39 / 65
馴れ合いは傲慢となる
4
しおりを挟む
一真くんは二日からが仕事始め。わたしは七日まで休みだと言ったら、彼はあからさまに「いいなぁ」と口を尖らせて羨ましがった。
「一応福利厚生がしっかりしてる会社だからね。組合もあるし」
「僕も正社員になりたいんですよね。今のところ、正社員登用試験が春にあるんで、それは受けるつもりでいます」
「そっか。がんばってね」
はい、と頷く一真くんを見ていると、なんとなく気持ちが癒される。他者との関係でこんな穏やかな気持ちになれたのはいつぶりだろう。
友達、同僚、恋人、家族……いつも、どこかで壁を作っていた。
けれども、一真くんはなんとなく違う気がした。壁はあるけれども、明らかに薄いのだ。その壁は向こう側の気配が伝わってきて、その気配が煩くない、邪魔にならない。あることを忘れてしまう時もあれば、一真くんの存在自体を忘れてしまう時もある。
実際、彼の、わたしの家での存在感は希薄だった。
荷物は大きめの段ボール二つの中にコンパクトにまとめている。そこいら中に出しっぱなし、ということをしない。
一度、荷物はそれで全部なのかと聞いたことがある。一真くんは当たり前だというように頷いて言ったのだ。「本当に必要なものって、大してないんです」と。
それでも、生活をしていれば何かしら増えてくるはずだ。でもそれを感じさせない。常に断捨離でもしているのだろうか。
一度、不思議に思って聞いたことがある。一真くんはあっけらかんと「スマホで全部済ませてますんで。漫画も音楽も映画も、スマホがあれば問題ないです」と言う。
じゃあなくしたら困るね、というと「マジで困りますね。この中、僕の全てが入ってるんで」と頷いた。
そんな彼に、ふと、大したものだはないけれどもあげたら喜ぶだろうか、なんて思ってしまったのだ。一真くんがいなくなったら、わたしが使えるもの。いつまでかはわからないけど、いつかはいなくなる彼が、わたしの部屋にいる間は便利に使えるものーー。
「一応福利厚生がしっかりしてる会社だからね。組合もあるし」
「僕も正社員になりたいんですよね。今のところ、正社員登用試験が春にあるんで、それは受けるつもりでいます」
「そっか。がんばってね」
はい、と頷く一真くんを見ていると、なんとなく気持ちが癒される。他者との関係でこんな穏やかな気持ちになれたのはいつぶりだろう。
友達、同僚、恋人、家族……いつも、どこかで壁を作っていた。
けれども、一真くんはなんとなく違う気がした。壁はあるけれども、明らかに薄いのだ。その壁は向こう側の気配が伝わってきて、その気配が煩くない、邪魔にならない。あることを忘れてしまう時もあれば、一真くんの存在自体を忘れてしまう時もある。
実際、彼の、わたしの家での存在感は希薄だった。
荷物は大きめの段ボール二つの中にコンパクトにまとめている。そこいら中に出しっぱなし、ということをしない。
一度、荷物はそれで全部なのかと聞いたことがある。一真くんは当たり前だというように頷いて言ったのだ。「本当に必要なものって、大してないんです」と。
それでも、生活をしていれば何かしら増えてくるはずだ。でもそれを感じさせない。常に断捨離でもしているのだろうか。
一度、不思議に思って聞いたことがある。一真くんはあっけらかんと「スマホで全部済ませてますんで。漫画も音楽も映画も、スマホがあれば問題ないです」と言う。
じゃあなくしたら困るね、というと「マジで困りますね。この中、僕の全てが入ってるんで」と頷いた。
そんな彼に、ふと、大したものだはないけれどもあげたら喜ぶだろうか、なんて思ってしまったのだ。一真くんがいなくなったら、わたしが使えるもの。いつまでかはわからないけど、いつかはいなくなる彼が、わたしの部屋にいる間は便利に使えるものーー。
0
あなたにおすすめの小説
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる