『ティアラに誓う、ただひとりのあなたへ』 ──赤いリボンが結ぶ、花園の婚約物語

だって、これも愛なの。

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【後日談】ユリウス・ヴァン=シュトラールの、遠い春

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 婚約を破棄したとき、ユリウスは「それが最善だ」と思っていた。

 リリアナは夢見がちすぎる。
 誰かの隣に立つには、現実を見る力が必要だ。
 ――そう言い聞かせた。

 

 けれど。

 彼女が、自分の手を離れたあとの笑顔を見たとき。
 その隣に立つのが、自分ではなくなったと知ったとき。

 

 「――僕は、何を手放したんだ?」

 

 それからのユリウスは、迷った。

 自分のことを揶揄った庭師の声。
 「王子の心を切る刃になる」という護衛騎士の警告。
 「彼女はもう前を向いている」と言った王子のまなざし――

 

 全部、正しかった。

 でも、自分の気持ちが“間違いだった”とは、言いたくなかった。

 

 だから、彼は決めた。
 **「あの人が手放したことを後悔しないような人間になろう」**と。

 

***

 

 それから数年。

 ユリウスは、帝国の衛兵訓練校に自ら志願し、
 いちから鍛錬を積み直した。

 

 高いプライドも、華やかな肩書も、もう意味はない。

 ただ黙々と剣をふるい、苦手だった人づきあいにも向き合った。

 

「おまえって、昔はもっと“つん”としてたよな」

 ふと、旧友に言われる。

「……ああ。最近やっと、“笑う”ってやつを覚えたかもしれない」

 少しだけ、自嘲気味に笑って言えるようになったのは、
 たぶん、彼自身が変わってきた証だった。

 

***

 

 ある日。
 見習いの少女が、彼の訓練を見てぽつりと言った。

 

「ユリウスさんって、なんか…誰かのために強くなろうとしてる感じ、しますね」

「えっ……僕が?」

「うん。でもその“誰か”はもう幸せになってるから、
 ユリウスさんはきっと、“誰かを想える自分”に誇りを持ちたい人なんだって、思ったの」

 

 その言葉に、ユリウスはふっと笑った。

 ――彼女は、もう誰かの隣にいる。
 だから、自分はもう、届かない。

 でも、思い出はある。
 自分のなかに、**“あの頃、本気で誰かを好きだった証”**が残っている。

 

「……じゃあ僕は、今度こそ。
 誰かのそばで、ちゃんと“あたたかい人間”になれるように、頑張るよ」

 

 それは、遠い春の始まりだった。

 

 やがて彼の物語にも、新しい風が吹く日が来るだろう。

 

 そのとき、赤いリボンの記憶はもう、
 優しい追い風になっているのかもしれない。

 

(Fin.)
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