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【番外編】数年後のユリウス再会譚
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まだ少し、あたたかい風が吹いていた。
あの日から、数年が経っていた。
ノアディール帝国とフローレンティア王国の友好関係は強まり、
王子と侯爵令嬢の結婚は“愛の物語”として語り継がれていた。
ユリウス・ヴァン=シュトラールは今、帝国の衛兵隊に所属し、
かつての「名家の跡取り」ではなく、“ひとりの人間”として生きていた。
晴れた日、彼は“外交行事の補佐”として、
ひさしぶりに――王宮の庭園を訪れた。
「変わっていないようで、少しだけ、変わっているな」
声に出すと、なんだか自分が年をとったような気がした。
ふと、視線の先にひとりの女性の姿があった。
その背筋。
花に話しかけるような所作。
髪に揺れる――赤いリボン。
(まさか……)
そう思って駆け寄ろうとした瞬間、
彼女が振り向いた。
そこにいたのは、リリアナだった。
でももう、“夢見がちな令嬢”ではなかった。
彼女は、帝国の王妃として、堂々とそこに立っていた。
「……ユリウス様」
「……君、いや。……王妃殿下、でしたね」
ふたりは、しばらく見つめ合ったまま、黙っていた。
でもその沈黙は、かつての“言い残した言葉”ではなく――
“ちゃんと終えた物語”の余韻だった。
やがて、リリアナがそっと笑った。
「お元気そうで、よかった。……お顔が、やわらかくなりましたね」
「……そうかな。
たぶん、“誰かの笑顔”に、背中を押されたんだと思います」
「それは、素敵なことです」
会話は、まるで春の光のようだった。
まぶしすぎず、でも、まっすぐで、あたたかい。
ユリウスは、ひと呼吸おいて言った。
「……君が、あのとき幸せそうに笑っていたこと。
それが、僕の“未来の原点”だった。
――あの日、あの場所に君がいてくれて、ありがとう」
その言葉に、リリアナは一瞬だけ目を伏せ、
そっと、微笑んだ。
「わたしも、あの時間があったからこそ、
“今の幸せ”に気づけたんだと思います」
「……君のこと、好きだった。ずっと」
「……うん。わたしも、好きでした」
「でも、それはもう“過去形”でいいんだよな?」
「ええ。だって――未来は、これから作っていくものですから」
その言葉に、ユリウスはふっと笑った。
「君は、ずっと変わらないな」
「いいえ、すごく変わりました。
……でも、きっと“あのときの夢見がちさ”も、どこかに残してます」
風がふく。
ほんのすこし、あたたかい風だった。
「じゃあ、またどこかで」
「はい。いつか、“今のあなた”にまた会える日を、楽しみにしています」
すれ違うふたり。
もう、追いかけない。もう、引きとめない。
だけどそこには、確かに――
**「あの人がいたから、今の自分がある」**という、
やさしい想いが残っていた。
(Fin.)
あの日から、数年が経っていた。
ノアディール帝国とフローレンティア王国の友好関係は強まり、
王子と侯爵令嬢の結婚は“愛の物語”として語り継がれていた。
ユリウス・ヴァン=シュトラールは今、帝国の衛兵隊に所属し、
かつての「名家の跡取り」ではなく、“ひとりの人間”として生きていた。
晴れた日、彼は“外交行事の補佐”として、
ひさしぶりに――王宮の庭園を訪れた。
「変わっていないようで、少しだけ、変わっているな」
声に出すと、なんだか自分が年をとったような気がした。
ふと、視線の先にひとりの女性の姿があった。
その背筋。
花に話しかけるような所作。
髪に揺れる――赤いリボン。
(まさか……)
そう思って駆け寄ろうとした瞬間、
彼女が振り向いた。
そこにいたのは、リリアナだった。
でももう、“夢見がちな令嬢”ではなかった。
彼女は、帝国の王妃として、堂々とそこに立っていた。
「……ユリウス様」
「……君、いや。……王妃殿下、でしたね」
ふたりは、しばらく見つめ合ったまま、黙っていた。
でもその沈黙は、かつての“言い残した言葉”ではなく――
“ちゃんと終えた物語”の余韻だった。
やがて、リリアナがそっと笑った。
「お元気そうで、よかった。……お顔が、やわらかくなりましたね」
「……そうかな。
たぶん、“誰かの笑顔”に、背中を押されたんだと思います」
「それは、素敵なことです」
会話は、まるで春の光のようだった。
まぶしすぎず、でも、まっすぐで、あたたかい。
ユリウスは、ひと呼吸おいて言った。
「……君が、あのとき幸せそうに笑っていたこと。
それが、僕の“未来の原点”だった。
――あの日、あの場所に君がいてくれて、ありがとう」
その言葉に、リリアナは一瞬だけ目を伏せ、
そっと、微笑んだ。
「わたしも、あの時間があったからこそ、
“今の幸せ”に気づけたんだと思います」
「……君のこと、好きだった。ずっと」
「……うん。わたしも、好きでした」
「でも、それはもう“過去形”でいいんだよな?」
「ええ。だって――未来は、これから作っていくものですから」
その言葉に、ユリウスはふっと笑った。
「君は、ずっと変わらないな」
「いいえ、すごく変わりました。
……でも、きっと“あのときの夢見がちさ”も、どこかに残してます」
風がふく。
ほんのすこし、あたたかい風だった。
「じゃあ、またどこかで」
「はい。いつか、“今のあなた”にまた会える日を、楽しみにしています」
すれ違うふたり。
もう、追いかけない。もう、引きとめない。
だけどそこには、確かに――
**「あの人がいたから、今の自分がある」**という、
やさしい想いが残っていた。
(Fin.)
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