籠の鳥

橘 薫

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語られる真実

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「あなたが持つ孤独とか、壁とか、そういうものがあなたを魅力的に見せてもいる。放って置けない何かがある。ここで手を離したら溺れてしまうだろうに、あなたはきっと、自分よりも他の誰かを助けてあげてと自ら手を離してしまう人だ」
「そんなの、誤解だよ」
「誤解かもしれませんが、僕はそう感じましたよ。だからこそ、ちひろのお父さんの狡さに憤りました」

 ポツポツと話す彼は、なんのためにこんな話をしているのか。わたしは段々と面倒くさくなってきた。
もうやめて。あの男がこの世にいなくなった悲しみに浸りたいのに、今度こそ本当の喪失に枯れるまで泣きたいのに、話しかけて思考させて、わたしを悲しみに浸らせないようにするのはどうしてなのか。

「だからもう、幸せになって欲しいです。あなたは優しくて美しくて、可愛らしい人だ。あんな男にその心も体も捧げるなんて、おかしいですよ」

 立ち上がる気配がした。一真くんは、どこに行くのだろう。そう思ったとき、案外近くに彼の呼吸を感じた。
 アイマスクをしたままで視界を奪われ、両手は、変わらずに手枷が嵌っている。そのアイマスクの上に、何かの圧をふと感じ、けれどもそれはすぐに離れた。

「これ、手枷の鍵です。自分で外せますよね? 僕、もうここにはもう戻りません。ちひろに報告に行きます」
 右手に握らされる鍵。その、小さな金属の冷たさはわたしの心に引っかかる。
「僕の荷物は、捨ててもらって構わないです。せっかく棚を買ってもらったのに、申し訳ないですけど」

 衣ずれの音。コートを着込んでいるのか。リュックを背負い、スニーカーを履いて出ていくのか。きっと彼にとっては、ここで過ごした数ヶ月は、神崎とわたしの関係を明らかなものにするための手段の一つで、わたしの柔らかな部分を踏み躙ったことに、一切気が付いていないのだ。
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