30 / 55
血煙の狩猟祭
しおりを挟む
朝露に濡れた大地を踏みしめ、私たちは狩猟祭の会場へと足を踏み入れた。
王国最大の祭典――狩猟祭。貴族や王族たちが集い、森に潜む獣を狩り、その技を競い合う伝統行事だ。
「わぁ……森がこんなに広いなんて……!」
リオのアクアマリンの瞳がきらきらと輝く。隣でセピアも、いつになく興奮を隠せない様子だった。
「レビリアたん!あれ全部、僕たちが狩るの?」
「狩るっていうより……今日は見学がメインよ。絶対に私のそばから離れないこと、いいわね?」
「うん!約束する!」
セピアがにこっと笑い、リオがこくんと頷いた。
(そう、絶対に離さない……何があっても)
胸の奥で小さく誓いながら、私は手綱を握った。
馬上に乗るセピアは、案の定バランスを崩しかけ――
「わっ、わぁぁっ……!」
「ちょっ……セピア様!」
私は慌てて手を伸ばし、彼の腰を後ろから抱き寄せた。
柔らかな体温が一瞬、全身を包む。
(……な、何でこんな時にドキドキしてるのよ私)
「ご、ごめんレビリアたん……でも、あったかい」
「……っ! 馬に集中してくださいっ!」
***
森は静かだった――不自然なほどに。
(……おかしい。獣の気配より、人の気配の方が濃い)
私の首筋を、冷たい感覚が走った瞬間――
ヒュンッ!!
空を裂く音。
「――セピア様、伏せてっ!!」
私は迷わず馬上から飛び降り、腰の剣を抜いた。
ガキィィン!
飛来する矢を弾き飛ばす金属音が、森の静寂を破った。
「な、何……!?」
「セピア様、リオ! 私の後ろに!!」
木々の間から、黒装束の刺客たちが音もなく姿を現す。
――5人、いや6人……完全に“狩り”の標的はセピアだ。
一歩踏み出した瞬間、体が勝手に動いた。
「――っはぁぁぁっ!!」
鋭い剣閃が、月光のように空を切る。
一人目の男が剣を抜く前に、その腕を捻り上げ――
ドンッ!
体術で地面に叩きつける。
二人目が背後から斬りかかる。
キィィン!!
私は振り向きざまにその刃を弾き、柄で鳩尾を突いた。
呻き声を上げて崩れ落ちる刺客。
「す、すごい……レビリアたん……!」
セピアの声が、震えている。
リオは涙目で必死に私を見ている――(守らなきゃ、この子たちを絶対に……!)
三人目、四人目が同時に飛び込んでくる。
(来なさい、まとめて相手してあげる!)
私は一人の剣を弾き、回転しながらその勢いで二人目の足を払う。
木の葉が舞う中、二人は同時に地面に沈んだ。
だが――
「っ……!」
一瞬の油断。最後の一人の短剣が、私の腕をかすめた。
鮮血が舞い、痛みが脳を突き抜ける。
「レビリアたんっ!!」「おねえちゃん!!」
セピアとリオの声が、絶望に震える。
「……大丈夫、これくらい……」
強がる私を、セピアは真っ直ぐに見つめ――
ひょいっ
私の体を抱き上げた。
「ちょ、セピア様!? 離して――」
「離さない!!」
腕の中に閉じ込められ、心臓が跳ねる。
セピアはそのまま馬に飛び乗り、私を抱えたまま手綱を引いた。
「リオ、掴まって!」
「うんっ!」
バシュッ――!
馬が大地を蹴り、風を切って疾走する。
その間、セピアは私を胸に抱き寄せ、片手で手綱を操っていた。
「お願いだから……僕の前で、もう血を流さないで……!」
その声は必死で、震えている。
(……どうして、そんな顔するの……)
彼の胸に顔を埋めると、
ぎゅっ
さらに腕の力が強くなった。
そして――
彼の指が、私の髪にそっと触れ、撫でた。
その優しさに、胸の奥が熱く、痛くなる。
***
安全な場所に着くと、セピアは馬を止め、私をそっと地面に下ろす。
すぐに自分の上着を脱ぎ、私の傷口を押さえる。
「痛い……? 血、止まる?」
「……だ、大丈夫よ……」
必死な表情。汗が額を伝い、翡翠の瞳が私を射抜く。
(近い……呼吸が、苦しい)
「僕……レビリアたんを失うのが、怖い」
その声は、震えていて、熱い。
私は、何も言えなかった。
ただ――
彼の指がまだ、私の髪を撫でていることに、
心臓が爆発しそうになっていた。
(これ……何? どうしてこんなに、ドキドキするの……)
王国最大の祭典――狩猟祭。貴族や王族たちが集い、森に潜む獣を狩り、その技を競い合う伝統行事だ。
「わぁ……森がこんなに広いなんて……!」
リオのアクアマリンの瞳がきらきらと輝く。隣でセピアも、いつになく興奮を隠せない様子だった。
「レビリアたん!あれ全部、僕たちが狩るの?」
「狩るっていうより……今日は見学がメインよ。絶対に私のそばから離れないこと、いいわね?」
「うん!約束する!」
セピアがにこっと笑い、リオがこくんと頷いた。
(そう、絶対に離さない……何があっても)
胸の奥で小さく誓いながら、私は手綱を握った。
馬上に乗るセピアは、案の定バランスを崩しかけ――
「わっ、わぁぁっ……!」
「ちょっ……セピア様!」
私は慌てて手を伸ばし、彼の腰を後ろから抱き寄せた。
柔らかな体温が一瞬、全身を包む。
(……な、何でこんな時にドキドキしてるのよ私)
「ご、ごめんレビリアたん……でも、あったかい」
「……っ! 馬に集中してくださいっ!」
***
森は静かだった――不自然なほどに。
(……おかしい。獣の気配より、人の気配の方が濃い)
私の首筋を、冷たい感覚が走った瞬間――
ヒュンッ!!
