キング・オブ・アウト ~半分が裏社会に呑み込まれた世界で法則の力『則』と法則のを超えた力『則獣』を駆使してマフィアの頂点を目指す!!

NEOki

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第5話 『則獣』

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 正午の日差しが差し込みトロトロと時間が流れている一室にて、二つのサイズが違う影が浮かんでいた。

 一つは黙々と机に向かい、ペンを動かして何かを書いている少年の陰。

 もう一つは本を膝の上に開いたまま姿勢を窓の外に向けて物思いに耽っている壮年男性の陰。



「よって(2mn+m)は整数。つまり2(2mn+n)は2に整数を掛けるという事、、、どんな整数も二倍すると偶数に成る、、、ので、偶数と奇数の積は偶数に、なるッ!! できた、終わったよトムハット!! これで今日の授業は終わりでしょ?」



 成人の半分にも満たない年齢の少年は、勉強というストレスから解放された喜びを全身で表す為にイスの上で飛び跳ねた。

 どうやら数学の問題を解いていたらしい。



「・・・もう終わったか。まったく、褒美を貰わなければ全力を出せない性格をいい加減直さなくては駄目だぞ。だが、良く頑張ったな、、、」



 トムハットと呼ばれてた壮年男性はゆっくりと立ち上がり、少年の元に歩みよって頭を撫でた。

 その手は多少乱暴だが、少年は嬉しそうに頭を揺らし柔らかくて暖かい笑顔を振りまく。



「それより採点だよ!! 満点を取ったらマフィアのお話をしてくれるって約束、忘れてないよね?」



「約束ぅ? はてなぁ~、、、」



 トムハットはワザとらしく首を捻り、視線を逸らした。



「はあ!? 忘れた振りするつもりだなこのッ耄碌ジジイ!!」



「なんだとッ!! 教師に向かって『耄碌ジジイ』とは何事だ!!」



 少年の突然の暴言にトムハットは驚き、そして透かさず教訓的指導チョップを脳天に叩き込んだ。

 チョップは見事に命中し、少年は「いでぇぇぇ!!」とうめき声を上げながら頭頂を擦る。



「全く、、、何処からそんな言葉を吸収してくるのか。他の者には此処で汚い言葉を使うなと釘を刺しているというのに」



「パパから教えてもらった!!」



「あの人か、、、ボスは自分の息子をどう育てたいのかビジョンが伝わってこない。裏社会の事を知らせる事を禁止しているにも関わらず、協調性や社会性を教えようとしない、、、」



 暴言の元凶がこの子の父親である事を知ってトムハットは頭を抱える。

 そんな彼の袖が数度引っ張られた。



「ねえ、本当に約束忘れちゃったの? 指切りしたじゃん、、、」



 袖を引っ張られた方に視線を移すと其処には少年が立っており、涙が詰まった瞳でトムハットを見上げていた。

 『本気で彼が約束を忘れてしまったのでは?』と不安に成ったのだろ。



「あぁ、済まない冗談だよ。ちゃんと100点を取れれば少しだけ裏社会の事、マフィアの事を教えよう」



 そう言ってトムハットは赤ペンを取り、少年が書いたプリントを採点し始めた。

 中々の難問が紙全体に所狭しと敷き詰められているが、スルスルと赤マルが増えていく。



「へへっ、どうせ採点しなくても満点だよ!」



 少年はかなり自信が有る様で、トムハットの採点を薄笑いを浮かべながら眺める。

 そして全ての問題に赤マルが付けられた。



「ほらね! 僕の言った通りでしょ? 満点だから約束通りパパ達のお仕事の話を聴かせてもらうよ!!」



「フッ、其れはどうかな!!」



 少年が満点を確信した瞬間、トムハットは鼻を鳴らして勢いよくプリントを裏返した。

 そして其処には角の端に小さく最後の問題が刻まれており、彼はゆっくりと噛みしめる様にペケを付けた。



「はい、98点」



「はあ!? 何時もテストは一面だけだったじゃん!! 裏に一問だけある何て気付く訳ないし、気付かせるつもりも無かっただろ!!」



 トムハットは不敵な笑みを浮かべ、少年は驚愕と不満で表情を埋める。



「今まで裏面に問題が書かれていなかったかとしても、今回書かれないという保証はどこにも無いだろ? 勝手に自分の都合がいい解釈をして個体概念に囚われたお前の負けだ。ま、今回は特別に私の優しさで話はしてやろう」



「・・・僕に百点を取られたくなかっただけでしょ」



「生徒の鼻っ柱を折り、驕らず向上心を維持させてやるのも教師の務めなのだよ」



 ディーノは軽くため息を付いたが、とにかく話が聴けるならそれで良いといった様子でイスに座った。

 その様子を見てトムハットは話を始める。



「前回は何処まで話したか、、、則の話までか?」



「次は則獣!! 則獣の話を次はしてくれるって約束した!!」



 少年はイスに座って勉強していた時とは目の色が変わり、キラキラとした目で足を振り回しながら話を催促する。



「おう、そうだったか。では今日は約束通り則獣の話をしよう、、、その前に少しおさらいだ、則とは何だったかな?」



「法則を制御する力!!」



 少年は質問を投げ掛けられると即座に返答を返した。

 何度も口ずさんで、唇が形を覚えているかの様に滑らかに動いて言葉を紡ぐ。自分の名前を言うような調子だ。



「その通り、則とは法則を制御する力。第十三神経によってのみ人間はこの則に干渉する事ができ、法則を支配する事によって超現実的な力を手に入れ、異常な戦闘能力や異常な回復能力を発揮する事ができる」



 少年は楽しそうにウンウンと頷いく。



「一方で則獣とは、分かりやすく言うと則の集合体。個人、又は複数人が純粋で強烈な一つの感情を発した時に、僅か数%の確率で発生する則の以上濃縮によって発生する生物の形をした謎の物質だ」



「すごい版の則って事か!!」



 ディーノの興奮ボルテージはマックスに達し、鼻息荒くトムハットの言葉全てに反応している。



「確かに則と同く第十三神経で繋がり、人間に超現実的な力を与えてくれる存在である。しかしその本質は則とは正反対だ」



「せい、はんたい、、、?」



「そう正反対。則と則獣の違いはただ一つ、その力がこの世の法則の範疇か逸脱しているか。則の力をコントロールすれば法則の範囲内の全ての事象を起こすことが出来る一方で、則獣はこの世の法則では絶対に有り得ない能力を人間に与える」



 トムハットの言葉に少年は一瞬頭を傾げる事となった。

 しかし直ぐに何か思いついた様で、顔を上げて口を大きく開く。



「わかった!! つまり瞬間移動とか時間停止とかでしょ!!」



「流石だな。自分が存在している座標を瞬間的に移す事や、一方向へ常に流れ続ける時間を止める事は、法則の縛りの中では不可能。まあ、空間全てのエネルギーを消失させれば時間停止と言えなくも無いが、、、とにかく則獣は屈服させて繋がりを作った者に法則の外側の力を与えるんだ」



「すげえッ!! カッケー!! ねえねえッその則獣をパパは持ってるの? それに持ってるなら、パパの則獣の能力は何なの?? 教えてトムハット!!」



 則獣の説明を聞き終えた少年は興奮の余り飛び上がり、弾丸の様に質問を投げ掛けた。



「本当は則獣の能力を流す事は御法度なんだが、、、まあボスの能力は有名過ぎて簡単に調べられるから教えても良いだろう」



 トムハットは数秒悩んだ後、表情を緩めて言った。



「君の父親、そして我々レヴィアスファミリーの偉大なるボスの則獣が持ってる能力は、、、」



◇ ◇ ◇



「俺は決めたぞルチアーノッ!! もう出し惜しみは無しだ、今この瞬間この場所で俺の全てを出し切りお前にぶつける!!」



 クラウディオは則獣『プレディオーネ』を開放し、能力によって巨大な隕石を降らせながら叫んだ。



「はは、、、グラウディオスお前則獣使えたのかよ。面白く成ってきたじゃん!!」



 ルチアーノは自分達目掛けて一直線に落下してきている隕石を見上げて乾いた笑い声を上げ、初めて戦闘用の構えを見せた。

 体を若干半身にし、右手を肩辺りまで上げて手平を軽く開く。

 そして表情を一切変えないまま、明日の天気でも尋ねるような口調でとんでもない質問をした。



「なあ、その則獣の能力って何?」



「・・・はぁ?」



 完全に戦闘モードに入っていたクラウディオの力が、思わぬ質問によって穴開いた風船の様に抜けていく。

 何から何かまで相手にペースを握らせない男である。



「貴様ッ笑わせるなよ、、、敵を前にして自分の切り札である則獣の能力をバラす訳が無いだろ!!

