籠の鳥

橘 薫

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語られる真実

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「あの男とはとっくに終わってた。関係を切ってからは一切連絡を取ってないし向こうも連絡なんかしてこなかった。あの男にとってわたしは、家族を犠牲にしてまで手に入れたい女じゃなかった、ってことよ」
 神崎にとっては、家族と天秤にかけるほどにもならなかった相手。それがわたしだ。所詮は支配欲を満たしたかっただけで、共に生きるとか、未来を見るとか、前向きで建設的な間柄ではなかったのだ。

 それを認めるのは辛かった。口に出しながら苦しくてたまらない。特別な相手でありたかったけれども、ただわたしが一方的に好きで、愛して、惚れ込んでいただけで、神崎にしてみたら都合の良い相手でしかなかったのだから。

「美彩さん」
「なによ」
「幸せになってください」
「は?」
 一真くんの声に、なんとなく悲しげな気配を感じる。どうして私を憐れむのか。いや、こんな、一回り以上も歳の離れた男の子に憐れまれるなんて、私も焼きが回ったものだ、と自嘲気味に考える。

「ちひろのお父さんではあるけれども……誠実ではなかったあの男よりも、きっと、美彩さんを大切にしてくれる人、現れると思います」
「なに、言ってるの」
「あなたは優しすぎるんですよ。僕、ちひろに話を聞いたときに、きっと相手の女はわがままで、他人を踏みつけても平気なんだろうって決めつけてました。そんな女なら、不幸になって当たり前だ、いっそ、めちゃくちゃ不幸だったよ、ってちひろに報告しようかと思ったくらいです」

 不幸で当たり前、か。確かに既婚者とそうなっただけでなく、あんな関係性を持ったことは、違う視点から見たら許せないことであるのは理解できる。けれども……。

「初めて美彩さんに声をかけたとき、あなたの瞳の鬱屈としたものに僕、正直内心腰が引けました。まるで底なし沼みたいに孤独を溜めていて……なのに、とても親切で」
「そう……そんなふうに見えたんだ」
「はい」
 一真くんの目に映るわたし、か。
 他人からどう見えようが別に構わないし気にしたこともない。三十半ばで独身、なんて決して珍しいわけでもない。
 その独身の理由がなんであれ、たとえ他人から不幸に思われようと、わたし自身がそう感じていないなら、それでいいのに。
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