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第1話 お兄様みたいな人が好き
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「ねぇ、わたし――お兄様みたいな人が好き!」
小さな庭のブランコで、エリナは足をぱたぱたさせながら、花のように笑った。
春の午後。青空にはまだ小さな雲が浮かび、庭の隅では白い花が揺れている。
隣で砂を積み上げていた少年――レオンは、思わず手を止め、驚いたように顔を上げた。
「お兄様みたいな人?」
「うん。やさしくて、安心できるの。困ったときに『大丈夫だよ』って言ってくれる人。そういう人がいちばん好きなの」
エリナはまだ幼い声で、けれど迷いなく言い切った。
それは、ただ目の前にいる兄の姿を思い出して口にした、子どもらしい憧れだった。
しかし、レオンの胸に刻まれたその一言は、彼の未来を変えるほどの重みを持っていた。
――だったら、俺がそうなればいい。
――君の隣にいて、君を安心させられる人でいればいい。
無邪気な笑顔の横で、少年は心の奥で小さな誓いを立てていた。
*
あれから年月が過ぎ、二人は十代の終わりを迎えていた。
同じ町で育ち、同じ学園へ通い、日常の多くを共にしてきた幼馴染。
エリナにとって、レオンは「そばにいて当たり前」の存在だった。
「レオン、今日も一緒に帰ろう?」
放課後の中庭。小鳥のさえずりを背に、エリナは嬉しそうに声をかける。
風が吹き抜け、陽光を浴びた栗色の髪が揺れた。
「うん。待ってたよ」
いつものように、レオンは優しい声で答える。
彼の声音は昔から変わらず、低く柔らかで、聞くだけで胸の奥がほぐれるようだった。
エリナは満足げに笑みを浮かべ、彼の隣に並ぶ。
歩き出すと、自然に彼の腕へと寄り添った。
その仕草はあまりに自然で、特別な意味を持たせていないことが伝わってくる。
「あなたが一緒だと、やっぱり安心するなぁ」
「そう?」
「うん。だって、レオンはお兄様に似てるから。…あ、もちろん褒めてるんだよ?」
小さく笑って振り返るエリナ。
レオンは穏やかに微笑んで頷いた。
「ありがとう。そう言ってもらえるのは嬉しい」
声は柔らかい。けれど胸の奥では、別の言葉が揺れていた。
――君にとって、俺は“お兄様の代わり”でいいの?
――俺は、君のただの幼馴染じゃない。
エリナは気づかない。
彼女が安心しきった笑みを浮かべれば浮かべるほど、レオンの胸に抑え込まれた熱が小さく軋んでいくことに。
それでも彼は、彼女の笑顔を曇らせたくなくて。
いつも通りの優しい幼馴染として隣に立ち続ける。
――安心できる人が好き。
あの日の言葉を信じることで、自分もまた救われているのだと思いながら。
小さな庭のブランコで、エリナは足をぱたぱたさせながら、花のように笑った。
春の午後。青空にはまだ小さな雲が浮かび、庭の隅では白い花が揺れている。
隣で砂を積み上げていた少年――レオンは、思わず手を止め、驚いたように顔を上げた。
「お兄様みたいな人?」
「うん。やさしくて、安心できるの。困ったときに『大丈夫だよ』って言ってくれる人。そういう人がいちばん好きなの」
エリナはまだ幼い声で、けれど迷いなく言い切った。
それは、ただ目の前にいる兄の姿を思い出して口にした、子どもらしい憧れだった。
しかし、レオンの胸に刻まれたその一言は、彼の未来を変えるほどの重みを持っていた。
――だったら、俺がそうなればいい。
――君の隣にいて、君を安心させられる人でいればいい。
無邪気な笑顔の横で、少年は心の奥で小さな誓いを立てていた。
*
あれから年月が過ぎ、二人は十代の終わりを迎えていた。
同じ町で育ち、同じ学園へ通い、日常の多くを共にしてきた幼馴染。
エリナにとって、レオンは「そばにいて当たり前」の存在だった。
「レオン、今日も一緒に帰ろう?」
放課後の中庭。小鳥のさえずりを背に、エリナは嬉しそうに声をかける。
風が吹き抜け、陽光を浴びた栗色の髪が揺れた。
「うん。待ってたよ」
いつものように、レオンは優しい声で答える。
彼の声音は昔から変わらず、低く柔らかで、聞くだけで胸の奥がほぐれるようだった。
エリナは満足げに笑みを浮かべ、彼の隣に並ぶ。
歩き出すと、自然に彼の腕へと寄り添った。
その仕草はあまりに自然で、特別な意味を持たせていないことが伝わってくる。
「あなたが一緒だと、やっぱり安心するなぁ」
「そう?」
「うん。だって、レオンはお兄様に似てるから。…あ、もちろん褒めてるんだよ?」
小さく笑って振り返るエリナ。
レオンは穏やかに微笑んで頷いた。
「ありがとう。そう言ってもらえるのは嬉しい」
声は柔らかい。けれど胸の奥では、別の言葉が揺れていた。
――君にとって、俺は“お兄様の代わり”でいいの?
――俺は、君のただの幼馴染じゃない。
エリナは気づかない。
彼女が安心しきった笑みを浮かべれば浮かべるほど、レオンの胸に抑え込まれた熱が小さく軋んでいくことに。
それでも彼は、彼女の笑顔を曇らせたくなくて。
いつも通りの優しい幼馴染として隣に立ち続ける。
――安心できる人が好き。
あの日の言葉を信じることで、自分もまた救われているのだと思いながら。
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