空を裂く音。
「――セピア様、伏せてっ!!」
私は迷わず馬上から飛び降り、腰の剣を抜いた。
ガキィィン!
飛来する矢を弾き飛ばす金属音が、森の静寂を破った。
「な、何……!?」
「セピア様、リオ! 私の後ろに!!」
木々の間から、黒装束の刺客たちが音もなく姿を現す。
――5人、いや6人……完全に“狩り”の標的はセピアだ。
一歩踏み出した瞬間、体が勝手に動いた。
「――っはぁぁぁっ!!」
鋭い剣閃が、月光のように空を切る。
一人目の男が剣を抜く前に、その腕を捻り上げ――
ドンッ!
体術で地面に叩きつける。
二人目が背後から斬りかかる。
キィィン!!
私は振り向きざまにその刃を弾き、柄で鳩尾を突いた。
呻き声を上げて崩れ落ちる刺客。
「す、すごい……レビリアたん……!」
セピアの声が、震えている。
リオは涙目で必死に私を見ている――(守らなきゃ、この子たちを絶対に……!)
三人目、四人目が同時に飛び込んでくる。
(来なさい、まとめて相手してあげる!)
私は一人の剣を弾き、回転しながらその勢いで二人目の足を払う。
木の葉が舞う中、二人は同時に地面に沈んだ。
だが――
「っ……!」
一瞬の油断。最後の一人の短剣が、私の腕をかすめた。
鮮血が舞い、痛みが脳を突き抜ける。
「レビリアたんっ!!」「おねえちゃん!!」
セピアとリオの声が、絶望に震える。
「……大丈夫、これくらい……」
強がる私を、セピアは真っ直ぐに見つめ――
ひょいっ
私の体を抱き上げた。
「ちょ、セピア様!? 離して――」
「離さない!!」
腕の中に閉じ込められ、心臓が跳ねる。
セピアはそのまま馬に飛び乗り、私を抱えたまま手綱を引いた。
「リオ、掴まって!」
「うんっ!」
バシュッ――!
馬が大地を蹴り、風を切って疾走する。
その間、セピアは私を胸に抱き寄せ、片手で手綱を操っていた。
「お願いだから……僕の前で、もう血を流さないで……!」
その声は必死で、震えている。
(……どうして、そんな顔するの……)
彼の胸に顔を埋めると、
ぎゅっ
さらに腕の力が強くなった。
そして――
彼の指が、私の髪にそっと触れ、撫でた。
その優しさに、胸の奥が熱く、痛くなる。
***
安全な場所に着くと、セピアは馬を止め、私をそっと地面に下ろす。
すぐに自分の上着を脱ぎ、私の傷口を押さえる。
「痛い……? 血、止まる?」
「……だ、大丈夫よ……」
必死な表情。汗が額を伝い、翡翠の瞳が私を射抜く。
(近い……呼吸が、苦しい)
「僕……レビリアたんを失うのが、怖い」
その声は、震えていて、熱い。
私は、何も言えなかった。
ただ――
彼の指がまだ、私の髪を撫でていることに、
心臓が爆発しそうになっていた。
(これ……何? どうしてこんなに、ドキドキするの……)
47
あなたにおすすめの小説
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
【本編完結】王子の寝た子を起こしたら、夢見る少女では居られなくなりました!
こさか りね
恋愛
私、フェアリエル・クリーヴランドは、ひょんな事から前世を思い出した。
そして、気付いたのだ。婚約者が私の事を良く思っていないという事に・・・。
婚約者の態度は前世を思い出した私には、とても耐え難いものだった。
・・・だったら、婚約解消すれば良くない?
