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断罪の危機!?
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―夢の中―
黒雲が垂れこめ、空気は重く湿っていた。
冷たい石の床に正座させられた茗渓の肩が小刻みに震える。
目の前には、玉座に座す若き皇帝。そして、その左右には重臣たちと――高妃の姿。
「お主が――麗妃に堕胎薬を盛ったという証拠が上がっておる」
静かながらも、底知れぬ威圧を孕んだ声が玉座から響いた。
「い、いえ……私は、そんなこと……!」
茗渓の声は掠れ、喉が焼けつくようだった。
叫びたくても、声にならない。
「言い逃れはできぬ。薬を渡した下女の証言もある。
お主が密かに怜張と密通していたという記録も残っておる」
「……っ……!」
目の前が暗転していく。
思い出される、あの薄暗い回廊。怜張に呼び出され、わけも分からず渡された小包。
一度きりの、それだけの出来事――それが、罠だったのか。
「何よりの証拠は、堕胎薬が“お主の部屋”から出てきたということだ」
皇帝の言葉は冷たく響き、誰一人、茗渓を庇おうとしない。
高妃は何かを勝ち誇ったように微笑み、他の者たちは目を伏せている。
「皇子を殺した罪――これは、重い。
民に知られれば、宮廷の威信に関わる。ゆえに……」
皇帝が一度、目を閉じた。
「……死を以て償え」
バン、と玉座の隣で太鼓が鳴る。
刑の宣告が下された合図。
「違う……! 私はやっていないのに……っ!」
茗渓の声は涙混じりに空気を裂いた。
だが誰の耳にも届かない。
玉座の間には、既に処刑台の刃音が迫っていた。
「――やめて!!」
悲鳴が響いた瞬間――視界が眩しいほどの白に塗り潰される。
「っ……!」
はっとして跳ね起きた茗渓は、肩で息をしていた。
寝台の天蓋が揺れている。外はまだ夜の帳の中。
「夢……だったの……?」
額にはびっしょりと冷や汗。
だが、心臓の鼓動はまだ収まらない。
「どうして、今……あの場面を……」
(あれは、絵巻の終盤……。麗妃に堕胎剤を盛ったとして蘭妃が処刑される流れ――)
ぞくりと背を走る悪寒。
「これは……私の“処刑”が近いということなの? 運命が、絵巻通りに動き出してる?……」
「何か……何か、断罪を免れる鍵が、あるはず……!
怜綾の呪いも、まだ……解けてないのに!」
声が震えながらも、茗渓の瞳には確かな光が宿っていた。
たとえ未来が定められていても、運命に抗ってみせる。
――そんな強い意志が、そこにはあった。
寝間着のまま、裸足で廊下を駆ける茗渓。蝋燭も持たず、ただ月明かりだけを頼りに、柱の影、床下、戸棚の奥をしらみ潰しに探している。
(断罪の原因は――堕胎剤。あれが見つかれば、冤罪を証明できる!)
