星のテロメア

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第8話:ホワイトノイズ

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「左京山、ちょっといいかな…」
「……………」
「あ、ごめん、ヘッドフォン…。何か聴いてるのか…」
「…なに? 何か用?」
「ヘッドフォンをはずさせちゃってごめん」
「…別に。そんなに大したものを聴いているわけじゃないから」
「…そういえば、左京山っていつもヘッドフォンをしてるか、してなくとも首にかけてるよね。どんな曲を聴いてるの?」
「…わたしに用って、それ?」
「あ、いや…そうじゃないけど」
「…まあ、どうでもいいけど。聴いてみる?」
「え? あ、いいの?」
「…どうぞ。再生中だから」
「あ、ありがとう…。ん…? なんだこれ…」
「…ヘッドフォンから流れてくるのが、いつも音楽だけとは、限らない」
「これ…ずっと続くのか?」
「…そうね。ずっと続くわ」
「でもこれ…これって、ただのホワイトノイズじゃないか」
「…あんたには、そう聞こえるのかもしれないわね」
「僕には…? 左京山には、違って聞こえるのか?」
「…そうね。そういう事になるわね」
「そ、そうなんだ…」
「…で? 何の用なの?」
「あ…えっと。調子狂うな…。左京山に訊きたい事があって」
「…わたしに? 何?」
「豊橋と、桜に関する事で何か話をしたかな、って思って」
「…桜について? …そうね。したかもね」
「それって、どんな内容だった?」
「…あんた、桜とつきあってるんだっけ?」
「桜と? いや…まだつきあってはいない」
「…そう。なら、何を伝えても問題はないってことね」
「…そうだね。桜について知っている事を教えてほしい」
「…でも、豊橋から聞いたんでしょ?」
「豊橋から聞いた事がどのくらい確からしいのかを確かめたいから、左京山に訊いてるんだよ」
「…そう。じゃあ、新しい情報はなにもないわ。わたしが知っているのは、桜が高校生を何回も繰り返しているってことだけ」
「それって、やっぱり桜は、僕たちよりも年上って事なのかな?」
「…理屈では、そうなるわね」
「それ以外に知っていることは? 桜が、何回も高校生活を繰り返している理由を知りたい」
「…そこまでは、知らない。本人に訊いてみればいいじゃない」
「それはできれば、最後の手段にしたい」
「…そう。お好きにどうぞ」
「ちなみに、左京山は桜のその情報を、誰から聞いたんだ?」
「…キティから」
「キティ? 誰?」
「…キティは、わたしのタルパ。わたしの本当の友達。学校では姿を表す事はないけれど、そのホワイトノイズの奥から話しかけてくれる。わたしはヘッドフォンを通して、心の中で会話をしている」
「タルパ…? 一体、何の話をしてるんだ?」
「…知らないの? イマジナリーフレンドの事よ」
「要領を得ないな…。つまり、それって、左京山の想像上の友達ってこと?」
「…ひとことで言ってしまえばね。でも、あんたが思っているよりも、ずっとリアルな友達よ。わたしには、姿が見えるし、触れることもできるし、会話もできる」
「な、なるほど。でも、そのキティが言っていた、という事は、桜の事は左京山の空想ってこと?」
「…それは違うわね。だって、キティは桜の事について、先生のデスクに置いてあった書類から知ったんだもの」
「先生のデスク? 職員室の?」
「…物理の先生」
「ああ、あの爺さんか。なんであの爺さんが…。それに、キティは想像上の友達なんだろ? ひとりで職員室に行って先生のデスクの書類を読むことなんて…」
「…そうね。できない」
「それって…つまり?」
「…わたしが直接、物理の先生のデスクで見た。たまたま別の用件で職員室に行った時にね」
「な、なるほど…。だいぶまわりくどかったけれど、情報源が物理の先生だという事はわかったよ。ありがとう」
「…どういたしまして」
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