夜明け草の誓い ―政略で結ばれたふたりが見つけたのは、孤独を越える小さな光―

だって、これも愛なの。

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第三幕 告白

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春の夜、宮殿で開かれた舞踏会。
煌びやかな音楽と笑い声が渦巻く中、俺は静かに人々を眺めていた。

リリアナもまた、花のようにドレスを纏っている。
淡い桃色の裾を揺らし、慣れぬ社交に戸惑いながらも、懸命に笑みを浮かべていた。

――だが、耳に入ってきたのは冷ややかな囁きだった。

「まだ子どもにしか見えないわ」
「殿下の婚約者としては頼りないのでは?」

声の主は取り巻きの貴婦人たち。
俺の胸の奥に、鈍い痛みが走る。
政治の場では何度も悪意を浴びてきた。
だが、彼女がその矢面に立たされるのは……堪えられなかった。

気づけば足が勝手に動いていた。

「……彼女に何か不満でも?」
冷たい声で問いかけると、貴婦人たちは青ざめ、慌てて口を閉ざした。
その間に、リリアナの手を取って人影の少ない庭園へと導く。

夜の空気はひんやりと澄み、遠くで噴水が音を立てていた。
リリアナは俯き、小さな肩を震わせている。

「……殿下。わたくし……」

その姿に胸が軋む。
気づけば、抑えきれずに言葉が零れていた。

「お前は、ただ愛らしく笑っていればいい」

リリアナがはっと顔を上げる。
瞳に、涙の粒がきらめいていた。

「……それが、私の救いになる」

俺は長い間、孤独に慣れていた。
人から求められるのは役割ばかりで、心を差し出すことなど無意味だと知っていた。
けれど、この少女の笑みだけは――俺を人に戻してしまう。

リリアナの唇が震え、やがて小さく囁いた。

「わたしも……殿下の笑顔が見たいのです」

胸の奥が熱で満ちる。
遠ざけなければならない存在だと思っていたのに。
今はただ、この温もりを手放すことだけが恐ろしい。

俺は初めて、心から彼女の名を呼んだ。

「……リリアナ」

星空の下、その名は柔らかく夜に溶けていった。
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