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♠︎決意♠︎弘田宇丈
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夕闇が迫る頃に、秋谷に向けて車を出した。
人目を気にする彼女を尊重し、軽く海沿いを走るだけにした。
オレは別に見られても構わないが…彼女は一応結婚しているし、旦那さんは議員だ。
旦那さん以外の男と二人きりで車に乗っているところなんかを見られるのは避けたいだろう。
海沿いを走らせながら、音楽をかける。昔から好きなヒップホップ…あ、みひろの趣味じゃないか。
「みひろさ、普段はどんな音楽聴くの?」
「そうですね…家にいるときはクラシックかイージーリスニングです」
「じゃあさ、なんか適当に好きそうなのかけていいから、選んで?」
スマホを渡して、音楽アプリから好きそうなのを探してもらうことにした。
「あの、さっきかけてたようなの…宇丈さん、好きなんですよね?」
「うん」
「じゃあ、聞いてみたい、です…」
「マジで?」
「はい」
とは言ってもな…。
せっかくのデート、ラップもいいけどロマンチックなほうがいい。
静か目でロマンチックな曲が多いアーティストを選び、再生ボタンを押した。
うん…夜の海沿い。初めての二人のドライブに…ぴったりだ。
「…宇丈さん」
「なに?」
対向車線のテールランプは途切れずに続いている。とは言っても夏前だから大した混みようじゃない。
仮にこの渋滞がこちら側でも、今のオレには苦じゃない。
助手席にみひろがいる。手を伸ばせば触れられる。
こんな風に出かけたり、時間を忘れて話したり、裸で抱き合って眠ったり…。そんなことができる日がくるなんて、思ってもいなかった。
「宇丈さん」
「ん?」
「…宇丈さんが眠っている間に、祖母の書斎に入りました」
「あ、うん」
突然言われて驚く。お祖母さんの書斎…彼女にとっては禁忌のような場所だったはずだ。
「なんか、あった?」
「はい。私宛の数冊のノートがありました」
「え?」
「全部、読んだんです」
「…何が書いてあった?」
「私の出生を知った時から…悩んだこと、苦悩したこと、母への悪口も…ありましたけど」
「うん」
「私に対しての…強い愛と、戸惑いと、どう接したらいいのかわからない、とか、とにかく色々…誰にも見せなかった内面の葛藤が、書いてありました」
「…うん」
「最後に、「みひろ、ごめんね」って。日付が…祖母が、脳梗塞で倒れた日の一週間前でした」
「うん…」
「祖母は、許して欲しかったんでしょうか…」
「ん…どうだろうな…」
みひろはしばらく沈黙した後、またぽつり、と話し始めた。
「祖母にされたこと、言われたこと…それらすべてが正しいとは思っていません。子どもに言うような言葉ではない言葉で侮蔑されたのは、例え祖母でも許せませんし」
「うん、だよな」
「辛くあたられたことや躾の厳しさ…諸々が、祖母の葛藤の結果だとしても、それを、何も知らなかった私に強いるのは間違いだったと思うんですね」
「うん」
「それでも..ふと、思えたんです」
「うん」
「祖母も…一人の人間だったんだな、って」
人目を気にする彼女を尊重し、軽く海沿いを走るだけにした。
オレは別に見られても構わないが…彼女は一応結婚しているし、旦那さんは議員だ。
旦那さん以外の男と二人きりで車に乗っているところなんかを見られるのは避けたいだろう。
海沿いを走らせながら、音楽をかける。昔から好きなヒップホップ…あ、みひろの趣味じゃないか。
「みひろさ、普段はどんな音楽聴くの?」
「そうですね…家にいるときはクラシックかイージーリスニングです」
「じゃあさ、なんか適当に好きそうなのかけていいから、選んで?」
スマホを渡して、音楽アプリから好きそうなのを探してもらうことにした。
「あの、さっきかけてたようなの…宇丈さん、好きなんですよね?」
「うん」
「じゃあ、聞いてみたい、です…」
「マジで?」
「はい」
とは言ってもな…。
せっかくのデート、ラップもいいけどロマンチックなほうがいい。
静か目でロマンチックな曲が多いアーティストを選び、再生ボタンを押した。
うん…夜の海沿い。初めての二人のドライブに…ぴったりだ。
「…宇丈さん」
「なに?」
対向車線のテールランプは途切れずに続いている。とは言っても夏前だから大した混みようじゃない。
仮にこの渋滞がこちら側でも、今のオレには苦じゃない。
助手席にみひろがいる。手を伸ばせば触れられる。
こんな風に出かけたり、時間を忘れて話したり、裸で抱き合って眠ったり…。そんなことができる日がくるなんて、思ってもいなかった。
「宇丈さん」
「ん?」
「…宇丈さんが眠っている間に、祖母の書斎に入りました」
「あ、うん」
突然言われて驚く。お祖母さんの書斎…彼女にとっては禁忌のような場所だったはずだ。
「なんか、あった?」
「はい。私宛の数冊のノートがありました」
「え?」
「全部、読んだんです」
「…何が書いてあった?」
「私の出生を知った時から…悩んだこと、苦悩したこと、母への悪口も…ありましたけど」
「うん」
「私に対しての…強い愛と、戸惑いと、どう接したらいいのかわからない、とか、とにかく色々…誰にも見せなかった内面の葛藤が、書いてありました」
「…うん」
「最後に、「みひろ、ごめんね」って。日付が…祖母が、脳梗塞で倒れた日の一週間前でした」
「うん…」
「祖母は、許して欲しかったんでしょうか…」
「ん…どうだろうな…」
みひろはしばらく沈黙した後、またぽつり、と話し始めた。
「祖母にされたこと、言われたこと…それらすべてが正しいとは思っていません。子どもに言うような言葉ではない言葉で侮蔑されたのは、例え祖母でも許せませんし」
「うん、だよな」
「辛くあたられたことや躾の厳しさ…諸々が、祖母の葛藤の結果だとしても、それを、何も知らなかった私に強いるのは間違いだったと思うんですね」
「うん」
「それでも..ふと、思えたんです」
「うん」
「祖母も…一人の人間だったんだな、って」
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