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5章:ある少女に花束を
第7話
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「の、の、残された寿命から考えると、わ、わ、わた、私が死ぬのは、あ、あ、秋頃になると思うのよね。そ、そ、その頃に播種するお花で、い、いく、幾つか候補を考えているの」
「ふむふむ。参考になるっス」
「い、いま、今のところの最有力候補は、わ、わ、ワスレナグサかな…」
「ワスレナグサ…。本星崎先輩っぽくっていいですね」
「わ、わ、わ、私っぽい…」
「伊奈先輩は何の花にするんスか?」
「あたくしは、クチナシにしようかと思いますの」
「クチナシ? っスか? 死人にクチナシ?」
「うふふ。まだ死ぬことに対する実感や恐怖がない今なら、笑えるシャレですわね。クチナシは種から育てると、発芽するまでに何年かかかるみたいなのですけれど、開花すると、とてもいい香りがするんですのよ…。白いお花が咲いて…。初夏のお花ですわね」
「白いお花…。あ~、なんとなく、伊奈先輩の印象ってそんな感じかもしれないスね。堀田先輩はどうスか?」
「アタシ? アタシも、考え方は本星崎さんと近いかな。まだスキル発現していないから、播種時期はあまり気にせずに、秋に見頃の花がいいかな、って。だから、バラにしようと思うのよね」
「おお、バラ! 堀田さんっぽいっスね」
「ふふ。死んじゃっても、トゲのある女でいたいじゃない? まあ、バラも種から育てるとほとんど発芽しないみたいだけどね」
「鳴海先輩は? 鳴海先輩はどうするんスか?」
「僕? 僕は…まだ決めてない」
「あ~鳴海先輩。桜チャンに、事前にちゃんと決めておくように言われてたじゃないスか」
「うん。そうなんだけれどね…。なんというか、僕自身のための花の種じゃなくて、桜に似合う種を選びたいな、って思ってさ」
「それって、桜チャンの分を鳴海先輩が買うって事ですか?」
「いや、まあ…そうだね。そうかも。でも、桜と別にそういう約束はしていないんだけどね」
「ふ~ん。ま、いいや。鳴海先輩が桜チャンのイメージで何を選ぶか、ちょっと興味ありますね」
「興味って…」
「ところで、鳴海さん、みなさんでお花の種を買いに行くなんて、ステキですけれど、何に使うんですか? 学校の花壇の管理とかですか?」
「あ…そうか。上小田井くんは何もきいてなかったんだもんね。そうだな…。まあ、そんな感じかな。僕はスイカとか、食べられる植物がいいんじゃないかと思ったんだけどね」
「えへ、それは確かにそうですね」
(本星崎、上小田井くんには聞かれないように教えて欲しいんだけれど、彼のスキルについては鑑定できそうなのか?)
(え、え、ええ…。か、か、か、鑑定は試みたわ…)
(どんなスキルか、教えて貰えるかな?)
(そ、そ、それ、それが…。な、な、なんて言えばいいのかな…)
(もしかして、スキル鑑定できなかったのか? 神宮前みたいに)
(い、いえ…。か、かん、鑑定はできたわ。で、で、で、でも…な、なんというか…ざ、ざ、ざん、残念だけれど、わた、わた、私には、か、か、上小田井くんのスキルを、り、りか、理解できない…)
(理解できない…? それはどういうことなんだろうか)
(せ、せ、せつ、説明が難しいな…)
(そもそも本星崎のスキル鑑定は、本星崎自身の目にはどう見えてるんだ? 僕の数値化のスキルみたいに、文字が浮かんで見えるとか?)
(も、も、も、文字? 文字や文章ではないわね)
(そうか…。客観的な数字ならともかく、文脈のある言語で表示された時点で、スキル自体がなんらかの独自言語解釈を具備している事になるのか。つまり、スキルが本星崎の中に存在する、自由意志をもった別の人格という事になるけれど、そうではない、という事だ。まあそうだよな…)
(ス、スキ、スキル鑑定は、わ、わ、私が、その人のスキルを、つ、つ、追体験するような感じ…)
(追体験? つまり、あたかも本星崎が、その人のスキルを使ってみたかのような感覚ってこと?)
