恋とズレの灯る店——恋を知らない彼が出会ったのは、灯りの奥で待つ「帰れる場所」だった。

だって、これも愛なの。

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第十話 「初めての手料理」

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その日、店に入ると、いつもの香りとは少し違う匂いが漂っていた。
カウンターには、まだ誰も座っていない。
店主が奥から顔を出し、俺を見るなり手を振った。

「ちょうどよかった。座ってて」
エプロン姿のまま、鍋を抱えてカウンターに戻ってくる。
湯気の向こうに見えたのは、色鮮やかな煮込み料理だった。

「今日は、これ」
皿を置きながら、店主はさらっと言う。
「特別じゃないよ、いつもの」

……特別じゃない?
「なぜ俺に出すんですか」
「今日はそれ作ってたから」
「……」
つまり偶然らしい。

一口すくって口に運ぶ。
深い味わいが舌に広がり、体の奥がほどけるように温まる。
「なぜ美味しいんですか」
「お腹空いてたからじゃない?」

その答えに、俺は箸を止めた。
合理的な説明は返ってこない。
だが、不思議とそれ以上の理由を求めたくなくなる味だった。

食べ終えるころ、店主は空いた皿を下げながら微笑んだ。
「また作るよ。……いつものだから」
言葉とは裏腹に、その笑顔は俺にとって十分“特別”だった。
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