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第8話 世界の勢力図
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日が優しく差し込む一室で、一人の少年と男性の会話は続いていた。
「う~ん、、、具体的にパパの則獣って何が出来るの?」
話題は依然変わらずルチアーノの則獣の話。
少年は能力を口頭で教えてもらったが、まだまだ幼い彼にはその能力の使い方が今一ピンと来ていなかった。
「はは、確かに少し難しかったな。そうだな、、、例えば結果が発生する座標を自由に設定する事が出来る能力っていうのは、攻撃の射程が感知可能な場所全てに広がるって事。ボスの実力であれば数十キロ離れた場所の建物も狙って綺麗に切り飛ばす事が出来る。やろうと思えば敵の射程のはるか先から一方的に攻撃を撃ち込むことも出来るって訳だ」
「おーッ!! パパカッケー!! パパ最強ッ!!」
少年は何とか凄さを理解できた様で、テーブルをバンバン叩いて興奮を表現する。
「次は結果をストックして好きな時に発動できる能力だが、これは本来一つのアクションで一つの結果しか出せないという限界を超える能力だ。ボスの使い方だと同時に数百発の斬撃を放ったり、拳撃の結果を数百重ねて威力を単純に百倍にしたり、地面を蹴るという結果を数百重ねる事で数キロ先までジャンプするなんて離れ業もできるぞ」
「ウオー!! 凄げえッ!! 俺もその則獣欲しい!! ねえねえどうやったら則獣は手に入るの? 貰えたりしないの? パパ貸してくれないかな~」
少年は少し難しかったこの話もようやく理解できた様で、さらに高速でテーブルを叩きいて興奮をぶつける。
そしてどうやら自分の則獣が欲しく成ってしまった様だ。
「ああ、残念だが則獣は他人から貰う事も貸す事も出来ない。一人の人間が繋がりを作ればそれ以外の人間が受け継ぐ事は出来ないんだ。つまり自分で則獣を生み出すか、則獣が出現する様な現場に居合わせるしかない訳だが、、、お前には出来るだけそういった状況を体験して欲しくはないな」
「そんなに難しいの?」
「それは難しいさ。お前も分かると思うが、小指を棚の角にぶつけた程度の悲しみや怒られた程度の悲しみで則獣が生まれた事は無いだろ? 則獣が生まれるには生死の淵で身が引き裂けんばかりの激情を発した時だ。そんな体験をすれば確実に精神は壊れ、平穏に暮らす事は不可能に成るだろう」
「でもパパは普通だよ?」
少年の無邪気な発言を受けてトムハットは一瞬言葉に詰まった。
そして何かを飲み込むかのように一瞬表情を顰めて、それからゆっくり言葉を発した。
「・・・ああ、そうだな。お前の父親はすごい人間だから特別に大丈夫なんだな」
トムハットは表情を柔らかくしてガシガシと少年をの頭を撫でた。
少年は言葉と動作に何か違和感を感じたようで少し不思議そうな顔をしたが、言葉に出す事は無く静かにトムハットを見上げていた。
「とにかく則獣を手に入れるのが難しいって事は分かったよ。持ってる人って少ないの?」
「少ないな。最大ファミリーのウチでも則獣を保有している人間は十数人しか居ない。だから他の組織も則獣を保有している人間を血眼に成って探してるんだ」
レヴィアスファミリーは数万人が所属している人数だけなら最大のファミリーである。
そのレヴィアスファミリーであっても十数人しかいなという事実が、則獣の希少性を顕著に表している。
「他の組織ッ!? その話もっと詳しく教えてよ! ウチ以外にはどんな組織が有るの? パパと戦っているの??」
少年は他の組織という言葉に強烈な興味を示す。
トムハットはボスから少年に余り裏社会の情報を教えるなと言われているのだが、元来お喋りな彼は楽しくなってついつい話をしてしまった。
一言一句にリアクションを放ってくれる最高の話相手を前に、口が軽くなってしまう。
「本当は禁じられているのだが、、、この際良いだろう。この世界には主に5つの勢力が存在している、、、」
トムハットは立ち上がりホワイトボードに書き込みをしながら解説を開始した。
