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馴れ合いは傲慢となる
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家に帰ると一真くんの姿はなく、なんとなくほっとしながらお弁当を出し、手早く洗う。夕飯、どうしようかなと冷蔵庫の中を覗き、寒いから火鍋にでもしようと支度を始めると、一真くんが帰ってきた。
「ただいまです。美彩さん、お帰りなさい」
「一真くんもお疲れ様。今日遅番だったのね」
「はい。シフトはしばらく遅番です」
「晩御飯、今から作るけど一緒に食べる?」
「良いんですか? 僕、手伝います」
上着を脱ぎ、袖を捲って手を洗い始めた一真くんを何の気なしに見ていると、彼の目線は水切りカゴに置いた曲げわっぱに注がれていることに気がついた。
「お弁当美味しかった。ありがとう」
「いえ、お礼ですから」
その言葉に、彼の謙虚さを改めて知る。本当に……良い子なのだ。
私はそれ以上お弁当の話題にならないように、あれこれと質問しながら手を動かした。仕事のこと。学校のこと。過去の恋愛のこと……普段と違う饒舌さに、一真くんは何か察したようだった。
「美彩さん、話遮って悪いんですが、また弁当作っても良いですか」
「あ……、え、っと」
唐突に繰り出されたその言葉に、良い返事が浮かばない。一真くんを傷つけずに断るには、どう言えば良いだろうか。
「本当は口に合わなかったんじゃないですか」
「違うよ、ちゃんと美味しかった」
畳み掛けるように聞かれて思わず本音が出た。
「その……会社の人にお弁当、ちょっと、茶化されたというか、詮索されたというか……面倒くさいと思っちゃってね、そういうの。だから、家で料理してくれるのは構わないんだけど、お弁当はやっぱりいいかな、って」
「……」
「味は良かったの。わたしにはちょっと濃かったけど、一真くんわりと味濃いもの好きだし、濃過ぎたわけじゃないしね。ただ、会社に持っていくとまた何か言われたり、それに適当に返事しないといけないのとかが、ちょっと」
「わかりました」
一真くんは微笑んだ。
「ただいまです。美彩さん、お帰りなさい」
「一真くんもお疲れ様。今日遅番だったのね」
「はい。シフトはしばらく遅番です」
「晩御飯、今から作るけど一緒に食べる?」
「良いんですか? 僕、手伝います」
上着を脱ぎ、袖を捲って手を洗い始めた一真くんを何の気なしに見ていると、彼の目線は水切りカゴに置いた曲げわっぱに注がれていることに気がついた。
「お弁当美味しかった。ありがとう」
「いえ、お礼ですから」
その言葉に、彼の謙虚さを改めて知る。本当に……良い子なのだ。
私はそれ以上お弁当の話題にならないように、あれこれと質問しながら手を動かした。仕事のこと。学校のこと。過去の恋愛のこと……普段と違う饒舌さに、一真くんは何か察したようだった。
「美彩さん、話遮って悪いんですが、また弁当作っても良いですか」
「あ……、え、っと」
唐突に繰り出されたその言葉に、良い返事が浮かばない。一真くんを傷つけずに断るには、どう言えば良いだろうか。
「本当は口に合わなかったんじゃないですか」
「違うよ、ちゃんと美味しかった」
畳み掛けるように聞かれて思わず本音が出た。
「その……会社の人にお弁当、ちょっと、茶化されたというか、詮索されたというか……面倒くさいと思っちゃってね、そういうの。だから、家で料理してくれるのは構わないんだけど、お弁当はやっぱりいいかな、って」
「……」
「味は良かったの。わたしにはちょっと濃かったけど、一真くんわりと味濃いもの好きだし、濃過ぎたわけじゃないしね。ただ、会社に持っていくとまた何か言われたり、それに適当に返事しないといけないのとかが、ちょっと」
「わかりました」
一真くんは微笑んだ。
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