22 / 65
聖夜
1
しおりを挟む
「篠井ちゃん、今日も残業?」
「うん、あと少しで終わるからキリの良いところまでやっておかないと」
「クリスマスイブだよ? 予定ないの?」
「ないよ、見ての通り仕事が恋人だから」
声をかけて来たのは同僚の木村くんだ。クリっとした目が愛らしい彼は、「オレも独り身だけど今日は意地でも帰るよ! 篠井ちゃんも帰ろ!」と誘って来たけれども、わたしは頑なに残ることにした。
家に帰れば可愛らしい、従順なペットがご主人様の帰りを今か今かと待っている。その彼の期待通りに帰ってあげるほど、わたしは優しくもないし素直でもない。
あの日から二週間が経った。あの後、一真くんはわたしのペットになった。彼はソファで眠り、わたしはベッドで眠る。彼はよくできたペットで、わたしのためにご飯を作ったり掃除をしたりしてくれる。だからと言って絆されたりはしない……彼はあくまでもペットで、パートナーとかそういうものではないのだ。
最初は一真くんも拍子抜けしていたらしい。要求されること=セックス、だと思っていたのかもしれない。でも、わたしは言った。
「わたしね、基本的にあまり性欲がないの。ただ、排卵日と季節の変わり目が重なるとこの前あなたを買ったみたいに、専用のところで買うこともある。でもそれは、あくまでも欲の発散で、挿入してほしいとか一つになりたいとかそういうことじゃないのよ」
この二週間のわたしと彼の関係は、なんと言葉にするべきか。どちらかと言うとペットとご主人様というより召使いとご主人様、の方が相応しいかもしれない。
アルバイトの時間帯と重なっていなければ、一真くんは大概夕飯とお風呂の用意をしておいてくれる。いらない、と言ったけれども居候代だと言ってなけなしのバイト代の中から少しのお金を置いておいてくれる。これじゃあペットじゃないでしょ? と言うと、僕の気持ちの問題ですから、と言われる。
「追い出されない、ってすごくありがたいんです。毎日ビクビクしてた時と比べたら、今は天国です」
そんなふうに言う彼を、可哀想ともなんとも言えない感情がじんわりとわたしを包む。何をどう言葉にすべきか分からなくて、知らず沈黙するわたしによくできたペットの彼は、カモミールティーを淹れてくれるのだ……こんな気の利くペット、見たことがない。
「うん、あと少しで終わるからキリの良いところまでやっておかないと」
「クリスマスイブだよ? 予定ないの?」
「ないよ、見ての通り仕事が恋人だから」
声をかけて来たのは同僚の木村くんだ。クリっとした目が愛らしい彼は、「オレも独り身だけど今日は意地でも帰るよ! 篠井ちゃんも帰ろ!」と誘って来たけれども、わたしは頑なに残ることにした。
家に帰れば可愛らしい、従順なペットがご主人様の帰りを今か今かと待っている。その彼の期待通りに帰ってあげるほど、わたしは優しくもないし素直でもない。
あの日から二週間が経った。あの後、一真くんはわたしのペットになった。彼はソファで眠り、わたしはベッドで眠る。彼はよくできたペットで、わたしのためにご飯を作ったり掃除をしたりしてくれる。だからと言って絆されたりはしない……彼はあくまでもペットで、パートナーとかそういうものではないのだ。
最初は一真くんも拍子抜けしていたらしい。要求されること=セックス、だと思っていたのかもしれない。でも、わたしは言った。
「わたしね、基本的にあまり性欲がないの。ただ、排卵日と季節の変わり目が重なるとこの前あなたを買ったみたいに、専用のところで買うこともある。でもそれは、あくまでも欲の発散で、挿入してほしいとか一つになりたいとかそういうことじゃないのよ」
この二週間のわたしと彼の関係は、なんと言葉にするべきか。どちらかと言うとペットとご主人様というより召使いとご主人様、の方が相応しいかもしれない。
アルバイトの時間帯と重なっていなければ、一真くんは大概夕飯とお風呂の用意をしておいてくれる。いらない、と言ったけれども居候代だと言ってなけなしのバイト代の中から少しのお金を置いておいてくれる。これじゃあペットじゃないでしょ? と言うと、僕の気持ちの問題ですから、と言われる。
「追い出されない、ってすごくありがたいんです。毎日ビクビクしてた時と比べたら、今は天国です」
そんなふうに言う彼を、可哀想ともなんとも言えない感情がじんわりとわたしを包む。何をどう言葉にすべきか分からなくて、知らず沈黙するわたしによくできたペットの彼は、カモミールティーを淹れてくれるのだ……こんな気の利くペット、見たことがない。
0
あなたにおすすめの小説
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
灰かぶりの姉
吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。
「今日からあなたのお父さんと妹だよ」
そう言われたあの日から…。
* * *
『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。
国枝 那月×野口 航平の過去編です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる