籠の鳥

橘 薫

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ペット志願

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「愛児園?」
「身寄りのない子どもや、虐待を受けた子どもを育てる場所です」
「あ……、なんか、ごめん」
「謝ることないです」
 一真くんは控えめに「お湯、もう一杯貰えませんか」と空になったマグカップを差し出してきた。わたしはポットを取り、お湯を入れて渡した。

「先輩、面倒見良いし普段はみんなに頼られて、本当に良い人なんです。彼女さんもぞっこんだし、ただ酔うとちょっと、ってだけで」
「でも」
「まぁ、それでちょっと、手持ちもないし他に行くところも思いつかなくて……すみませんでした、後始末もしてもらっちゃって」

 不憫だ、と思った。愛児園だからそう思ったんじゃない。それを不憫だと思うのは傲慢な気がする。不憫だと感じたのは、彼が先輩の家を追い出されたら、わたしの家以外に行く場所を思いつかなかった、ということだ。

「すみません、本当に。落ち着いたら出ますから」
「一真くん」
 頭の中でぐるぐると考える。どうすべきか、そうしていいのかいけないのか。

 もし彼を泊めるなら、わたしはこの前のように彼を拘束しないと安心できない。でも、それはビジネスとして彼を買い、クラブの方も事前にわたしの性癖を知らせているわけだから、彼も納得の上でのこと。

 ても、今は。
 彼は酔わされ、吐いて、そして行き場所がない。でも、わたしの身の安全が保証されていない状態で、彼をうちに泊めることはできない。 
 財布の中身を思い出す。安いビジネスホテルに一泊するくらいの金額なら用意できる。

「一真くん」
「美彩さん」
 二人の声がかぶった。どうぞ、と示すと一真くんは、少し思い詰めたような声で言った。

「僕を、ペットにしませんか」
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