。

「坊やにも謝らにゃ」

 お浜さんがさとした。

「……坊や、ゴメンね」

 チリパーがニーッとした。その表情が怖かったのか、男の子は母親の後ろに隠れた。

「おじいさんにもじゃ」

「どうもすいません」

 チリパーが車椅子のおじいさんに頭を下げた。

「わしゃ、心臓が止まるかと思った。自転車は凶器じゃな。ケガせんで良かったわい。けど、あんまり長生きするもんじゃないのう。やれやれ」

 おじいさんはそう言って、去って行った。

「この親子にケガでもあったら、あんた、傷害罪で逮捕されるとこじゃったんだじょ。チリパー」

「……」

 チリパーはしょげてしまい、借りて来た猫のように大人しくなっていた。

「あんたがこの親子の立場だったら、どうじゃ?子供がケガでも負ったら、暴走チャリを許せないだろ?」

 チリパーはゆっくりと頷いた。

「とにかく、ケガがなくて何よりじゃ。もう二度と暴走チャリは止めなよ」

「ええ」

「じゃ、握手だ」

 お浜さんはそう言って、チリパーと母親の手を取り、握手をさせた。

「……どうも、すいませんでした」

 チリパーが深々と頭を下げた。

「ケガとかなかったんで、大丈夫です」

 母親は、笑顔で答えた。

「坊や、ゴメンね」

 チリパーがそう言うと、男の子は頷いた。

「さて、午後のティータイムに急ぐぞ。それ行けっ!」

 お浜さんはそう言うと、忍者のように走り去った。

「ありがとうございましたーっ♪」

 母親の大きな声が、商店街にとどろいていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

友人の結婚式で友人兄嫁がスピーチしてくれたのだけど修羅場だった

海林檎
恋愛
え·····こんな時代錯誤の家まだあったんだ····? 友人の家はまさに嫁は義実家の家政婦と言った風潮の生きた化石でガチで引いた上での修羅場展開になった話を書きます·····(((((´°ω°`*))))))

夫から「用済み」と言われ追い出されましたけれども

神々廻
恋愛
2人でいつも通り朝食をとっていたら、「お前はもう用済みだ。門の前に最低限の荷物をまとめさせた。朝食をとったら出ていけ」 と言われてしまいました。夫とは恋愛結婚だと思っていたのですが違ったようです。 大人しく出ていきますが、後悔しないで下さいね。 文字数が少ないのでサクッと読めます。お気に入り登録、コメントください!

俺の子供が出来ためでたい?あの……婚約者の私は懐妊していないのですが?

仰木 あん
恋愛
ショートショートです

【完結】ドレスと一緒にそちらの方も差し上げましょう♪

山葵
恋愛
今日も私の屋敷に来たと思えば、衣装室に籠もって「これは君には幼すぎるね。」「こっちは、君には地味だ。」と私のドレスを物色している婚約者。 「こんなものかな?じゃあこれらは僕が処分しておくから!それじゃあ僕は忙しいから失礼する。」 人の屋敷に来て婚約者の私とお茶を飲む事なくドレスを持ち帰る婚約者ってどうなの!?

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完】はしたないですけど言わせてください……ざまぁみろ!

咲貴
恋愛
招かれてもいないお茶会に現れた妹。 あぁ、貴女が着ているドレスは……。

幼馴染、幼馴染、そんなに彼女のことが大切ですか。――いいでしょう、ならば、婚約破棄をしましょう。~病弱な幼馴染の彼女は、実は……~

銀灰
恋愛
テリシアの婚約者セシルは、病弱だという幼馴染にばかりかまけていた。 自身で稼ぐこともせず、幼馴染を庇護するため、テシリアに金を無心する毎日を送るセシル。 そんな関係に限界を感じ、テリシアはセシルに婚約破棄を突き付けた。 テリシアに見捨てられたセシルは、てっきりその幼馴染と添い遂げると思われたが――。 その幼馴染は、道化のようなとんでもない秘密を抱えていた!? はたして、物語の結末は――?

処理中です...