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沼
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あの男が「やってみたい」と最初に取り出したのはアイマスクだった。視界を奪われ、わたしの視覚に振り分けられていた感覚は残りの嗅覚、聴覚、味覚、触覚へと振り分けられた。
見えない分だけ音に、香りに、触れられる指先の感触に敏感になる。吐息に僅かに含まれるのは、マウスウォッシュのミントの香り。体を覆うのは、ココナッツとバニラ、という意外にも南国のような甘い香り。聞けば、ビーチやリゾート気分になれるから、という理由でその香りのボディクリームを愛用していた。
唇に触れる、彼の指。柔く、少し固い皮膚。口に含むと四角張った爪がわたしの歯列をなぞる。
小指に嵌めたリングが当たる。結婚指輪はしない主義だと言っていた。
温かな指先を含んだ後、柔く噛まれた唇。差し込まれた舌に乗っていた氷の冷たさに怯んだら、「これも使うよ」と……更なる刺激を与えられて、濡れた。
一真くんが立ち上がり、足音が遠ざかる。キッチンから冷凍庫を開ける音。本当に、同じことをしてくれるつもりなのか。氷をグラスに入れている音がする。わたしは一真くんに言った。
「アイマスク、させてくれる?」
返事もなく、目の上にそっとアイマスクを当てられる。後頭部にゴムをかけ、ずれないように微調整。私は恐る恐る、マスクの下で薄目を開く。真っ暗。これで視覚は奪われ、手の自由もない。
氷の先端で、体のラインをなぞるの。触れる面積はほんの少し、触るか触らないかくらい。ゆっくりと、敏感な部分に当てたり、なぞったり、円を描いたりして。ずっと当てていると冷たすぎてエロティックな刺激にならないから。刺激はね、常に与えられると慣れてしまうの。だからほんの少し。
胸の先端に氷が当てられ、その冷たさに体が竦む。ゆっくりと、円を描くように滑るそれ。固くなった先端に触れては離れ、を繰り返す。
「しゃぶって。氷を口に含んで、乳首をしゃぶりながら舌と氷で交互に」
一真くんは何も言わない。けれども、約束通りに彼は実行してくれる。あの男のした行動、私を気持ちよくさせ、永遠に隷属させるための、虜のままでいさせるための、支配の示威。
見えない分だけ音に、香りに、触れられる指先の感触に敏感になる。吐息に僅かに含まれるのは、マウスウォッシュのミントの香り。体を覆うのは、ココナッツとバニラ、という意外にも南国のような甘い香り。聞けば、ビーチやリゾート気分になれるから、という理由でその香りのボディクリームを愛用していた。
唇に触れる、彼の指。柔く、少し固い皮膚。口に含むと四角張った爪がわたしの歯列をなぞる。
小指に嵌めたリングが当たる。結婚指輪はしない主義だと言っていた。
温かな指先を含んだ後、柔く噛まれた唇。差し込まれた舌に乗っていた氷の冷たさに怯んだら、「これも使うよ」と……更なる刺激を与えられて、濡れた。
一真くんが立ち上がり、足音が遠ざかる。キッチンから冷凍庫を開ける音。本当に、同じことをしてくれるつもりなのか。氷をグラスに入れている音がする。わたしは一真くんに言った。
「アイマスク、させてくれる?」
返事もなく、目の上にそっとアイマスクを当てられる。後頭部にゴムをかけ、ずれないように微調整。私は恐る恐る、マスクの下で薄目を開く。真っ暗。これで視覚は奪われ、手の自由もない。
氷の先端で、体のラインをなぞるの。触れる面積はほんの少し、触るか触らないかくらい。ゆっくりと、敏感な部分に当てたり、なぞったり、円を描いたりして。ずっと当てていると冷たすぎてエロティックな刺激にならないから。刺激はね、常に与えられると慣れてしまうの。だからほんの少し。
胸の先端に氷が当てられ、その冷たさに体が竦む。ゆっくりと、円を描くように滑るそれ。固くなった先端に触れては離れ、を繰り返す。
「しゃぶって。氷を口に含んで、乳首をしゃぶりながら舌と氷で交互に」
一真くんは何も言わない。けれども、約束通りに彼は実行してくれる。あの男のした行動、私を気持ちよくさせ、永遠に隷属させるための、虜のままでいさせるための、支配の示威。
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