(え、え、ええ。そ、その、その認識で合ってる。だ、だ、だから、じん、じん、神宮前さんみたいなスキルは、つ、つい、追体験ができないから、か、か、か、鑑定できない…)
(なるほどな…。という事は、上小田井くんのスキルについては、追体験はできるけれど、その内容が理解できない、ってことか)
(そ、そ、そう、そうなの…。な、なる、鳴海くんなら、り、り、理解ができるのかもしれないのに…。だ、だ、だめ。わ、わた、私じゃ、わからない)
(僕と本星崎の学力に差があるかどうかはおいておいて、その言い方だと、ある程度の知識量や論理的思考能力がないと、理解できないスキルみたいだな…)
(そ、そ、そ、そうね…。あ、あえ、あえて上小田井くんのスキルを、こ、こ、こと、言葉にすると…『どこにでもあるけれど、どこにでもない、という事を、操作するスキル』かな…)
(どこにでもあるけれど…どこにでもない…。トンチだな…)
(ご、ごめ、ごめんなさい…。わ、わ、私では、こ、ここまでが限界)
(うん。わかった。ありがとう、頑張ってくれて。でも、そんな意味のわからないスキルが、何かの役に立つんだろうか)
(す、す、全てのスキルが、人の役に立つとは限らない…。で、で、でも、や、や、や、やっぱり、自然発現のスキルは、わ、わた、私たち人工発現のスキルとは、ちょ、ちょ、ちょっと違うみたいね…。と、と、ところで、上小田井くんの寿命は、か、か、か、確認したの?)
(ああ、した。多分、本人が自分のスキル発現に気付いていないんだと思うけど、まだ3ヶ月弱の寿命がある。でも、3ヶ月弱だ。スキル発現者にしては残っている方だけれど、普通の小学生と比較すると圧倒的に短い…。どう本人に伝えるべきか…)
「ふむふむ。参考になるっス」
「い、いま、今のところの最有力候補は、わ、わ、ワスレナグサかな…」
「ワスレナグサ…。本星崎先輩っぽくっていいですね」
「わ、わ、わ、私っぽい…」
「伊奈先輩は何の花にするんスか?」
「あたくしは、クチナシにしようかと思いますの」
「クチナシ? っスか? 死人にクチナシ?」
「うふふ。まだ死ぬことに対する実感や恐怖がない今なら、笑えるシャレですわね。クチナシは種から育てると、発芽するまでに何年かかかるみたいなのですけれど、開花すると、とてもいい香りがするんですのよ…。白いお花が咲いて…。初夏のお花ですわね」
「白いお花…。あ~、なんとなく、伊奈先輩の印象ってそんな感じかもしれないスね。堀田先輩はどうスか?」
「アタシ? アタシも、考え方は本星崎さんと近いかな。まだスキル発現していないから、播種時期はあまり気にせずに、秋に見頃の花がいいかな、って。だから、バラにしようと思うのよね」
「おお、バラ! 堀田さんっぽいっスね」
「ふふ。死んじゃっても、トゲのある女でいたいじゃない? まあ、バラも種から育てるとほとんど発芽しないみたいだけどね」
「鳴海先輩は? 鳴海先輩はどうするんスか?」
「僕? 僕は…まだ決めてない」
「あ~鳴海先輩。桜チャンに、事前にちゃんと決めておくように言われてたじゃないスか」
「うん。そうなんだけれどね…。なんというか、僕自身のための花の種じゃなくて、桜に似合う種を選びたいな、って思ってさ」
「それって、桜チャンの分を鳴海先輩が買うって事ですか?」
「いや、まあ…そうだね。そうかも。でも、桜と別にそういう約束はしていないんだけどね」
「ふ~ん。ま、いいや。鳴海先輩が桜チャンのイメージで何を選ぶか、ちょっと興味ありますね」
「興味って…」
「ところで、鳴海さん、みなさんでお花の種を買いに行くなんて、ステキですけれど、何に使うんですか? 学校の花壇の管理とかですか?」
「あ…そうか。上小田井くんは何もきいてなかったんだもんね。そうだな…。まあ、そんな感じかな。僕はスイカとか、食べられる植物がいいんじゃないかと思ったんだけどね」
「えへ、それは確かにそうですね」
(本星崎、上小田井くんには聞かれないように教えて欲しいんだけれど、彼のスキルについては鑑定できそうなのか?)
