鳩の縛め〜森の中から家に帰れという課題を与えられて彷徨っていたけど、可愛い男の子を拾ったのでおねしょたハッピーライフを送りたい~

ベンゼン環P

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第三章 口舌り

第三十話 灰色 30 3-4-1/3 90

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「そういう訳でして、コナさんの鴛鴦文おしふみをミズさんへ渡すこと自体に異存はないのですが、ユミさんからミズさんへは渡してほしくないのですよね。形式だけでもコナさんの秘め事を聞き出してくれた鳩から、ミズさんへ渡すように手配させて頂けないでしょうか?」
「うんまあ……、それは仕方ないよね」
 ユミは諦めの表情を浮かべる。
「あまりユミさんの聞き分けが良いと不安にもなるんですが、大人になった証拠ということにしておきましょう」
「私褒められてるのかな?」
 友人を断ち切ることを褒められたようで、少し気分を害してしまう。

「ねえクイさん。トキ教官から渡りで私のやらかしたことを聞いたってことだけど、どこまで聞いたの?」
 クイには現在、特別に与えられた職務がある。将来的にキリと会うため、考慮せねばならない事情も把握しているかもしれない。
 不毛な探り合いをするよりも、ユミ自身も腹を割って対話を試みるべきだろう。
「そうですね……、テコさんとともにモバラへ行き、お姉さんと会った。その後の帰路でテコさんが怪我して歩けなくなったところ、トキさん達に助けを求めた。その結果、ユミさんの孵卵での出来事やキリさんに会いたいという願望について話をすることになった。そしてトキさん達もユミさんを応援しようと七班の縛めという決まり事を作った。……こんなところでしょうか」
「もうほとんど全部だね……」
 それなら既に把握しているということをもっと早く伝えて欲しかったと思う。
 そしてユミも、もっと早くクイに相談するべきだったのだろうと後悔する。人を頼れるようになれというのがトキの教えの最も大きな部分だった。

「クイさんは私がキリに会うことを応援してくれる?」
 期待半分、不安半分にそのようなことを問うてみる。
「ええ、それに関しては応援しますよ。言ったでしょう、私の夢は自由な世界を作ることなのです。胸を張ってハリとヤミさんとともに暮らすことが叶うような。ユミさんはその先駆けになれるのではないかと期待しているのです」
 クイの言葉を真に受けて良いのだろうか。ユミのもりすに腹黒い心の底まで読む力は備わっていない。
 とは言え、先ほどクイのことは「利用する」と発言した。逆にクイがユミのことを利用しようと考えていてもそれはある程度受け入れざるを得ない。
 もちろん許容できない件については断固拒否をするつもりではある。
 歪ではあるが、これも持ちつ持たれつの関係なのだ。

「クイさんは女から女へ鴛鴦文おしふみを渡せるような仕組みを作り上げたってことだよね」
「ええ、端的に言えばそうですね」
「じゃあ、たとえばさぁ……」
 ユミは少しだけ躊躇う。クイへ提案するにはあまりにも身も蓋も無いことだと感じたからだ。
鴛鴦文おしふみを鳩が書けるようにはならないの?」
 鼻で笑われるかとも思ったが、クイは真剣な眼差しを返してくる。
「そうですね……。結論から言えば難しいでしょうね」
 しかし答えは期待するようなものではなかった。その一方で、当然の答えだとも感じた。

「鳩の務めを遂行していれば見えてくることだとは思いますが、鳩が鴛鴦文おしふみを書くことはあまり意味のないことなのです」
「うん、それは分かる」
「鳩は大きく分けて2通り。トミサの鳩か、それ以外の村の鳩か。各村を渡り歩く機会があると言う点においてはトミサの鳩の方が自由度は高いと言えるでしょう。そして人々との出会いの幅も広い」
 ユミは黙って頷く。自身のもつもりすは、ウラヤの鳩であるユミにとって過剰な性能を有していると言って良い。それ故に不自由さも感じていたのだ。
「とは言えトミサでない鳩においても、あまり出会いの幅の狭さについて不満を持つ者はいないようです。鴛鴦文おしふみによる出会いも味わい深い物があるのでしょうが、現実的には対面した相手の方がその人となりは良く見えるものです。トミサには人が多い。塀の内側という範囲でも歩き回れば、1人ぐらい気が合う者とも出会えるのでしょう」
「きっとそれが普通の感覚なんだよね。私が……、キリと出会ったことが特殊すぎたんだ」
 ユミの声がか細くなる。自身の異質さを受け入れている様も、大人になった証なのだろう。

「クイさんの話に反論はないよ。でもね、それって鴛鴦文を書きたいって鳩が居ないと言うだけで、禁止する理由にはならないよね?」
「確かにそうですね」
「クイさんは少数派である指向を持つ人の声を聞き、それを実現させた。そして私はキリと再会するために鴛鴦文おしふみという手段を使えないかと考えている。鴛鴦文を書きたい鳩なんて私だけかもしれないけど、たった1つでもこうして要望があるんだよ」
「……それは貴重な意見と言わざるを得ませんね」
 クイはさも感心という顔をして見せた。
 
 「しかし、少なくともユミさんの状況でそれを認める訳にはいきません。覚えていますか? ……当然覚えているんでしょうけど。鴛鴦文を鳩が書けない。開いてはいけない理由を」
「……鳩は飽くまでも鴛鴦文の運営の立場にあり、不正に利用できない様に」
「ええ、その通りです。ユミさんの望むことは不正に該当してしまうでしょう」
 ユミは頬を膨らませる。自身でもクイの言わんとすることが分かっていた。
「ユミさんがキリさんを指定していることに問題があるのです。鴛鴦文を交わす相手は飽くまでも第三者によって選ばれなければ公平とは言えない。」
「だったら、キリの文をソラに届けようって言うのも問題あるんじゃないの?」
 間髪入れずに言い返した。
 
「相変わらず痛い所を突いてきますね。ですがユミさん。私ができるせめてもの親切なのです。灰色領域というものを享受して頂けませんか?」
「はいいろ……、りょういき?」
「ええ、黒とも白とも判別し難い事例は存在するのです。私が鴛鴦文を女から女へ届けられるようにしたとは言いましたが、元から鳩の縛めによってそれが禁じられている訳では無いのです」
「言われてみれば……、そうだね」
 雛の講義の時点で鳩の縛めの全項に眼を通している。それは膨大な量ではあるが、完璧に覚えていなくても問題の生じる事例は少ない。縛めの大概は人としての常識に基づく内容だからだ。
 故にユミも、鴛鴦文は男から女へ、女から男へと渡すものだと考えてしまっていた。しかし、もりすに刻まれた記憶を思い返せば、同性間でのやり取りを禁じると明文化されている訳でもないと気づく。
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