「まずはウチが所属している裏社会の勢力から。小さなファミリーは幾つか有るが、大半の土地を四つのビッグファミリーが支配している」
ホワイトボードに『ビッグファミリー』と書き込んで大きな四角を描き、その中に言葉を書き込んでいく。
「この国は『区』という単位で区切られていて、何個の区を支配しているのかで大まかな勢力を図ることが出来る。先ずはウチ『レヴィアスファミリー』が配下に加えているファミリーの分も合わて41区だな。次がたった今戦争してる『グレイズファミリー』で配下込み37区。この下に来るのがヤクザの流れを組む特殊なファミリーの『ガイムファミリー』で配下込み29区。最後のビッグファミリーは経済力で勢いに乗る新興ファミリーの『べリアスファミリー』、配下込みで24区」
ビッグファミリーという大きな四角の中に大小様々な円を描き、大きな順位にレヴィアス・グレイズ・ガイム・べリアスと記入していく。
「この国は225の区に分かれていて、その内131区がマフィアの世界に成っている。此れは単純計算だが、もし全てのマフィアが連携して力を合わせれば表社会を遥かに上回る戦力に成るって事だ。一週間で国土全てを裏社会で覆いつくせるだろうな」
「でもそうは行かないんでしょ?」
「その通りだ。そもそもマフィア同士は仲間じゃないし、常に小競り合いをして戦力を削ぐぎ合っている。噂によると表社会の諜報組織が糸を引いて争いを誘発させ続けているらしい。まあとにかく、全てのファミリーが手を取り合う事は絶対に有り得ないって話だな」
少年は熱心にトムハットの話を聞き、ノートにメモして記憶を刻み付けていく。
「次は表社会の勢力だ。過半数を裏社会に呑まれたとは言え、表社会は法と政治の下で統制されている。それを一つのファミリーだと捉えるなら、94区を支配する一大勢力。とても一つのファミリーで渡り合える相手じゃない、、、」
少年はトムハットが放った最後の言葉に何か含みを感じたが、話はどんどん進んでいき流されてしまった。
「表社会の勢力はVersus Civilian Force、通称『VCF』だ。兵士の数はウチの10倍で、中にはボスと戦える様な怪物が何人も在籍している。恐らく現在最強の組織は此処だな」
「ウチよりも強いの!?」
少年が自分の所属しているファミリーを遥かに上回る勢力の話を聞いて驚愕の声を上げる。
「一概に戦えば負けるとは言えない。ボスが本気で奇襲を仕掛ければVCFのトップを討ち取る位は簡単な筈だ、、、だが、完全に組織を壊滅させる事は不可能だろうな」
「そっか、、、じゃあ若しかしてッVCFに攻められたらウチは無くなっちゃうの?」
まるで大好きなヒーローがピンチに陥っているかの様に少年は言った。
彼にとってこのファミリーは憧れの象徴で、厳しい戦いを何度も乗り越えボロボロで帰還し、それでも自分に優しく笑いかけてくれるマフィア達はヒーローなのだ。
「ふふ、安心しろ。VCFもそれ程万能な組織ではない。VCFは表社会の全ての武力を司る為にマフィアの何倍も仕事量が多く、人員が足りていないんだ。加えて活動全てに政府上層部の決議を通す必要が有るので行動が遅く慎重だ。一つのファミリーに全兵力を投入する余裕はとても無いだろう」
「・・・つまり、ウチが負ける事は無いってこと?」
「う~む、、、一概にそうとは言えんが、、、」
「はっきりしてよバカぁ!!」
「仕方ないだろ! こういう問題は数百数千の要素が絡み合うから明言し辛いんだよ!!」
少年は何とかハッキリさせて安心したかったのだが、トムハットもこの話は正に時と場合が関わる話なので安易に結論は出せないのだ。
「とにかく、100%中99%大丈夫だ。お前のお父さんと幹部連中が上手くやるから何も心配は無いよ。お前は何も気にせず馬鹿みたいにスクスク育てば良い」
「ぐぬぅ、、、また僕を子供扱いして、、、」
「現に子供なんだから仕方ないだろ?」
何時も最終的には『子供だから気にしなくて良い』と言われる事が少年は何時も不満だった。
少年は時々自分が着ている清潔で解れ一つない衣服がとても恥ずかしく感じる。
