間隙のヒポクライシス

ぼを

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6章:失われた夏への扉を求めて

第20話

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「あれ…? 鳴海くん! 後ろ! 海の方見て…何か、変じゃない?」
「変…だって?」
「ほら…遠くの方から…」
「…なんだ? あれは…霧…だろうか。それにしてもすごい規模だ。豊橋、なんだと思う?」
「なんだもどうもなかろう。お前が言う通り、霧が発生しているだけだ」
「…確かにそうなんだけれど、なんか不自然だ。海面温度がそんなに下がる理由がわからないし、霧にしても量が多すぎる。まるで…壁じゃないか」
「ふむ。俺も、このような自然現象に思い当たりはないな。このままだと、ゴブリンと本星崎と呼続が霧の中に巻き込まれる。念のために呼び戻した方がよかろう」
「きゃあ! な、鳴海くん!」
「ど、どうした? 桜」
「あ…あれ…いま、見た? 海の上を飛んでいた鳥が…鳥が…」
「鳥だと? 鳥なんかいたか?」
「見て…あそこから、もう1羽、霧の中に飛び込んで行く鳥が…ほら!!」
「…あっ! な、なんだと…! と、豊橋…」
「ああ。俺も見た。霧に飛び込む瞬間、鳥が蒸発したように見えた」
「見間違いじゃないよな? ただ、霧の中に消えて見えなくなっただけじゃないよな?」
「違う。霧に入る直前に蒸発した」
「しかし…血が飛び散ったりとか、そういう様子もなかったぞ…」
「見ろ。また、数羽の群れが飛び込んでいく」
「…あっ! やっぱり…霧に飛び込む前に、次々に蒸発しちゃった…。ねえ、豊橋さん、鳴海くん…。どういうことかな…。あたし…怖い…」
「まずいな。スキル攻撃と見て間違いなかろう」
「豊橋…。蒸発した、ってことは、あの目隠しの女の子みたいなスキルだろうか…。でも、スキルにしては規模が大きすぎやしないか?」
「現時点では何も判断ができんな。とりあえず、全員退避した方がよい」
「桜、堀田さんたちを避難させて欲しい。どこか建物でもあればいいけれど…とにかく、遠くに逃げるんだ。僕と豊橋は、ゴブリンたちに声をかけてくる」
「あたしが鳴海くんと行くよ! 堀田さんたちは、豊橋さんに任せた方が安心でしょ? それに…こういう命に関わる時には、一緒に行動をするって…約束したよ?」
「俺はどちらでも構わん。あまり時間がない。迷うべき選択肢じゃない」
「わかったよ。じゃあ、桜は、僕と一緒にゴブリンたちの所に行こう」
「スキル攻撃だとしたら、海の家の陰に隠れた程度で、意味は期待できまい。とにかく、霧が届かないほど海岸線から離れる事だ」
「…ああ、できるだけ早く、遠くに逃げるよ」

「ゴブリン! ゴブリン! 顔をあげて、沖の方を見ろ!」
「なんか言った? 今、ザキモトさんにバタ足を教えているところなんだ」
「ゴブさん! いいから、沖合を見て! 危険な霧が迫っているの!」
「な、なんだって…? えっと…。おお~、本当だ。すごい霧だなあ~」
「ゴブリン、呑気に感心している場合じゃないんだ! あの霧は、スキル攻撃だ! 早く、陸地に逃げるんだ!」
「スキル…だって? そんな、誰が、何のために? ま、まさか、オレたちを狙っている訳じゃないよね?」
「ゴ、ゴ、ゴ、ゴブさん、と、と、とにかく、にげ、に、逃げましょう。な、な、なる、鳴海くんたちの様子が、じ、じん、尋常じゃない」
「…わ、わかったよ。ザキモトさんは、自分の足で走れる?」
「う、う、うん…。だ、だい、大丈夫。ゴ、ゴ、ゴブさんは、よび、よび、呼続ちゃんを背負ってあげて」
「了解したよ。よし、じゃあ、呼続ちゃん、オレがおんぶしてやるよ。ほら…そう。おいで。よっこいしょ、っと」
「ゴブリンお兄ちゃん、わたし、重くない? 今…体が大きいから…」
「だ、大丈夫だよ。ちょ、ちょっと背中に当たってるけど…」
「よし、ゴブリンこっちだ!」
「走るよ。ゆれるけど、我慢してね。えいやっ!」
「…鳴海くん…もう、こんなに迫ってきちゃった…ね…。あたりが暗くなってきたよ…。あたしたち、間に合うかなあ…逃げるの…」
「とりあえず、全員の寿命を確認している限り、逃げ切れると思う。ゴブリンの寿命が中途半端になっている気がするけど…それでも、死ぬのはここじゃない」
「中途半端…?」
「今は深く考える時間がない。スキルの寿命で死ぬような短さではない、って事だよ。いいぞ、ゴブリン、こっちだ。よし、ここからは一緒に走ろう」
「ど、どこに向かって走ればいい?」
「とにかく、できるだけ海岸線から離れる!」
「わ、わかった。それにしても、びっくりしたよ。こんな所で命を狙われるなんて思わないよな…」
「狙われたのかどうかも、現時点ではわからないけれどね。ゴブリン、背負いながら、このスピードで大丈夫か?」
「大丈夫…あ、やべ! うわ!」

 ドサッ!

「ゴブリン! 大丈夫か!? …盛大に転倒したな」
「オ、オレは大丈夫。よ、呼続ちゃんを頼むよ」
「わかった、ここからは僕が背負うよ…。なんだ…あれは…」
「鳴海くん…? 今度は、何を見つけたの…?」
「蒸発しているのは…海水や鳥や魚だけじゃない…のか? あれは…石や流木も蒸発してる? …違う…海岸線そのものが蒸発しているんだ…」
「そ、そ、それ、それって、どういう事なの…?」
「わからない…。スキルの正体が、全くわからない…」
「くすん、くすん。鳴海お兄ちゃん、怖い…怖いよお…」
「とにかく、はやく逃げなきゃ! ゴブリン、起きあがれるか!?」
「だ、大丈夫だよ。強く挫いちゃったけれど…。それより、時間がないだろ? オレの事は放って置いて、逃げなよ!」
「バカ、そんな事できるわけ無いだろ。大体、ゴブリンはここで死ぬ予定じゃないんだよ。ほら、手を貸して」
「でも、呼継ちゃんを先に…」
「よ、よ、よび、呼継ちゃんは、私が手を引いて走るから」
「わ、わかったよ。よし、じゃあ行こう。ナルルン、立ち上がるから、引っ張ってくれるかい?」
「もちろんだ。いくぞ。いち、に、さん!」
「恩に着るよ。さあ、逃げよう!」
「逃げよう…って…。ゴブリン…足を引きずってるじゃないか…。うまく走れないのか?」
「捻挫したっぽいな…。やっぱりオレの事はいいから、早く逃げてくれよ! オレのせいで、ナルルンやさっちゃんやザキモトさんや呼続ちゃんが死んじゃったら、オレ、耐えられないよ!」
「置いていけるかよ! 僕は、これ以上、ひとりだって仲間を失いたくないんだ! 僕はもう、神宮前だって奪われてるんだ! これ以上奪わせてたまるかよ!」
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