思考はただ一点に集中していた。
「……何してるんだ?」
背後から、静かな声が降ってきた。
振り返ると、そこには――怜綾がいた。
「……私の生死に関わる“証拠”を探してるのよ」
「証拠? 証拠って、何のことだ?」
怜綾の声が、低く鋭くなる。彼の目が真っ直ぐ茗渓を射抜く。
「……っ、それは……」
(だめ、言えない。この場所が絵巻の中の世界で、私は転生してきたなんて――)
言葉が喉でつかえる。だが、怜綾の視線は逃がしてくれない。
「……夢を見たの」
「……夢?」
「そう。麗妃に堕胎剤を盛った罪で、私が処刑される夢。冷たい石の床で正座させられて、誰も私を庇ってくれなくて……皇帝から“死を以て償え”って宣告されたの。あんなの、ただの夢で済ませられない。もし、あれが現実になったら、私……」
そこまで言うと、茗渓は思わず口元を手で覆う。震える指先。嘘は言っていない――でも、真実のすべては隠している。
怜綾は、しばし黙ったまま彼女を見つめていた。
「夢が……現実になる、か」
「……で? その堕胎剤とやらは、この怜花宮の中にあるって思ってるのか」
「ええ。処刑されたときも、“私の部屋からそれが出てきた”って……。だから、もしまだどこかに隠されているなら、それを見つければ……未来を変えられるかもしれない」
その声には、必死な願いが込められていた。
怜綾はひとつ、小さく息を吐いて、黙って踵を返す。
「……手伝ってやるよ。こんな深夜に物探しをしてたら、それこそ、怜花宮の幽霊と言われるぞ。それに君一人じゃ間に合わないかもしれないだろ」
二人は無言のまま、月明かりを頼りに怜花宮の裏へと足を踏み入れていた。生活維持のため野菜を育てた畑だ。
「……ちょっと、待って」
茗渓がふと足を止め、地面に目を凝らす。
「……ここだけ、土の色が違う。誰かが……掘り返した?」
指で土をすくい、鼻先に近づけると――ほんのかすかに、漢方のような匂いが混ざっている気がした。
「怜綾、そこ、掘るのを手伝って」
「わかった」
二人はその場に膝をつき、手早く土をかき分ける。しばらく掘り進めると――
「……あった!」
茗渓が土の中から引き抜いたのは、油紙で丁寧に包まれた茶色い包み。かすかに中身がこすれる音がする。封を解くと、中には乾いた草根のようなものが――
「……これ、見覚えがある。薬の調合台にあった……堕胎薬」
息が止まりそうになる。
「まさか……本当に、あったなんて……」
手が震える。夢で見た“処刑”が、急に現実のものとして迫ってくるような錯覚。
「誰が……誰が、こんなところに……?」
怜綾も黙ってそれを見つめていたが、やがて茗渓の表情が変わる。
「――そういえば……」
「ん?」
「数日前、怜張が……この怜花宮を訪ねてきたでしょ。"幽燈殿のことが気になる”って言ってたけど……もしかして、あれは口実だったのかも。」
思い返すと、不自然だったあの時の態度。そしてすぐに立ち去ったあの様子。
「……あの時、彼がこれをここに埋めたんじゃ……?」
自分が処刑される未来を誘導するために。まるで“誰か”が絵巻の筋書きを、意図的になぞらせようとしているかのように。
黒雲が垂れこめ、空気は重く湿っていた。
冷たい石の床に正座させられた茗渓の肩が小刻みに震える。
目の前には、玉座に座す若き皇帝。そして、その左右には重臣たちと――高妃の姿。
「お主が――麗妃に堕胎薬を盛ったという証拠が上がっておる」
静かながらも、底知れぬ威圧を孕んだ声が玉座から響いた。
「い、いえ……私は、そんなこと……!」
茗渓の声は掠れ、喉が焼けつくようだった。
叫びたくても、声にならない。
「言い逃れはできぬ。薬を渡した下女の証言もある。
お主が密かに怜張と密通していたという記録も残っておる」
「……っ……!」
目の前が暗転していく。
思い出される、あの薄暗い回廊。怜張に呼び出され、わけも分からず渡された小包。
一度きりの、それだけの出来事――それが、罠だったのか。
「何よりの証拠は、堕胎薬が“お主の部屋”から出てきたということだ」
皇帝の言葉は冷たく響き、誰一人、茗渓を庇おうとしない。
高妃は何かを勝ち誇ったように微笑み、他の者たちは目を伏せている。
「皇子を殺した罪――これは、重い。
民に知られれば、宮廷の威信に関わる。ゆえに……」
皇帝が一度、目を閉じた。
「……死を以て償え」
バン、と玉座の隣で太鼓が鳴る。
刑の宣告が下された合図。
「違う……! 私はやっていないのに……っ!」
茗渓の声は涙混じりに空気を裂いた。
だが誰の耳にも届かない。
玉座の間には、既に処刑台の刃音が迫っていた。
「――やめて!!」
悲鳴が響いた瞬間――視界が眩しいほどの白に塗り潰される。
「っ……!」
はっとして跳ね起きた茗渓は、肩で息をしていた。
寝台の天蓋が揺れている。外はまだ夜の帳の中。
「夢……だったの……?」
額にはびっしょりと冷や汗。
だが、心臓の鼓動はまだ収まらない。
「どうして、今……あの場面を……」
(あれは、絵巻の終盤……。麗妃に堕胎剤を盛ったとして蘭妃が処刑される流れ――)
ぞくりと背を走る悪寒。
「これは……私の“処刑”が近いということなの? 運命が、絵巻通りに動き出してる?……」
「何か……何か、断罪を免れる鍵が、あるはず……!