窓を見れば自由で活気があふれる街があり、様々な表情を見せる空のキャンパスは無限に広がっているにも関わらず自分は眺める事しかできない。
ヘトヘトに成って帰ってきた男たちが笑いながら自分の苦労話を吐き出し、酒で飲み込む姿にずっと羨ましく感じていたのだ。
「次パパが帰ってきたらお願いしよう、、、」
少年は小さく呟いた。
「ん? 何か言ったか??」
「何でもない!! 其れよりも話を続けて!!」
少年はすねた様に言い、話の続きを催促した。
「う~ん、、、此れで主な勢力は全て紹介したんだが、後は表にあまり出ない正体不明の勢力が二つある。一つは『BIF』、もう一つは『旧世界の怪物達』」
「その勢力は他の5つと何が違うの?」
「二つとも何処に存在しているのか不明なんだよ。BIFは政府の諜報活動専門の組織で、表に出る事が殆ど無く都市伝説化している。そして旧世界の怪物達は正確に言うと組織じゃない、嘗て破帝に仕えたサンフェルノファミリー最高幹部達だ。ボスと同じ『ビッグネーム』に数えられているにも関わらずコイツ等は全員行方不明、基本的に今の世界へ干渉はしてこないから気にしなくても良いがな」
「ねえトムハット、そのビッグネームって何?」
少年は一つの単語に食いついた。
意味は様分からないが、とっても響きがカッコイイ。
「ん? 教えてなかったかな、、、ビッグネームってのは個人に政府が勝手に付けた称号だ。一人で世界に多大な影響力を与える裏社会の住人に付けられ、現在9人がその称号をもっている。さっき話した四つのビッグファミリーのボス達と旧世界の怪物達だな」
「へえ~、やっぱりパパは凄いんだね!! 国から大物だって直接認められてるんでしょ? 決めたッ僕は将来パパの後を継いでマフィアに成って、其れでビッグネームの称号を貰うんだ!! 早くマフィアに成って世界を変えられる位強く成らなくちゃ!!」
その言葉を聞いてトムハットはハッとした。
今まで異常に裏社会の話をせがまれる事はあったが、少年の口から夢としてマフィアに成ると聞いたのは初めてだったからだ。
自分がこの小さな少年の未来に大きな影響を与えてしまった予感を感じ取る。
(楽しそうに聞いてくれるものだから、ついつい話過ぎてしまった。始めはマフィアの、それもボスの息子として生まれたのなら知っておくべき知識だと思っていた、、、しかし本当に知るべきだったのか? この子の幸せを考えるなら何も知らないまま表の世界で平凡に暮らした方が」
トムハットは静かに窓の外を見た。
少年が四角いキャンバスの先に無限の自由を感じ取ったのとは正反対に、彼は青空にむらが有って濁っている様に感じた。
この少年は世界最強の弱点、一歩でも外にでればその全てを狙われる宿命に有る。
本当に平凡で穏やかな暮らしをさせるというボスの願いは実現可能なのか?
その時、玄関が開く音がした。
「あ、パパだ!!」
その音に少年がいち早く音に反応して部屋から飛び出していく。
「もう帰ったのか!? 予定では帰宅は明日の筈ッ」
トムハットは慌ててホワイトボードを消す。
裏社会の話を少年にする事はボスに禁じられている為証拠は残せない。
必死な形相で後片付けをするトムハットを置き去りにして、少年は階段を二段飛ばしで駆け下り父の居る玄関へ向かった。
大きな階段を下りるともう玄関は目の前。
数人の人影が有ってその中の一人、ルチアーノが一番に気が付いて振り向いた。
「お、わざわざ出迎えに来てくれたのか!!」
ルチアーノは大きく腕を開いて、弾丸の様に突進してくる少年を待ち構える。
少年もその腕の中で目掛けて飛び込み、ルチアーノが衝撃を受け止めながら後ろに転がって少年に掛かる衝撃を最小限に抑えた。
「へへっ、、、パパお帰り!!」
「ああ、ただいま。ディーノ」
ルチアーノは胸の中で優しい笑顔を向けてくる息子、ディーノの頭を優しく撫でたのだった。
「う~ん、、、具体的にパパの則獣って何が出来るの?」
話題は依然変わらずルチアーノの則獣の話。
少年は能力を口頭で教えてもらったが、まだまだ幼い彼にはその能力の使い方が今一ピンと来ていなかった。
