コミュ障じゃないボカロPが書いたラノベなんて読まない

ぼを

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サンタの存在証明

第12話

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「依存ね…」有香がようやっと口を開いた。「確かに、そうだよね」
「…ごめんね」僕が言った。「気に障る事を言ったみたいだ…」
「ううん」有香が、手の甲で涙を拭いながら、僕の方を見て、言った。彼女はもともと色白で薄化粧だからか、涙を拭っても崩れる事がなかった。「本当はね、多分、わたし、解ってたんだ」有香が続けた。「先輩のタルパと同棲状態を続けて、随分寂しさがなくなったんだもの。嘘の存在だとしても、物凄く充実感があるんだよ」
 それは凄く解る…。
「いいよ」有香が言葉を切ったので、僕が言った。「話を続けて欲しいな」
 有香が頷いた。
「だからね、わたし、タルパがわたしの人生を侵食して、わたしを台無しにしてしまったとしても、それできっと、満足できてしまうんだと思っていたの」

 僕は不図、何かで、現実世界に絶望して、夢の中の世界で生きるために、眠り続ける女性の物語を読んだ事を思い出した。僕は、彼女の考え方を到底否定し得なかった。こんな時、そんな寂しい考え方するなよ、前を向いて生きて行こうよ、なんて、少年漫画とかでは言うんだろうけれど、僕は、自分自身を鑑みてもそうだけれど、遁走を圧倒的に否定しないし、それがタルパと心中して自殺という結論だったとしても、そんな人生もありだと思っている。
「そんな覚悟、キミにはないよね」
 ミコが口を挟んできた。僕は苦笑すると、ないよ、と答えた。ミコは拗ねるかと思ったけれど、満足そうに頷いた。

 有香が落ち着いた頃、既に終電間際だった。僕等は静かな裏路地を歩きながら、他愛のない話をした。
「本当はね…」有香が言った。「まさか、本物の先輩と、東京で偶然に出会えるとは思わなかったから、タルパとはこれでお別れかな、って思ったの」
「それって、どういう事?」
 僕の言葉に、有香は照れる様に笑った。
「ううん。ごめんなさい」
 有香は少し俯く様にすると、言葉を止めた。
「…詮索したら、野暮かな?」
 有香は、泣いてすっきりした後の笑顔で以て、うん、と頷いた。それで、僕もそれ以上を訊くのはやめた。僕と有香との関係がこれからどうなっていくかは解らないけれど、僕にはまだミコを失う覚悟ができていなかったからだ。
「ありがと」ミコが言った。「でも、あまり気にしない方がいいよ」
 どういう事? ミコは、自分が消える事に対して、怖いとか、寂しいとか、ないの?
「あるよ」ミコが返して来た。「勿論、ある。でも、ボクの存在意義は、キミがコミュニケーションに対するコンプレックスを解消する事だから、ボクが邪魔になる訳にはいかないじゃない?」
 まあ、そうかもしれないけれど…。でも、ミコがずっと一緒にいてくれる、という選択肢だって、恐らく、ある。
「それにね。多分、この娘が原因でボクが消える事はないと思うな…」
 え? どうして…?
 ミコは僕の言葉に、ううん、なんでもないよ、と、はぐらす様に呟いた。それは、ミコから見て、有香が僕のリアルな彼女に成り得ない、と判断しているからだろうか。という事は、僕は無意識で、彼女をなんらか拒否しているのだ。本当にそうだろうか?

「て」
 有香が言った。気づくと、彼女は僕の横顔を覗き込んで来ていた。
「あ、ごめん。何?」
 僕が訊き返した。
「手、寒くない?」
 ああ、手ね。
「冷たいけれど、慣れてるよ」
 有香は薄く笑んだ。
「タルパの先輩とはね…」有香が囁く様に言った。「時々、こうして、手を繋いで歩くんだよ…」
 言うと、有香は僕の手を取ってきた。その手は、暖かだった。途端に、有香と初めて手を繋いで歩いた時の事が思い出された。あれも確か、今時分の季節ではなかったろうか。
 僕が有香の瞳を覗くと、有香は照れる様に、えへへ~、と笑った。
「タルパと手を繋ぐ事ができるの?」
 僕は…僕は、タルパとの接触が可能である事を知りながら、有香に問うた。
「できるよ」有香は即答した。「触る事だって、体温を感じる事だって…」有香は言葉を切って、少し間をおいて、「キスする事だって、できるよ…」と続けた。
 僕は、それを知っていたので、この回答に対して驚く事はないと思っていたけれど、タルパが自分のコピーだと思うと、なんだか言葉に出来ない妙な感情が僕の脳裡を占拠した。そして、もう一歩踏み込んで訊いてみよう、と思った。
「それじゃあさ…」僕が言った。「タルパと、セックスはできるの? というか、した事はある?」
 僕は、ミコとのセックスは結局成功していない。ミコ自身は何度か催促してくれたけれど、僕自身の勇気のなさか、一線を越えられずにいる。確かに、タルパとのセックスが成功してしまえば、依存関係はもう断ち切れないくらい強固になってしまうだろう。
「できるよ」有香は、躊躇いなく答えた。「体位とかは限られるし、お布団とか枕とかで体を代用してあげる必要があるけれどね」
 あまりにも屈託ない、純朴な笑顔で、有香が言ったので、僕は鼻白んでしまった。つまり、彼女は僕のタルパと、習慣的にセックスをしている。そんなことが、やっぱり可能なんだ…。
「それって…」解っていながら、僕は敢えて訊いた。「僕のタルパとセックスしてるって事だよね?」
 有香は、小さく、速く頷いた。それから、照れ隠しの為か、こう続けた。

「本物の先輩とセックスする事も、あるかもしれないね」
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