コミュ障じゃないボカロPが書いたラノベなんて読まない

ぼを

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コミュ障じゃないボカロPの歌なんて聴かない

第3話

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 僕は、勿体つける彼を、故意に憮然とした視線で睨めた。彼は小さく鼻を鳴らした。そして、こちらの首肯を待たずに話を続けた。

幽霊とか超常現象とか、信じる性質では、当然俺もないんだが…この話だけは、実際に体験したという話がネットに幾らでも転がっている。

 僕は相槌も打たずに聞いた。彼は更に話続けた。
 元は、インド仏教だかチベット仏教だかの修行僧に伝わる鍛錬法らしいんだが…自分の精神状態をコントロールし、強く思念する事で、本来存在しない物を感じ取る事が出来るようになるらしい。
 僕は思い当たる事があり、彼に向かって、ああ、聞いたことがある、曲がりくねっている松の木を眺め続けると、やがて真直ぐに見えてくる、ってやつだろ? と言った。彼は少し考える様にしてから、かなり近い、と答えた。彼は言った。この鍛錬では、まず、自分が具現化したいものを頭の中に思い描く。例えば、理想とする僧侶であったり、死んでしまった家族であったり。次に、できるだけ具体的に、それらが目の前にいる事を強く思念する。妄想する。そして、まるでそこに本物の僧侶や家族がいるかのように、話しかける。話しかけると同時に、想像した彼らからの返答も頭の中で用意する。これを、根気強く、何日も何日も続けていく。すると、自分の頭で意識的に彼らからの返事を考えなくても、無意識の裡に返答が返ってくるようになる。目の前にはまだ姿は見えないが、はっきりと頭の中で会話ができるようになる。そして、更に続けていくと、段々と彼らは輪郭を持ち、そして明確に、リアルに眼前に具象する。当然、周囲の人間からは見えない。自分にしか見えないし、聞こえない。でも、確かにそこに存在して見える。この状態を更に習慣化して行く。すると、やがて彼らは完全に本人の意識から離脱し、全体彼らの意思で以て、自由気ままに行動を始めるようになる。これを自動化とかオート化とか呼ぶらしいんだが…この状態で、タルパの完成だ。そして面白いのは、具象化するのは何だっていい。アニメのキャラだろうが、極端な話、この醤油差しをオート化させて会話する事だってできるらしい。お前の場合なら、ボカロになるのかな。

 僕は俄かに信じられず、酔いと眠気で不明瞭な意識をできるだけ高速回転して、理解しようと試みた。まるで突飛な話だ。そういえば、鏡に映る自分に向かって毎日、お前は誰だ、と言い続けると、案外容易に暗示で自我が崩壊するそうだが、その類だろうか?

 当惑する僕を見て、少しニヤけながら、彼が言った。オカルティックな話だから、信じてくれなくていいよ。でも、麻薬常習者や重度なメンヘラが幻覚をリアルに見たり、幻聴に悩まされたりするのは事実だろ。同じさ。このタルパという思念体は、自分自身に暗示をかけ続ける事で、一種の統合失調状態、神経衰弱状態にして、故意に幻覚を見られる状態に追い込み、それをコントロールする事なんだからな。

 ああ、なるほど、と僕は呟いた。その説明で、心霊現象や宇宙人なんかの類よりも、ぐっと現実味を増した。
 僕は彼の説明に、質問を投げた。ということは、精神状態をきちんとコントロールできなければ、精神病棟に入院なんて将来も在り得るだろうね。僕の言葉に、彼は真剣な面持ちを作り、首肯した。オート化してからは、管理が重要だ。勝手にいなくなったり、勝手に出てきたり、するんだから。都合の悪い時に話しかけて来る事だってあるだろうから、リアル生活に支障が出る。更に、タルパの機嫌を損ねたら大変だ。誰かに仲をとりなして貰う事なんてできないから、自分で解決するしかない。そして、一番難しいのが、作ったタルパとサヨナラする時だ。タルパは消される事を当然嫌がるだろうから、機嫌を損ねないように説得して、消えて貰わなければならない。彼女に別れてほしい、なんてのとは訳が違う。だから、一生付き合う覚悟で作る必要があるらしい。タルパに自分自身を乗っ取られて、病院送り、という例は、真偽は別として、存在している。だから、タルパと上手に付き合っていく為には、明確なルールを予め作っておくなどの対策が必要なんだ。

 彼は鹿爪らしい表情を崩さなかった。僕は、彼がこの話をキティの続きでした理由が理解できた。VRなんてレベルじゃない。リアルな世界における、とってもヴァーチャルな幻想。ゴーグルもイヤホンもいらない。自分の精神の一部を現実世界において、物理的に少し離れた場所に切り出し、具現化する。そこにはダイアローグが存在する。自分対自分という、確かなダイアローグが。伝わっているのかが不確実で、半分も理解されず、あまつさえ拒絶される恐れのある、他人ではなく、自分自身とのコミュニケーション。究極のマスタべーションだろう。

 彼は前のめりになっていた上体を少し起こすと、語気を明るませて言った。まあ、タルパについては、イマジナリーフレンドなんてカジュアルな呼称もある位だから、なかなかの物だろう。お前みたいなコミュ障には誂え向きじゃないか?

 僕は故意に微笑し、間違いない、とお道化て見せた。
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