64 / 65
語られる真実
5
しおりを挟む
「あなたが持つ孤独とか、壁とか、そういうものがあなたを魅力的に見せてもいる。放って置けない何かがある。ここで手を離したら溺れてしまうだろうに、あなたはきっと、自分よりも他の誰かを助けてあげてと自ら手を離してしまう人だ」
「そんなの、誤解だよ」
「誤解かもしれませんが、僕はそう感じましたよ。だからこそ、ちひろのお父さんの狡さに憤りました」
ポツポツと話す彼は、なんのためにこんな話をしているのか。わたしは段々と面倒くさくなってきた。
もうやめて。あの男がこの世にいなくなった悲しみに浸りたいのに、今度こそ本当の喪失に枯れるまで泣きたいのに、話しかけて思考させて、わたしを悲しみに浸らせないようにするのはどうしてなのか。
「だからもう、幸せになって欲しいです。あなたは優しくて美しくて、可愛らしい人だ。あんな男にその心も体も捧げるなんて、おかしいですよ」
立ち上がる気配がした。一真くんは、どこに行くのだろう。そう思ったとき、案外近くに彼の呼吸を感じた。
アイマスクをしたままで視界を奪われ、両手は、変わらずに手枷が嵌っている。そのアイマスクの上に、何かの圧をふと感じ、けれどもそれはすぐに離れた。
「これ、手枷の鍵です。自分で外せますよね? 僕、もうここにはもう戻りません。ちひろに報告に行きます」
右手に握らされる鍵。その、小さな金属の冷たさはわたしの心に引っかかる。
「僕の荷物は、捨ててもらって構わないです。せっかく棚を買ってもらったのに、申し訳ないですけど」
衣ずれの音。コートを着込んでいるのか。リュックを背負い、スニーカーを履いて出ていくのか。きっと彼にとっては、ここで過ごした数ヶ月は、神崎とわたしの関係を明らかなものにするための手段の一つで、わたしの柔らかな部分を踏み躙ったことに、一切気が付いていないのだ。
「そんなの、誤解だよ」
「誤解かもしれませんが、僕はそう感じましたよ。だからこそ、ちひろのお父さんの狡さに憤りました」
ポツポツと話す彼は、なんのためにこんな話をしているのか。わたしは段々と面倒くさくなってきた。
もうやめて。あの男がこの世にいなくなった悲しみに浸りたいのに、今度こそ本当の喪失に枯れるまで泣きたいのに、話しかけて思考させて、わたしを悲しみに浸らせないようにするのはどうしてなのか。
「だからもう、幸せになって欲しいです。あなたは優しくて美しくて、可愛らしい人だ。あんな男にその心も体も捧げるなんて、おかしいですよ」
立ち上がる気配がした。一真くんは、どこに行くのだろう。そう思ったとき、案外近くに彼の呼吸を感じた。
アイマスクをしたままで視界を奪われ、両手は、変わらずに手枷が嵌っている。そのアイマスクの上に、何かの圧をふと感じ、けれどもそれはすぐに離れた。
「これ、手枷の鍵です。自分で外せますよね? 僕、もうここにはもう戻りません。ちひろに報告に行きます」
右手に握らされる鍵。その、小さな金属の冷たさはわたしの心に引っかかる。
「僕の荷物は、捨ててもらって構わないです。せっかく棚を買ってもらったのに、申し訳ないですけど」
衣ずれの音。コートを着込んでいるのか。リュックを背負い、スニーカーを履いて出ていくのか。きっと彼にとっては、ここで過ごした数ヶ月は、神崎とわたしの関係を明らかなものにするための手段の一つで、わたしの柔らかな部分を踏み躙ったことに、一切気が付いていないのだ。
0
あなたにおすすめの小説
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる