籠の鳥

橘 薫

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ペット志願

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「大丈夫!?」
 うんともすんとも反応しない一真くんを抱え、エレベーターに乗せる。このまま放置、は無理だ。できない。
 部屋に連れていき顔周りを温めたタオルで拭き、白湯を飲ませる。
服にも少し吐瀉物がついていたから、脱いでもらう。
「女もので悪いけど、これ着てて。わたしにはオーバーサイズだから多分ぴったりくらいだと思う」
 グレーのパーカーを渡し、バケツ、新聞紙、捨てても構わないバスタオルと大きなビニール袋を持って再びエントランスに戻る。吐瀉物の後始末をし、まとめたゴミを収集所に置いておく。念のため、管理人さんには報告してアルコール消毒をしてもらおうか……といっても、今日は土曜日。管理人さんは日曜は休みだから、月曜日の出勤時に声をかけるか。

 再び自分の部屋に戻ると、一真くんはソファに凭れてうつろな目をしていた。
「気分、どう?」
「美彩さん、いろいろすみません」
「何があったの」
「先輩に、部屋追い出されちゃって」
「追い出された?」

 聞けば、その先輩という人は相当お酒の癖が悪い人らしい。一真くんは居候させてもらう代わりにその人の家の家事雑事などをやっていたそうだが、今日は先輩が彼女と喧嘩し、酔っ払って帰ってきて一真くんにも無理やりお酒を飲ませたのだという。
「僕、お酒弱いんです……情けないですけど」
「そんなことないよ」
 先輩は一真くんをつぶした後に彼女さんに電話で仲直りをし、家に呼びつけたらしく、「お前邪魔だから今夜は帰ってくんな」って追い出されたのだという。

「ひどい人……こんな寒い日に追い出すなんて」
「でも、昔からお世話になってる人なんで」
「学校とか部活の先輩なの?」
「いえ」
 一真くんのミステリアスな瞳が昏く光る。銀髪をかきあげる指が、神経質に震えている。

「愛児園の先輩です」
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