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ノルヴィス・ノアの回想録ー群青の瞳に恋をした日ー
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うん……やっぱり面白いね。ラービス・カリスくん。
いや、“君”は、いったい何者なんだろうね。
ーー数年前。
僕は、ルーナ姉上の“悪趣味”……いや、“趣味”で女装をさせられ、
仮面舞踏会に出席する羽目になった。
生まれて初めての社交界。
華やかな世界に足を踏み入れた僕は、緊張のあまり、
まるで影のように姉上の後ろをひっつき虫みたいに歩いていた。
昔から僕は臆病で、弱虫で。
兄上にはよく言われていた。
「お前は、王族のくせに女の子みたいだ」と。
……まぁ、実際その通りだった。
泣き虫で、怖がりで、誰かがいなきゃ何もできない。
そんな僕を、いつも助けてくれたのは姉上だった。
だけどあの夜は違った。
姉上とはぐれてしまい、
慣れない会場で一人ぼっちになった僕は……途方に暮れていた。
その時だ。
鼻息荒く近づいてきた男がいた。ジョーン男爵。
父上に媚を売ることで有名な、金と地位にまみれた最低な男だ。
「綺麗な子だなぁ。おじさんと素敵な夜を過ごさないかい?」
……気持ち悪いにもほどがある。
だけど僕は、この格好をしているせいで正体を明かせない。
“ノルヴィスの第二王子”であることが、逆に足枷になった。
逃げられない。声も出ない。
ただ必死に言葉を絞り出した。
「やめてください! 離してください!」
そして、絶体絶命のその瞬間ーー。
誰かが、僕の手を掴んだ。
その手は温かくて、力強くて。
僕を引き離し、身を盾にして守ってくれた。
光の粒が舞うように、美しかった。
月明かりに照らされたその人の髪は、
絹糸のような薄水色。
そして、その瞳は……
星空を閉じ込めたような群青。
一瞬で、息が止まった。
……あぁ、この人は物語の中の“王子”だ。
誰かを救うために、恐れも迷いもなく飛び込んでくる。
そんな人が、本当に存在するんだ。
名前を、聞かなきゃ。
きっと僕でも、彼となら友達になれる。
だけどその時、姉上の声が聞こえた。
「ノアー!どこにいるのー!?」
名前を呼ばれた瞬間、現実に引き戻され、
結局、彼に名前を尋ねることができなかった。
ーー後に調べた。
彼の名は、ラービス・カリス。
ラービス・カリーナの双子の弟だという。
……双子?
カリーナとは面識がある。
兄上の婚約者として、僕に挨拶をしに来たあの令嬢だ。
冷たくて、完璧で、でもどこか寂しそうな瞳をしていた。
しかし、彼女に“弟”がいるなんて聞いたことがない。
公爵家の家系図にも載っていない。
そして、決定的だったのは。
「カリーナ嬢が病に伏してから、弟のカリスくんが社交界に出始めた」
という奇妙な噂。
……ふむ。偶然にしては、できすぎている。
ラービス家に“カリス”という男子はいない。
つまりーー
カリス=カリーナ。
そう考えるのが自然だ。
“男装した令嬢”か。
なるほど、面白い。
なぜそんなことを?
誰かに追われているのか?
それとも、何かを隠したいのか?
けれど、それ以上に気になることがある。
あの時、僕を助けてくれたあの手の温もりが、今も、鮮明に残っている。
君だけは離さないよ、カリーナ。
僕の初恋を奪った罪は、重いんだからね。
いや、“君”は、いったい何者なんだろうね。
ーー数年前。
僕は、ルーナ姉上の“悪趣味”……いや、“趣味”で女装をさせられ、
仮面舞踏会に出席する羽目になった。
生まれて初めての社交界。
華やかな世界に足を踏み入れた僕は、緊張のあまり、
まるで影のように姉上の後ろをひっつき虫みたいに歩いていた。
昔から僕は臆病で、弱虫で。
兄上にはよく言われていた。
「お前は、王族のくせに女の子みたいだ」と。
……まぁ、実際その通りだった。
泣き虫で、怖がりで、誰かがいなきゃ何もできない。
そんな僕を、いつも助けてくれたのは姉上だった。
だけどあの夜は違った。
姉上とはぐれてしまい、
慣れない会場で一人ぼっちになった僕は……途方に暮れていた。
その時だ。
鼻息荒く近づいてきた男がいた。ジョーン男爵。
父上に媚を売ることで有名な、金と地位にまみれた最低な男だ。
「綺麗な子だなぁ。おじさんと素敵な夜を過ごさないかい?」
……気持ち悪いにもほどがある。
だけど僕は、この格好をしているせいで正体を明かせない。
“ノルヴィスの第二王子”であることが、逆に足枷になった。
逃げられない。声も出ない。
ただ必死に言葉を絞り出した。
「やめてください! 離してください!」
そして、絶体絶命のその瞬間ーー。
誰かが、僕の手を掴んだ。
その手は温かくて、力強くて。
僕を引き離し、身を盾にして守ってくれた。
光の粒が舞うように、美しかった。
月明かりに照らされたその人の髪は、
絹糸のような薄水色。
そして、その瞳は……
星空を閉じ込めたような群青。
一瞬で、息が止まった。
……あぁ、この人は物語の中の“王子”だ。
誰かを救うために、恐れも迷いもなく飛び込んでくる。
そんな人が、本当に存在するんだ。
名前を、聞かなきゃ。
きっと僕でも、彼となら友達になれる。
だけどその時、姉上の声が聞こえた。
「ノアー!どこにいるのー!?」
名前を呼ばれた瞬間、現実に引き戻され、
結局、彼に名前を尋ねることができなかった。
ーー後に調べた。
彼の名は、ラービス・カリス。
ラービス・カリーナの双子の弟だという。
……双子?
カリーナとは面識がある。
兄上の婚約者として、僕に挨拶をしに来たあの令嬢だ。
冷たくて、完璧で、でもどこか寂しそうな瞳をしていた。
しかし、彼女に“弟”がいるなんて聞いたことがない。
公爵家の家系図にも載っていない。
そして、決定的だったのは。
「カリーナ嬢が病に伏してから、弟のカリスくんが社交界に出始めた」
という奇妙な噂。
……ふむ。偶然にしては、できすぎている。
ラービス家に“カリス”という男子はいない。
つまりーー
カリス=カリーナ。
そう考えるのが自然だ。
“男装した令嬢”か。
なるほど、面白い。
なぜそんなことを?
誰かに追われているのか?
それとも、何かを隠したいのか?
けれど、それ以上に気になることがある。
あの時、僕を助けてくれたあの手の温もりが、今も、鮮明に残っている。
君だけは離さないよ、カリーナ。
僕の初恋を奪った罪は、重いんだからね。
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