籠の鳥

橘 薫

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馴れ合いは傲慢となる

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「弁当はやめときます。迷惑かけてしまってすみません」
「迷惑だなんて……全然、そんなことないんだけど。逆にごめんね、せっかくの気持ちなのに」
「いえ、それ以外でお礼を表せれば僕は構わないんで」
 手早く白菜を切り、ネギやエノキにも手を出す一真くん。やはりわたしよりも手際が良い。

「……僕、ちょっと聞きたいことがあるんです。答えにくかったら答えなくていいですから」
 ざくり、と一真くんがエノキを切る。わたしは冷蔵庫から豚バラ肉と牡蠣、焼き豆腐を取り出した。土鍋に出し汁を注ぎ、火をつける。

「美彩さん、性欲はあまりないってことでしたけど、僕が、その、されてる姿を見て……濡れるじゃないですか。それで終わりで、大丈夫なんですか」
「ちょっと」
 突然問われたことに、挙動不審になる。鍋に入れようとしていた白菜を、いくつか落としてしまった。
「すみません、こんなこと聞いて」
「いいけど……。つまり、わたしが満足してないんじゃないか、って心配してくれてるの?」
「はい。僕だけ気持ち良くなって申し訳ないな、って」
「一真くんが気持ち良くなってるのを見るのは好きよ。焦らされてもどかしそうにしてるのも大好物だし」
「でも、前の彼氏さんのときは、美彩さんは僕の立場だったわけですよね」
「何が言いたいの」

 一真くんは煮えた鍋の中に一口サイズに切った豚バラ肉と、牡蠣を入れていく。入れながら、こちらを見ずに言った。
「もし、美彩さんが……縛られたいとか、焦らされたいって気持ちがあるなら、僕……」
 躊躇いつつも伝えようとするのは、献身からなのだろうか。
「縛るとかやったことないんで、全然わかりませんけど。もし美彩さんが許してくれるなら、僕、美彩さんをもっと気持ち良くしてあげたいです」
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