(え、え、ええ…。か、か、か、鑑定は試みたわ…)
(どんなスキルか、教えて貰えるかな?)
(そ、そ、それ、それが…。な、な、なんて言えばいいのかな…)
(もしかして、スキル鑑定できなかったのか? 神宮前みたいに)
(い、いえ…。か、かん、鑑定はできたわ。で、で、で、でも…な、なんというか…ざ、ざ、ざん、残念だけれど、わた、わた、私には、か、か、上小田井くんのスキルを、り、りか、理解できない…)
(理解できない…? それはどういうことなんだろうか)
(せ、せ、せつ、説明が難しいな…)
(そもそも本星崎のスキル鑑定は、本星崎自身の目にはどう見えてるんだ? 僕の数値化のスキルみたいに、文字が浮かんで見えるとか?)
(も、も、も、文字? 文字や文章ではないわね)
(そうか…。客観的な数字ならともかく、文脈のある言語で表示された時点で、スキル自体がなんらかの独自言語解釈を具備している事になるのか。つまり、スキルが本星崎の中に存在する、自由意志をもった別の人格という事になるけれど、そうではない、という事だ。まあそうだよな…)
(ス、スキ、スキル鑑定は、わ、わ、私が、その人のスキルを、つ、つ、追体験するような感じ…)
(追体験? つまり、あたかも本星崎が、その人のスキルを使ってみたかのような感覚ってこと?)
(え、え、ええ。そ、その、その認識で合ってる。だ、だ、だから、じん、じん、神宮前さんみたいなスキルは、つ、つい、追体験ができないから、か、か、か、鑑定できない…)
(なるほどな…。という事は、上小田井くんのスキルについては、追体験はできるけれど、その内容が理解できない、ってことか)
(そ、そ、そう、そうなの…。な、なる、鳴海くんなら、り、り、理解ができるのかもしれないのに…。だ、だ、だめ。わ、わた、私じゃ、わからない)
(僕と本星崎の学力に差があるかどうかはおいておいて、その言い方だと、ある程度の知識量や論理的思考能力がないと、理解できないスキルみたいだな…)
(そ、そ、そ、そうね…。あ、あえ、あえて上小田井くんのスキルを、こ、こ、こと、言葉にすると…『どこにでもあるけれど、どこにでもない、という事を、操作するスキル』かな…)
(どこにでもあるけれど…どこにでもない…。トンチだな…)
(ご、ごめ、ごめんなさい…。わ、わ、私では、こ、ここまでが限界)
(うん。わかった。ありがとう、頑張ってくれて。でも、そんな意味のわからないスキルが、何かの役に立つんだろうか)
(す、す、全てのスキルが、人の役に立つとは限らない…。で、で、でも、や、や、や、やっぱり、自然発現のスキルは、わ、わた、私たち人工発現のスキルとは、ちょ、ちょ、ちょっと違うみたいね…。と、と、ところで、上小田井くんの寿命は、か、か、か、確認したの?)
(ああ、した。多分、本人が自分のスキル発現に気付いていないんだと思うけど、まだ3ヶ月弱の寿命がある。でも、3ヶ月弱だ。スキル発現者にしては残っている方だけれど、普通の小学生と比較すると圧倒的に短い…。どう本人に伝えるべきか…)
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