推しカプを愛でるために、悪役令嬢の私は壁姫になろうと思います!

明夏 向日葵

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推しカプ、尊死イベント開幕ですわ!!

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ロイエンス王立魔導学院――新学期初日の魔導制御実習。

講師が手を叩くと、広い訓練場に淡い魔法陣がいくつも浮かび上がった。
「今日は魔力の相性を見る簡単な実験を行う。隣の者と魔力を流し合い、どれほど調和するかを確認せよ」

そう言われ、ロゼリスは隣を見た。
…そう、そこには。

推し。
リーナス・ルチアルーアン様。

(推しとペア!? 神様ありがとう!!
いやでも落ち着け私……ここは原作でルチア様の魔力暴発イベントが起こる場面!!)

ルチアは庶民出身ゆえに魔力制御が不慣れで、原作ではうっかり魔力を暴走させてしまう。
そこへ颯爽と現れ、彼女を庇って抱き寄せるシルビア王子。
運命の出会いイベント――推しカプの始まりだ。

(あの瞬間を生で見られるなんて……! 私、生まれてきてよかった……!!)

ロゼリスは胸の高鳴りを押さえ、ルチアの様子を見守る。
彼女の手のひらに淡い光が集まり始め――

「え、ちょっと、あれ? 制御が……!」

「来たぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

ロゼリス、謎の叫びと共に駆け出した。
その瞬間、ルチアの魔力が弾け、風が爆ぜる。
暴風が巻き起こり、訓練場の机や書類が宙を舞った。

「ルチア様危ないですわあああ!!」

ロゼリスは全力で庇いに飛び出す――が。

風圧にあっさり吹き飛ばされた。
風圧で体が浮く瞬間、ロゼリスは思った。
(あっ、これたぶん今、人生で一番尊い瞬間ですわ……!)

「ぎゃあっ!?」

目を開けると、そこにはシルビアがルチアを抱き寄せて立っていた。
ルチアの髪がふわりと舞い、シルビアの腕の中に収まっている。

光の粒が二人を包む――
それはまるで、天が祝福を与えているかのような美しさだった。

(き、ききききたああああああ!!!!!!尊い尊い尊い尊い尊い!!!!)

鼻の奥がツンと熱くなり、ロゼリスはハンカチで鼻を押さえた。
が、止まらない。止まるわけがない。

「リアル推しカプ……光背負ってる……えっ、まぶしい……尊死……」

そのまま、ロゼリスは優雅に崩れ落ちた。

「ロゼリス様!? 誰か、保健医を呼んでください!!」

ルチアが慌てて駆け寄る中、シルビアがそっと支える。
生徒たちのざわめきが広がり――

「アーバートン嬢、今度は鼻血で倒れたって……」



その報告を、少し離れた場所で聞いていたアーロンは思わず足を止めた。

「……鼻血で……?」

隣で控える護衛騎士ルミナスが、ため息をひとつ。

「殿下、ロゼリス様……本気で変わりましたね」
「……転けただけで、鼻血出すほど別人になるか?」
「いや、マジで別人っぽいです」

アーロンは眉をひそめ、遠く訓練場の方を見やった。
そこには、ルチアと談笑するロゼリスの姿。
いや、笑顔というより、光を拝む聖女のような顔で両手を合わせていた。

「……何なんだ、あいつ……俺の知らない顔ばっかり見せやがって。」

小さくそう呟くアーロンの胸の奥で、
初めてわずかな違和感が、確かに芽生えた。
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