籠の鳥

橘 薫

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ドミナント

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 最初は本気じゃないと思った。ううん、本気だとしても、その度合いはおそらく軽いもの。けれども、彼はその日以降も何度となくわたしに頭を下げた。それこそ、こちらが折れたくなるほどしつこかった。

 最終的に根負けしたわたしは、彼の要求を受け入れた。ただし、条件付きだった。

 二人の予定を合わせて決行日を決める。そしてその日まで、互いに会話もしなければ目も合わせない。極力接触を避けるのだ。

 これはわたしがあの男からされたことを、そのプロセスを一つ一つなぞるものだった。あの当時、わたしは心底あの男を愛していたから、この仕打ちは相当に応えた。なにせ電話をしてもメールをしても、一切の返事がなかったからだ。

「美彩、約束した日までに最上の体を作りなさい」
 そう言われても何をすればいいのか皆目わからず。必死で考え、ダイエットをし、プロテインを飲み、運動して風呂上がりには必ず全身にバラの香りのボディクリームを塗り込んだ。
 約束の日の前日にはネイルサロンに赴き、手と足の指にネイルを施し、メイクも完璧に決め、髪も巻いた。どんな下着を身につけても大丈夫なように、処理も怠らなかった。

 磨き上げた体であの男の家に赴く。命令された通り、下着はつけずに素肌に服を纏い、コートを羽織って。
 一見普通の格好でも「下着をつけていない」ということは強い刺激になって、わたしの瞳は期待で潤んでいた。

 それを、再現するのか。愛してもいない、年下の男の子の興味を満たすために。
 一真くんはいい子だし、ミステリアスな雰囲気は嫌いじゃない。生意気そうに見えて献身的で、いつもわたしの様子を伺い、控えめな存在感。決して……嫌いな相手では、ないのだけど。
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