則獣は能力が全てだ、対策されれば其処までだからな」



「そっか、じゃあ俺の則獣の能力も教えるよ!!」



「お前の能力は有名過ぎて取引に成らん!! ファミリーで一定以上の地位を持っている人間で、その能力を知らない者など存在せんわッ!!」



 ルチアーノの能力はその名と同等に有名で、知らぬ者が居ないレベルだ。

 しかし逆に、手の内に秘めているカード全てが丸見えでもなお最強の椅子に座り続けている事実こそが、この男の強さの証明であった。



「この条件でダメか~、、、なら、アレを一歩も逃げず正面から受けるって言うのはどう?」



 そう言いながらルチアーノが軽く指差した先にあったのは、現在絶賛自分達に向けて落下中の隕石であった。



「あ、あの隕石をか?」



「そう。それ以外に何かある?? あの隕石を俺が受ける代わりに、君は能力の内容を話す」



 驚きの提案を受けてクラウディオは困惑を隠せず、数秒の間黙って思考に時間を割いてしまった。



「何考える事あるの? どうせあの程度の隕石が君の限界でしょ?? アレで倒せなかったもう打つ手が無いんだから、能力バレても問題無いじゃん」



 思考を邪魔する様に投げかけられた言葉に眉間の青筋を隆起させるが、クラウディオにアレ以上の攻撃が無いのもまた事実である。

 正直隕石を当てる事が出来るなら能力を知られても問題はない。



「・・・俺の則獣『プレディオーネ』の能力は、攻撃の対象と4つある選択肢の中から発動する事象を選択してそれに応じた制限時間が与えられる。その制限時間以内に意識が途切れない限り、その事象は回避不可能な攻撃として敵に降り注ぐ事と成る。今回は『メテオ』をお前一人に放ったから、制限時間は10分。もし10分以内に俺が気絶すればその瞬間あの隕石は跡形も無く消える」



 クラウディオの能力を分かりやすく言い換えると、一定時間気絶しないで逃げ切ると敵に回避不能な攻撃が逃げた時間に応じて降り注ぐという事だ。

 その衝撃的な能力説明を受けたルチアーノの反応は。



「ふっ、、、弱い能力だね」



 鼻で笑って小馬鹿にした。



「な、なんだとッ!!」



 クラウディオは自らの能力を鼻で笑われ、さらに弱いと言われた事に憤りを覚えた。

 しかしディーノがその言葉を遮る。



「良いから見てろグラウディオス、お前の実力は俺の足元にも及ばないが人間として見れば中々優秀な部類に入る。俺には三人の弟子が居てな、ちょうどお前と同じ世代だ」



 ルチアーノは金環日食を見るかの様に目の上に手を被せながら随分大きくなった隕石を見上げた。



「お前には此処で俺の力を体感し、次の段階へ足を踏み入れる切っ掛けとして欲しい。男の強さはライバルの強さに比例する、お前は良いライバルに成る」



 そう言ってルチアーノは力強く笑い、袖を捲り上げて臨戦体制に入った。

 隕石はもう目前まで迫り、視界一面を隕石の赤熱する地面が覆っている。あと数秒で衝突するだろう。



「来い、『デルタ・カルト』『ボストレイム』」



 そう呟いた瞬間ルチアーノの背後に二つの靄が出現し、一瞬で凝結して二体の怪物が表れた。



「お前の能力を聞いていたら俺のカワイ子ちゃん達を紹介したく成った、心して聴け」



 何故かルチアーノは通常是が非でも隠し通す筈の能力を自分から語り始める。



「デルタ・カルトの能力は俺の行動の結果が発生する座標を自由自在のに設定する事が出来る。斬撃の結果を隕石が一刀両断できる位置に設定」



 ルチアーノは二本ピンと立てた人差し指と中指を隕石に向け、設定と言った瞬間瞳の色がオパールの様な虹色に変化した。



「ボストレイムの能力は行動の結果のストック、俺はこの能力を使う事によって完全に同じ瞬間に数百の結果を叩き出す事が出来る。300発の斬撃を同じ位置に重ねる」



 重ねると宣言した瞬間身体からエネルギーが溢れ出し、小さな稲妻が何本も走る。



「その目で拝める事に感謝しな。これが破帝を倒し、混沌を生み出した最強の一撃だ」



 隕石が迫り、直撃せずとも感じる途轍もない熱量がその物体に秘められているエネルギー量を遺憾なく表現している。

 そして制限時間の10分



「創造の斬撃 『アマノサカホコ』」



 ルチアーノが僅かに手を振った瞬間、凄まじいエネルギーを束ねた300発の斬撃が隕石に打ち込まれ瞬き一つの間に一刀両断。

 巨大な岩石が真っ二つに割れてその間から綺麗な青空が覗いたのだった。







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