星のテロメア

ぼを

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第9話:コールドスリープ-1

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「言っとくけどさ、僕も、住民票の取り方なんて詳しく知らないんだぜ?」
「いいんス。だって、ボク、ひとりで行くの、緊張しちゃいますもん。鳴海センパイでも、いてくれるだけ心強いんスよ」
「鳴海センパイでも、は余計だよ…。まあ、ひとりで行きたくないのは、それはそれで共感するけどさ…。でも、何のために住民票なんか必要なんだ?」
「そんなの、決まってるじゃないスか。ボクが、本人である事を証明するためですよ」
「いや、それは解るけどさ。何のために、本人性を証明しなきゃいけないのかって事だよ」
「それ、訊いて、鳴海センパイに何か得があります?」
「得って…いや、まあ、詮索するような事じゃなかったな…。ごめん、謝るよ。言いたくない事なら、言う必要ないよ」
「あはは! 鳴海センパイを困らせちゃった。せっかくついてきて貰うんスから、理由をだんまりって訳にはいかないスよね。今、話せる範囲で、少しだけお話ししますね」
「まるで、深刻な内容みたいな口ぶりだな…」
「そう、深刻、深刻っスよ。だって、ボク、もうすぐ旅立たなきゃならないんスもの」
「旅立つ? どこへ? そのために住民票が必要なの?」
「どこへ、と訊かれると答えに詰まるな~。でも遠くっス…。住民票は、そのためっスね~」
「遠く? もしかして、地球外だったりする? 僕ら、何年も神宮前と会えなくなったりするの?」
「距離的な遠さはないっスね。どちらかというと時間的な遠さです」
「要領を得ないな。何年くらい、会えなくなるんだ?」
「生きているうちは会えないっス」
「は?」
「だから、生きているうちは会えないくらい、長い間、旅立つ予定なんスよ。理解できました? あ、それとも鳴海センパイ、テロメア延長します? ボクのために」
「テロメア延長って…」
「あ、ほら鳴海センパイ、あの建物じゃないスか? 受付時間が終わっちゃう前に、急いで住民票取ってしまいましょう」

「や、こんなに早く取得できるとは思わなかったスね~」
「こんなにって、WEBで取得できるからわざわざ来る必要なかった、って言われたじゃないか」
「あはは! まあまあ、細かい事は気にしないでくださいよ。おかげで、ボクとデートできて楽しかったでしょ?」
「デートのつもりだったのかよ…。でも、そうか、直接住民票を取りにこれば、委任状さえあれば代理人として他人の住民票も取れるんだな…」
「ん? なんスか、その紙?」
「あ、いや、住民票取得の説明用紙が置いてあったから、貰ってきただけなんだけど…」
「ふ~ん」
「それで…神宮前…」
「はい?」
「さっき言ってた、生きている間はもう2度と会えないくらい遠くに旅立つって話…どのくらい信じてしまっていいんだろうか?」
「鳴海センパイ、気にしてくれてんスか?」
「そりゃ、気になるよ」
「あはは。そうっスか。ちょっと嬉しいかな」
「で?」
「うん。100%信じて貰って大丈夫っスよ。ボクと鳴海センパイは、2度と会えません」
「そんな軽い調子で言われてもな~…」
「まあまあ、近いうちにわかりますよ。でも、今はもう少しだけ、秘密にさせてください」
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