鳩の縛め〜森の中から家に帰れという課題を与えられて彷徨っていたけど、可愛い男の子を拾ったのでおねしょたハッピーライフを送りたい~

ベンゼン環P

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第二章 雛

第十五話 約束 15 2-2-3/3 44

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 しかし、アイのてのひらがユミへ届くことは無かった。恐る恐る眼を開く。
 そこにはアイの腕を掴み、動きを妨げる少年の姿があった。
「ダメだよ、母さん」
「キリ……?」
 アイの腕へとぶら下がるような格好だ。
 キリと別れてからはおよそ100日経つが、まだ背丈はあまり伸びていないのだろう。
「キリ!」
 しかし、髪は確実に伸びていた。いずれユミの織物を結ぶためだろう。
 そして顔にはあざが増えていた。

「キリ! 一緒に行こ! もう我慢しなくていいよ!」
 キリは首を捻り、ユミに向かって申し訳なさそうな顔を作る。
「ユミ……」
 再会を喜ぼうという気はないのだろうか。
「ごめん、ユミ」
 キリは謝ってばかりだ。
「一緒には行けない」
 そう言われる気がしていた。でなければあの日に別れていない。

 キリはアイに絡ませていた腕を離すと、今度はアイの腰元へしがみつく。
「母さん。ユミを行かせてあげて」
 ユミは思う。そんなことのためにキリを呼んだんじゃないと。逃げようと思えば既に逃げられたのだ。

「キリはアイといて幸せ?」
 キリと鴛鴦おしの契りを交わした日も似たようなことを訊いた気がする。
「……うん」
 そしてその日も似たような返事を聞いた。
「父さんは生きてる」
「え?」
「どこにいるかまでは教えてくれなかったけど……」

 ――キリのお父さんが生きている?

 それを誰かに教わったと言う。ユミにはそれが誰であるか心あたりがあった。
「もしかしてケ……」
「言わないで!」
 キリは強く遮る。
「オレのことは誰にも言うなって……」
 キリに余計なことまで吹き込んだのはケンだ。そのケンはナガレという流刑地に居た。そこに至るまでの経緯を考えれば、無闇に語っていい人物ではないのだろう。
 
 また、キリの父と言えばアイの鴛でもある。アイは黙ったままだが、何か思うところはないのだろうか。
「アイはキリのお父さんが生きてるって知ってたの?」
「……興味ない」
 どちらともとれる発言だ。鴛鴦の関係とはそんなものなのだろうか。
 ユミは目の前いる鴛を見つめ、アイの反応を理解できなくなった。

「僕は母さんと仲良くなる」
 キリは腰に回していた腕を解き、アイの手を掴む。間髪入れずアイは振り払う。
「大人になるまでには!」
 再びアイの手を掴む。今度は強く。
「キリ……」
 キリの意志を応援してあげるべきなのだろうか。
 アイはキリの手を振り解こうとするが、簡単には離れない。
 キリも覚えたのだろう。諦めずに藻掻くことを。

「だから待ってて、僕が大人になるのを! ユミも鳩になるんでしょ!」
 ユミの母親は鴛鴦の関係についても教えてくれていた。本来、鴛と鴦ともに17歳になるまで契ることなど許されていないのだ。
 ユミはそんなことすら知らなかった。まだまだ学ぶことが多くある。
 明日にはトミサへ発つ。トミサでは新たな経験も増えるだろう。
 クイは森に入るなと言っていた。入ればトミサへ連れて行くことが出来なくなると。
 現時点でラシノにいること自体は仕方のない面はあるが、キリをウラヤに連れて帰るようなことをすれば、これまでの藻掻きも無駄になる。
 ユミも大人になるべきなのだ。1つ息を吐き、決意の表情を向ける。

「約束する。キリが大人になったら必ず迎えに行く。その頃には立派な鳩になるから! それに……」
 ユミに新たな目標ができた。

「素敵な鴦にもなってやるんだからね!」
 言い放ったユミは覚悟を決め、アイとキリに背を向ける。そしてソラの手を取る。

「ユミ、そっちの人って……」
 背後から聞こえるキリの声。真実を返してあげたいところだが、アイに聞かれてはまずい。
 ユミはただ小さく頷くだけだった。
「またね!」
 ユミはソラの手を引いて走り出した。
 
「待ちなさい! ソラ!」
 森に吸い込まれていく2つの影に向かってアイは叫ぶ。足を前に出すが、キリがそれを許さない。
「ダメだよ。母さん」
 キリの意志を手の先から伝えていく。
 それに応える様にアイはキリの顔を見下ろす。
「……やっぱりおしおきね」
 アイのもう一方の手が高く振り上げられた。
 
 ――――
 
 手を繋いで森を歩く2人は、ユミの記憶に従ってウラヤを目指す。
「ねえユミ、一体なんだったの?」
「ごめんねソラ」
「謝らなくていいけど……」
 ユミは多くを語れない。しかし、優しいソラはそれ以上深く尋ねてこない。
「帰ろうソラ。私たちのお母さんの元へ」
「うん。ちゃんとお母さんて呼んで別れたい。いいよね? ユミ」
「もちろん!」
 ユミは誤解していた。ソラの母親は百舌鳥もずではない。
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