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第6話『雨と、あと10センチの距離』
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放課後の空。
ざぁざぁと降り出した雨に、教室のざわめきが広がる。
「……きたか。ついに、仮説No.005の時が──!」
【仮説No.005】
“ふたりきりで雨宿りをすると、恋愛感情が芽生える確率が跳ね上がる”
小比類巻 陸は、窓の外を見つめながら静かに頷いた。
「あのさ……普通の人って、こういう日、傘持ってくるんだよ」
望月 紬はすでにカバンから折りたたみ傘を出していた。
「えっ」
「……なにその“しまった”みたいな顔。まさか傘、わざと持ってこなかったの?」
「それは“偶然”を装ったロマンス設計において極めて基本的な……」
「……しょうがないなぁ。帰る方向、途中まで一緒だし、入れてあげるよ」
「えっ、い、いいのか!?」
「そのかわり、仮説の検証とかいうの、今日は無しね?
これは、ただの雨宿り。偶然でも運命でもなく、“優しさ”だから」
「…………優しさ……!?それは……恋愛感情の前段階における……」
「ストップ。検証ダメって言ったよね?」
⸻
というわけで、
一緒の傘に収まって歩き出すふたり。
風は少し冷たく、雨粒はまだ強い。
傘の中だけが、ほんのりあたたかい。
「……意外と、狭いな」
「それは傘が子ども用だからです」
「なんでそんなサイズの持ってんの」
「コンパクト重視派だから」
ぎゅっと体が近づいた瞬間、
陸の耳までほんのり赤く染まる。
(距離……近い……これは10cm以内……いや、誤差7.2cm……)
(いや、考えるな俺……これは検証じゃなくて、たまたまだから……)
でも。
「ねぇ、陸くん」
「っ……!?今、下の名前……呼んだ?」
「ずっと“君”で呼ぶのも不自然かなって思って」
「な、なるほど、たしかに。合理的だ。うん。よし。合理的」
「……ほんとに、ずっとそれで生きてきたんだね」
紬は少し笑って、足元の水たまりを避けるように歩いた。
「でも、そういうところ、けっこう好きだよ」
「…………え?」
「……あ、仮説に追加しなくていいからね。今のは、たぶんただの“気分”」
⸻
ふたりの足音と、雨音と、心臓の音。
それらが混ざって、傘の下の世界は、すこし静かで、すこし騒がしい。
⸻
◾️つづく
ざぁざぁと降り出した雨に、教室のざわめきが広がる。
「……きたか。ついに、仮説No.005の時が──!」
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「…………優しさ……!?それは……恋愛感情の前段階における……」
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「……意外と、狭いな」
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「なんでそんなサイズの持ってんの」
「コンパクト重視派だから」
ぎゅっと体が近づいた瞬間、
陸の耳までほんのり赤く染まる。
(距離……近い……これは10cm以内……いや、誤差7.2cm……)
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でも。
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「でも、そういうところ、けっこう好きだよ」
「…………え?」
「……あ、仮説に追加しなくていいからね。今のは、たぶんただの“気分”」
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ふたりの足音と、雨音と、心臓の音。
それらが混ざって、傘の下の世界は、すこし静かで、すこし騒がしい。
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◾️つづく
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