それに、前世の私の夢は『のんびりと田舎暮らしがしたい!』と常々思っていたのだ。
結婚しないで済むのなら、それに越したことはない。
「ウィルフォード様、覚悟する事ね!婚約やめます。って言わせてみせるわ!!」
これは、婚約解消をする為に奮闘する少女と、本当は好きなのに、好きと気付いていない王子との攻防戦だ。
そして、覚醒した王子によって、嫌でも成長しなくてはいけなくなるヒロインのコメディ要素強めな恋愛サクセスストーリーが始まる。
※序盤は恋愛要素が少なめです。王子が覚醒してからになりますので、気長にお読みいただければ嬉しいです。
※本編完結しました。
※後日談を更新中です。
王女様は温かいごはんが食べたい ~冷えた王宮料理を変えたら、オープンキッチンと政略婚約がついてきました~
しおしお
恋愛
異世界の王女リリアーヌは、前世の記憶を持つ転生者。
豪華絢爛な王宮で暮らし始めた彼女だったが、ひとつだけどうしても耐えられないことがあった。
――食事が、冷めているのだ。
どれほど立派な料理でも、ぬるいスープや冷めた肉ではホッとできない。
「温かいごはんが食べたい」
そのささやかな願いを口にしたことから、王宮ではなぜか大騒動が巻き起こる。
地下厨房からの高速搬送。
専用レーンを爆走するカートメイド。
扉の開閉に命をかけるオープナー。
ついには食堂に火を持ち込むオープンキッチンまで誕生して――!?
温かさは、ホッとさせてくれる。
それは料理だけではなく、人との距離まで少しずつ変えていくものだった。
冷えた王宮に湯気と笑顔を取り戻す、
食と温かさをめぐる宮廷日常コメディ!
-
狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します
ちより
恋愛
侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。
愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。
頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。
公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。
【完結】家族に愛されなかった辺境伯の娘は、敵国の堅物公爵閣下に攫われ真実の愛を知る
水月音子
恋愛
辺境を守るティフマ城の城主の娘であるマリアーナは、戦の代償として隣国の敵将アルベルトにその身を差し出した。
婚約者である第四王子と、父親である城主が犯した国境侵犯という罪を、自分の命でもって償うためだ。
だが――
「マリアーナ嬢を我が国に迎え入れ、現国王の甥である私、アルベルト・ルーベンソンの妻とする」
そう宣言されてマリアーナは隣国へと攫われる。
しかし、ルーベンソン公爵邸にて差し出された婚約契約書にある一文に疑念を覚える。
『婚約期間中あるいは婚姻後、子をもうけた場合、性別を問わず健康な子であれば、婚約もしくは結婚の継続の自由を委ねる』
さらには家庭教師から“精霊姫”の話を聞き、アルベルトの側近であるフランからも詳細を聞き出すと、自分の置かれた状況を理解する。
かつて自国が攫った“精霊姫”の血を継ぐマリアーナ。
そのマリアーナが子供を産めば、自分はもうこの国にとって必要ない存在のだ、と。
そうであれば、早く子を産んで身を引こう――。
そんなマリアーナの思いに気づかないアルベルトは、「婚約中に子を産み、自国へ戻りたい。結婚して公爵様の経歴に傷をつける必要はない」との彼女の言葉に激昂する。
アルベルトはアルベルトで、マリアーナの知らないところで実はずっと昔から、彼女を妻にすると決めていた。
ふたりは互いの立場からすれ違いつつも、少しずつ心を通わせていく。
とっていただく責任などありません
まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、
団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。
この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!?
ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。
責任を取らなければとセルフイスから、
追いかけられる羽目に。
引きこもり少女、御子になる~お世話係は過保護な王子様~
浅海 景
恋愛
オッドアイで生まれた透花は家族から厄介者扱いをされて引きこもりの生活を送っていた。ある日、双子の姉に突き飛ばされて頭を強打するが、目を覚ましたのは見覚えのない場所だった。ハウゼンヒルト神聖国の王子であるフィルから、世界を救う御子(みこ)だと告げられた透花は自分には無理だと否定するが、御子であるかどうかを判断するために教育を受けることに。
御子至上主義なフィルは透花を大切にしてくれるが、自分が御子だと信じていない透花はフィルの優しさは一時的なものだと自分に言い聞かせる。
「きっといつかはこの人もまた自分に嫌悪し離れていくのだから」
自己肯定感ゼロの少女が過保護な王子や人との関わりによって、徐々に自分を取り戻す物語。
【コミカライズ決定】魔力ゼロの子爵令嬢は王太子殿下のキス係
ayame@アンジェリカ書籍化決定
恋愛
【ネトコン12受賞&コミカライズ決定です!】私、ユーファミア・リブレは、魔力が溢れるこの世界で、子爵家という貴族の一員でありながら魔力を持たずに生まれた。平民でも貴族でも、程度の差はあれど、誰もが有しているはずの魔力がゼロ。けれど優しい両親と歳の離れた後継ぎの弟に囲まれ、贅沢ではないものの、それなりに幸せな暮らしを送っていた。そんなささやかな生活も、12歳のとき父が災害に巻き込まれて亡くなったことで一変する。領地を復興させるにも先立つものがなく、没落を覚悟したそのとき、王家から思わぬ打診を受けた。高すぎる魔力のせいで身体に異常をきたしているカーティス王太子殿下の治療に協力してほしいというものだ。魔力ゼロの自分は役立たずでこのまま穀潰し生活を送るか修道院にでも入るしかない立場。家族と領民を守れるならと申し出を受け、王宮に伺候した私。そして告げられた仕事内容は、カーティス王太子殿下の体内で暴走する魔力をキスを通して吸収する役目だったーーー。_______________
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる