14 / 55
その瞳は真実を語る
しおりを挟む
晩餐会の会場。
煌びやかな衣装の貴族たちが集まり、
音楽と香の中、舞踏と会話の輪が華やかに繰り広げられていた。
その中央に、まるで“飾りのように”立っていたセピア、リオ、レビリア。
そんな中、ふとした瞬間に起こった“出来事”が、流れを変えた。
「……あら、小さな坊や。迷子かしら?」
声をかけてきたのは、ガゼルの取り巻きのひとりである大臣令嬢。
その視線は、明らかにリオを侮った色をしていた。
「そんな子供がここにいていいの? まさか、お手伝い?」
リオが少し困った顔をしたその時──
「リオはラウンドン王国の血を継ぐ者だよ。ぼくの……大事な“弟”」
突然、横から割り込むようにセピアが声を上げた。
周囲がざわめく。
「え……今、“弟”って……?」
「まさか……セピア様が……?」
その空気の中、リオは一歩前に出て、ゆっくりと礼をした。
「お招きいただき、ありがとうございます。
僕は、セピアお兄ちゃんとレビリアお姉ちゃんと、一緒に来ました」
大人びたその所作に、周囲の空気がピタリと止まる。
――王族の品位と、気高さ。
小さなその身から放たれた“本物”の空気に、誰もが目を見張った。
「……な、なによ。子供のくせに……!」
令嬢が顔をしかめたその瞬間。
「おやおや、これはこれは」
軽やかな声が、空気を割るように響いた。
現れたのは、ガゼル王子だった。
「まさか、あの“問題児”セピアが、こんなに“整った姿”で現れるとは。
……ふふ、レビリア嬢の手腕ですか?」
「どうかしら。セピア王子自身の魅力でしょう。……それとも何か、問題でも?」
レビリアの目は笑っていたが、静かに敵意を滲ませていた。
「まさか。私はただ、国の未来を案じているだけです」
ガゼルはそう言いながら、リオの方へ視線を向ける。
「――それにしても、その子供は一体?」
「“王族”として紹介されましたが、記録にも戸籍にも、そんな存在はない」
クラリーチェが、背後から追い打ちをかけるように笑う。
「本当に王族の子なのかしら? まさか、セピア様の妄言で……?
……ねぇレビリア、あなた“前科”あるわよね。
男を惑わせて、地位を狙うのが得意なんでしょう?」
(……きた)
明らかに“リオの存在”そのものを狙った罠。
もし、ここでリオの血統が“嘘”だと証明されれば、レビリアも共犯として断罪される。
「なにそれ……お姉ちゃんを、わるくいわないで!」
リオが、怒ったように一歩前に出た。
でも、そんなリオを、レビリアがスッと抱きしめる。
「ありがとう、リオ。……でも、大丈夫よ」
その時だった。
セピアが、ポツリとつぶやいた。
「……クラリーチェ。きらい」
「……え?」
「きらい。リオのこと、わるくいった。レビリアたんのこと、わるくいった。
……むかしも、そんなふうに……」
彼の瞳が揺れる。
レビリアはすぐに気づいた。
(……今の言い回し。“むかしも”って……?)
一瞬、セピアの言葉に、“記憶の片鱗”が混じっていた。く
そしてガゼルの眉が、わずかに動く。
「……やはり、まだ残っているのか……」
その呟きは、誰にも聞こえなかったが――
ガゼルの表情には、確かに焦りが滲んでいた。
***
その夜の宴は、波紋を残したまま終わった。
リオの存在は、「王族の子か否か」という噂として飛び交い、
レビリアには微笑の裏に潜む断罪の影が、
そしてセピアには、かすかな記憶の火種が――。
宴の裏側で、王族たちの“本気の攻防”が、始まろうとしていた。
煌びやかな衣装の貴族たちが集まり、
音楽と香の中、舞踏と会話の輪が華やかに繰り広げられていた。
その中央に、まるで“飾りのように”立っていたセピア、リオ、レビリア。
そんな中、ふとした瞬間に起こった“出来事”が、流れを変えた。
「……あら、小さな坊や。迷子かしら?」
声をかけてきたのは、ガゼルの取り巻きのひとりである大臣令嬢。
その視線は、明らかにリオを侮った色をしていた。
「そんな子供がここにいていいの? まさか、お手伝い?」
リオが少し困った顔をしたその時──
「リオはラウンドン王国の血を継ぐ者だよ。ぼくの……大事な“弟”」
突然、横から割り込むようにセピアが声を上げた。
周囲がざわめく。
「え……今、“弟”って……?」
「まさか……セピア様が……?」
その空気の中、リオは一歩前に出て、ゆっくりと礼をした。
「お招きいただき、ありがとうございます。
僕は、セピアお兄ちゃんとレビリアお姉ちゃんと、一緒に来ました」
大人びたその所作に、周囲の空気がピタリと止まる。
――王族の品位と、気高さ。
小さなその身から放たれた“本物”の空気に、誰もが目を見張った。
「……な、なによ。子供のくせに……!」
令嬢が顔をしかめたその瞬間。
「おやおや、これはこれは」
軽やかな声が、空気を割るように響いた。
現れたのは、ガゼル王子だった。
「まさか、あの“問題児”セピアが、こんなに“整った姿”で現れるとは。
……ふふ、レビリア嬢の手腕ですか?」
「どうかしら。セピア王子自身の魅力でしょう。……それとも何か、問題でも?」
レビリアの目は笑っていたが、静かに敵意を滲ませていた。
「まさか。私はただ、国の未来を案じているだけです」
ガゼルはそう言いながら、リオの方へ視線を向ける。
「――それにしても、その子供は一体?」
「“王族”として紹介されましたが、記録にも戸籍にも、そんな存在はない」
クラリーチェが、背後から追い打ちをかけるように笑う。
「本当に王族の子なのかしら? まさか、セピア様の妄言で……?
……ねぇレビリア、あなた“前科”あるわよね。
男を惑わせて、地位を狙うのが得意なんでしょう?」
(……きた)
明らかに“リオの存在”そのものを狙った罠。
もし、ここでリオの血統が“嘘”だと証明されれば、レビリアも共犯として断罪される。
「なにそれ……お姉ちゃんを、わるくいわないで!」
リオが、怒ったように一歩前に出た。
でも、そんなリオを、レビリアがスッと抱きしめる。
「ありがとう、リオ。……でも、大丈夫よ」
その時だった。
セピアが、ポツリとつぶやいた。
「……クラリーチェ。きらい」
「……え?」
「きらい。リオのこと、わるくいった。レビリアたんのこと、わるくいった。
……むかしも、そんなふうに……」
彼の瞳が揺れる。
レビリアはすぐに気づいた。
(……今の言い回し。“むかしも”って……?)
一瞬、セピアの言葉に、“記憶の片鱗”が混じっていた。く
そしてガゼルの眉が、わずかに動く。
「……やはり、まだ残っているのか……」
その呟きは、誰にも聞こえなかったが――
ガゼルの表情には、確かに焦りが滲んでいた。
***
その夜の宴は、波紋を残したまま終わった。
リオの存在は、「王族の子か否か」という噂として飛び交い、
レビリアには微笑の裏に潜む断罪の影が、
そしてセピアには、かすかな記憶の火種が――。
宴の裏側で、王族たちの“本気の攻防”が、始まろうとしていた。
51
あなたにおすすめの小説
冷徹と噂の辺境伯令嬢ですが、幼なじみ騎士の溺愛が重すぎます
藤原遊
恋愛
冷徹と噂される辺境伯令嬢リシェル。
彼女の隣には、幼い頃から護衛として仕えてきた幼なじみの騎士カイがいた。
直系の“身代わり”として鍛えられたはずの彼は、誰よりも彼女を想い、ただ一途に追い続けてきた。
だが政略婚約、旧婚約者の再来、そして魔物の大規模侵攻――。
責務と愛情、嫉妬と罪悪感が交錯する中で、二人の絆は試される。
「縛られるんじゃない。俺が望んでここにいることを選んでいるんだ」
これは、冷徹と呼ばれた令嬢と、影と呼ばれた騎士が、互いを選び抜く物語。
「転生したら推しの悪役宰相と婚約してました!?」〜推しが今日も溺愛してきます〜 (旧題:転生したら報われない悪役夫を溺愛することになった件)
透子(とおるこ)
恋愛
読んでいた小説の中で一番好きだった“悪役宰相グラヴィス”。
有能で冷たく見えるけど、本当は一途で優しい――そんな彼が、報われずに処刑された。
「今度こそ、彼を幸せにしてあげたい」
そう願った瞬間、気づけば私は物語の姫ジェニエットに転生していて――
しかも、彼との“政略結婚”が目前!?
婚約から始まる、再構築系・年の差溺愛ラブ。
“報われない推し”が、今度こそ幸せになるお話。
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~
降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。
【完結】家族に愛されなかった辺境伯の娘は、敵国の堅物公爵閣下に攫われ真実の愛を知る
水月音子
恋愛
辺境を守るティフマ城の城主の娘であるマリアーナは、戦の代償として隣国の敵将アルベルトにその身を差し出した。
婚約者である第四王子と、父親である城主が犯した国境侵犯という罪を、自分の命でもって償うためだ。
だが――
「マリアーナ嬢を我が国に迎え入れ、現国王の甥である私、アルベルト・ルーベンソンの妻とする」
そう宣言されてマリアーナは隣国へと攫われる。
しかし、ルーベンソン公爵邸にて差し出された婚約契約書にある一文に疑念を覚える。
『婚約期間中あるいは婚姻後、子をもうけた場合、性別を問わず健康な子であれば、婚約もしくは結婚の継続の自由を委ねる』
さらには家庭教師から“精霊姫”の話を聞き、アルベルトの側近であるフランからも詳細を聞き出すと、自分の置かれた状況を理解する。
かつて自国が攫った“精霊姫”の血を継ぐマリアーナ。
そのマリアーナが子供を産めば、自分はもうこの国にとって必要ない存在のだ、と。
そうであれば、早く子を産んで身を引こう――。
そんなマリアーナの思いに気づかないアルベルトは、「婚約中に子を産み、自国へ戻りたい。結婚して公爵様の経歴に傷をつける必要はない」との彼女の言葉に激昂する。
アルベルトはアルベルトで、マリアーナの知らないところで実はずっと昔から、彼女を妻にすると決めていた。
ふたりは互いの立場からすれ違いつつも、少しずつ心を通わせていく。
転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。
ラム猫
恋愛
異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。
『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。
しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。
彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。
※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
婚活をがんばる枯葉令嬢は薔薇狼の執着にきづかない~なんで溺愛されてるの!?~
白井
恋愛
「我が伯爵家に貴様は相応しくない! 婚約は解消させてもらう」
枯葉のような地味な容姿が原因で家族から疎まれ、婚約者を姉に奪われたステラ。
土下座を強要され自分が悪いと納得しようとしたその時、謎の美形が跪いて手に口づけをする。
「美しき我が光……。やっと、お会いできましたね」
あなた誰!?
やたら綺麗な怪しい男から逃げようとするが、彼の執着は枯葉令嬢ステラの想像以上だった!
虐げられていた令嬢が男の正体を知り、幸せになる話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる