籠の鳥

橘 薫

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 一真くんは忠実に、わたしが語るあの男の愛し方を、焦らしを再現してくれる。
 足を開かされ、局部に注がれる熱い視線。見られている、と思うと一層体は熱く反応する。まるで舐られているかのように、わたしのその部分を見ているであろうあの男は、そこがどんな状態かを仔細に説明した。

「すごく、艶かしいです……南国の花とか、食虫植物みたいな印象です。なんていうか、見ているだけで引き込まれる……色とか、ぬめりとかが、こう、凄くて」
 一真くんは言葉を尽くして説明してくれる。それを聞くわたしの聴覚は研ぎ澄まされ、彼が紡ぐ言葉に含まれる逡巡や羞恥を感じ取る。

「濡れてます、凄い濡れてる。それが、なんていうか、ほんとに……艶かしくて目が離せない。凄い魅力的です。喰われたい、って思っちゃいます。喰われたら、たぶん、気持ち良いんじゃないかな、って」
 あの男の言うこととはかけ離れていて、拙いけれども。一真くんが懸命に言葉を選び、目を奪われつつもなんとか伝えようとしてくれているのは、合間に飲み込む唾の音や、発声のときの掠れ具合で……わかる。耳から忍び込む、一真くんの声は、別の意味でわたしの足の間をウェットにする。

 与えられないもどかしさと、与えてもらえるかもしれないという期待。その狭間で何度も繰り返される「与えられない」絶望。体は快楽を求めて止まないというのに、望む触れ方はされず、感度の高いところへの刺激は最小限で、焦れて焦れて、仕方がない。

 快楽を求めるわたしを見ることは、あの男の支配欲を満足させたのだろうか。とことん求められて、自己肯定感は上がったのだろうか。
 与えられたわたしは、全身全霊を投げ出してあの男に忠誠を誓った。それはあの男にとって、一人の女の人生を手中にしたかのような勝利感だったのだろうか。
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