怜綾の呪いも、まだ……解けてないのに!」
声が震えながらも、茗渓の瞳には確かな光が宿っていた。
たとえ未来が定められていても、運命に抗ってみせる。
――そんな強い意志が、そこにはあった。
寝間着のまま、裸足で廊下を駆ける茗渓。蝋燭も持たず、ただ月明かりだけを頼りに、柱の影、床下、戸棚の奥をしらみ潰しに探している。
(断罪の原因は――堕胎剤。あれが見つかれば、冤罪を証明できる!)
思考はただ一点に集中していた。
「……何してるんだ?」
背後から、静かな声が降ってきた。
振り返ると、そこには――怜綾がいた。
「……私の生死に関わる“証拠”を探してるのよ」
「証拠? 証拠って、何のことだ?」
怜綾の声が、低く鋭くなる。彼の目が真っ直ぐ茗渓を射抜く。
「……っ、それは……」
(だめ、言えない。この場所が絵巻の中の世界で、私は転生してきたなんて――)
言葉が喉でつかえる。だが、怜綾の視線は逃がしてくれない。
「……夢を見たの」
「……夢?」
「そう。麗妃に堕胎剤を盛った罪で、私が処刑される夢。冷たい石の床で正座させられて、誰も私を庇ってくれなくて……皇帝から“死を以て償え”って宣告されたの。あんなの、ただの夢で済ませられない。もし、あれが現実になったら、私……」
そこまで言うと、茗渓は思わず口元を手で覆う。震える指先。嘘は言っていない――でも、真実のすべては隠している。
怜綾は、しばし黙ったまま彼女を見つめていた。
「夢が……現実になる、か」
「……で? その堕胎剤とやらは、この怜花宮の中にあるって思ってるのか」
「ええ。処刑されたときも、“私の部屋からそれが出てきた”って……。だから、もしまだどこかに隠されているなら、それを見つければ……未来を変えられるかもしれない」
その声には、必死な願いが込められていた。
怜綾はひとつ、小さく息を吐いて、黙って踵を返す。
「……手伝ってやるよ。こんな深夜に物探しをしてたら、それこそ、怜花宮の幽霊と言われるぞ。それに君一人じゃ間に合わないかもしれないだろ」
二人は無言のまま、月明かりを頼りに怜花宮の裏へと足を踏み入れていた。生活維持のため野菜を育てた畑だ。
「……ちょっと、待って」
茗渓がふと足を止め、地面に目を凝らす。
「……ここだけ、土の色が違う。誰かが……掘り返した?」
指で土をすくい、鼻先に近づけると――ほんのかすかに、漢方のような匂いが混ざっている気がした。
「怜綾、そこ、掘るのを手伝って」
「わかった」
二人はその場に膝をつき、手早く土をかき分ける。しばらく掘り進めると――
「……あった!」
茗渓が土の中から引き抜いたのは、油紙で丁寧に包まれた茶色い包み。かすかに中身がこすれる音がする。封を解くと、中には乾いた草根のようなものが――
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手が震える。夢で見た“処刑”が、急に現実のものとして迫ってくるような錯覚。
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「ん?」
「数日前、怜張が……この怜花宮を訪ねてきたでしょ。"幽燈殿のことが気になる”って言ってたけど……もしかして、あれは口実だったのかも。」
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