コミュ障じゃないボカロPが書いたラノベなんて読まない

ぼを

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Zayin(ザイン)

第8話

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 有香は、CDのジャケットから歌詞カードを抜くと、得意げに僕に差し出して来た。僕は、それを受け取ると、ゆっくりと開いた。CD自体はコンピアルバムの様で、複数のサークルが一定のテーマに沿って曲を出し合って、一枚のCDになった物だ。僕は鉛筆をとると、紙に、どれが有香の曲なの、と書いて訊いた。有香は、僕から歌詞カードを取り上げると、数ページ繰り、指で差しながら僕に渡して来た。「Zayin」という曲名で、作詞者の所に、如月とあった。そういえば彼女は、学生代に如月というペンネームを使っていた。単純に、誕生日が2月だから、という理由なんだけれど、今でも使ってるんだな、この名前。

 僕は、歌詞を一通り読んだ。旋律に合わせているからだろう、とてもまとまった文字数で、テンポよく読める。ところどころ韻が踏んであったり、メタファーっぽい事を皮肉にならない言葉で表現しているのは彼女っぽい。歌詞だけで、なんとなく曲調まで想像できてしまうような、そんな言葉遣いがされていた。

(いいね)僕が書いた。(素敵だね。有香らしい歌詞だと思うよ)
 有香ははにかむように笑うと、ありがとう、と書いた。
(タイトルはどう読むの?)
 僕が訊いた。
(「ザイン」だよ)
有香が書いた。
(どういう意味の言葉?)
(今回は、「数字」をテーマにしたコンピなのね)紙が埋まってしまい、有香は裏面に返した。(「ザイン」は、ヘブライ語で「7」の意味。実は、7拍子の曲なんだよ)
 なるほど、だから彼女は、僕のブースで足を止めたのか。色々な偶然が重なっている訳だ。
(それだけだと)僕が書いた。(歌詞の内容とリンクしないね)
(もう一つ意味があってね)有香が書いた。(「Zayin」には「実在」とか「存在」といった意味もあるの)
 有香の言葉を読んで、得心が言った。歌詞の中には、ところどころ「聞こえて欲しい」とか「届いて欲しい」といったような言葉が出てくる。自分が存在している事を他者に承認されたい気持ちを詠んだ歌なんだ。

(じゃあ、この「トトト・ツーツーツー・トトト」っていう言葉は何?)
 有香は悪戯っぽい笑顔を見せながら、僕から鉛筆を取った。それから、鉛筆をひっくり返すと、裏の平な面を使ってテーブルの上を、トトト・トントントン・トトト、と叩いた。
(秘密)有香が書いた。(自分で調べてみてよね)

 言われて、僕は苦笑しながらスマホを取り出した。が、それを有香が制した。有香はゆっくりとかぶりを数度振りながら、ちゃんと歌を聴いて、意味を考えてから調べて、と書いた。なるほどね。

 有香は歌詞カードをジャケットに仕舞うと、僕にCDを渡して来た。僕は仕草で礼を言ってから、それを受け取った。
(ありがとう。聴き終わったら返すから)
 僕が書くと、有香は一瞬かぶりを振ってから、少し考えるようにして、じゃあ、次に会うとき返してね、と書いた。僕は頷いた。

(歌詞を書くのは、詩を書くのと、きっと違うよね)
 僕が訊いた。彼女は首肯した。
(人にもよるけど、わたしは曲が出来上がった後に歌詞をつけるから、曲に左右されるね)
(僕も曲が先だけど、時々、歌詞を先に考えた方がいいと思うときもあるよ)
(それは、自分で曲も作ってるからだよね)
(どういう事?)
(わたしは自分で曲を作れないから、わたしが書いた歌詞に曲が左右されるのはなんか違うと思って…)

 なるほど。確かに大きな問題だ。歌詞を先に作ると、作詞家が余程頭の中で曲のイメージがない限り、作曲家がそれに合わせる事になる。1小節の音の数が作詞に左右されるのは事実だ。歌詞が後なら、曲の音数に合わせるだけだから、作詞自体は難しくなるけど、曲が尊重される。でも、これはどっちを重視するか、とか、どっちがやりやすいか、といった問題で、正解はないんだろうな。

(今回は特に7拍子だから、変拍子を考慮した作詞なんて難しすぎてわたしには無理)
 間違いない。
(有香は、他にどんな歌詞を書くの?)
(いろいろ)
(例えば?)
(う~ん)
 有香は、少し考えるようにすると、俯いてしまった。
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