君と過ごす"いま"が永遠

だって、これも愛なの。

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第九章 絶対に奪わせはしない。

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国外の使者が宮殿を去ったはずの夜、回廊に妙なざわめきが走った。
兵が駆け、従者たちが不安げに視線を交わしている。

「……何事だ」

私が声をかけると、ひとりの兵が顔を青ざめさせて答えた。

「殿下……! 婚約者殿の部屋の前に、不審な影が……」

胸の奥で冷たいものが弾けた。
すぐに足を向けると、廊下の端で見知らぬ男が捕らえられていた。
異国の衣に身を包み、口を固く閉ざしている。

「国外の使者の手の者か……」

重臣たちがざわめき、誰かが冷ややかに囁く。
「やはり婚約者殿を象徴に据えるべきですな。守りを固める口実にもなる」

その言葉に、拳が震えた。
彼女を“口実”にするな。

部屋の扉が開き、エリスが小さく顔を覗かせる。
「殿下……?」

「出るな!」

思わず声が鋭く響く。
彼女は驚いたようにすとんっと後ろに下がった。

捕らえられた男はすぐに連行され、事件は未然に収まった。
だが、胸の奥に影が深く残る。
国外の圧力は、ついに直接的な手を伸ばしてきたのだ。

「……殿下」
不安げに名を呼ぶ声。
振り返れば、エリスが小さな手を胸の前でぎゅっと握っている。

その姿を見た瞬間、私の中で決意がさらに強まった。
――彼女を、絶対に奪わせはしない。




捕らえられた男が連行されたあとも、胸のざわめきは収まらなかった。
国外の使者は言葉だけでなく、ついに直接の手を伸ばしてきた。
その矛先にあるのは――彼女。

「……殿下」
扉の隙間から心配そうに覗き込むエリスの声。
すとんっと小さく一歩、こちらへ出ようとする。

「来るな」

思わず強く遮った。
彼女の足が止まり、瞳が揺れる。

「……殿下?」

「もうこれ以上、君を危険に晒すわけにはいかない。
 婚約は……取り消すことも考えねばならないかもしれない」

吐き出した声が、自分でも驚くほど冷たく響いた。
だが胸の奥では、何かが軋み、砕けそうになっていた。

「……そんなこと、嫌です」

エリスの声は震えていたが、しっかりと届いてくる。
「どんなに怖くても、殿下の隣にいたいんです。
 離れることの方が、よっぽど怖い」

胸が締めつけられた。
守るために距離を置こうとしているのに、彼女はなお近づこうとする。
その健気さが、私をさらに追い詰める。

(どうすればいい……。守りたいのに、離せない)

廊下の静けさの中で、私の孤独は深まり、同時に彼女の温もりが痛いほど鮮やかに感じられた。
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