「はは、確かに少し難しかったな。そうだな、、、例えば結果が発生する座標を自由に設定する事が出来る能力っていうのは、攻撃の射程が感知可能な場所全てに広がるって事。ボスの実力であれば数十キロ離れた場所の建物も狙って綺麗に切り飛ばす事が出来る。やろうと思えば敵の射程のはるか先から一方的に攻撃を撃ち込むことも出来るって訳だ」
「おーッ!! パパカッケー!! パパ最強ッ!!」
少年は何とか凄さを理解できた様で、テーブルをバンバン叩いて興奮を表現する。
「次は結果をストックして好きな時に発動できる能力だが、これは本来一つのアクションで一つの結果しか出せないという限界を超える能力だ。ボスの使い方だと同時に数百発の斬撃を放ったり、拳撃の結果を数百重ねて威力を単純に百倍にしたり、地面を蹴るという結果を数百重ねる事で数キロ先までジャンプするなんて離れ業もできるぞ」
「ウオー!! 凄げえッ!! 俺もその則獣欲しい!! ねえねえどうやったら則獣は手に入るの? 貰えたりしないの? パパ貸してくれないかな~」
少年は少し難しかったこの話もようやく理解できた様で、さらに高速でテーブルを叩きいて興奮をぶつける。
そしてどうやら自分の則獣が欲しく成ってしまった様だ。
「ああ、残念だが則獣は他人から貰う事も貸す事も出来ない。一人の人間が繋がりを作ればそれ以外の人間が受け継ぐ事は出来ないんだ。つまり自分で則獣を生み出すか、則獣が出現する様な現場に居合わせるしかない訳だが、、、お前には出来るだけそういった状況を体験して欲しくはないな」
「そんなに難しいの?」
「それは難しいさ。お前も分かると思うが、小指を棚の角にぶつけた程度の悲しみや怒られた程度の悲しみで則獣が生まれた事は無いだろ? 則獣が生まれるには生死の淵で身が引き裂けんばかりの激情を発した時だ。そんな体験をすれば確実に精神は壊れ、平穏に暮らす事は不可能に成るだろう」
「でもパパは普通だよ?」
少年の無邪気な発言を受けてトムハットは一瞬言葉に詰まった。
そして何かを飲み込むかのように一瞬表情を顰めて、それからゆっくり言葉を発した。
「・・・ああ、そうだな。お前の父親はすごい人間だから特別に大丈夫なんだな」
トムハットは表情を柔らかくしてガシガシと少年をの頭を撫でた。
少年は言葉と動作に何か違和感を感じたようで少し不思議そうな顔をしたが、言葉に出す事は無く静かにトムハットを見上げていた。
「とにかく則獣を手に入れるのが難しいって事は分かったよ。持ってる人って少ないの?」
「少ないな。最大ファミリーのウチでも則獣を保有している人間は十数人しか居ない。だから他の組織も則獣を保有している人間を血眼に成って探してるんだ」
レヴィアスファミリーは数万人が所属している人数だけなら最大のファミリーである。
そのレヴィアスファミリーであっても十数人しかいなという事実が、則獣の希少性を顕著に表している。
「他の組織ッ!? その話もっと詳しく教えてよ! ウチ以外にはどんな組織が有るの? パパと戦っているの??」
少年は他の組織という言葉に強烈な興味を示す。
トムハットはボスから少年に余り裏社会の情報を教えるなと言われているのだが、元来お喋りな彼は楽しくなってついつい話をしてしまった。
一言一句にリアクションを放ってくれる最高の話相手を前に、口が軽くなってしまう。
「本当は禁じられているのだが、、、この際良いだろう。この世界には主に5つの勢力が存在している、、、」
トムハットは立ち上がりホワイトボードに書き込みをしながら解説を開始した。
「まずはウチが所属している裏社会の勢力から。小さなファミリーは幾つか有るが、大半の土地を四つのビッグファミリーが支配している」
ホワイトボードに『ビッグファミリー』と書き込んで大きな四角を描き、その中に言葉を書き込んでいく。
「この国は『区』という単位で区切られていて、何個の区を支配しているのかで大まかな勢力を図ることが出来る。先ずはウチ『レヴィアスファミリー』が配下に加えているファミリーの分も合わて41区だな。次がたった今戦争してる『グレイズファミリー』で配下込み37区。この下に来るのがヤクザの流れを組む特殊なファミリーの『ガイムファミリー』で配下込み29区。最後のビッグファミリーは経済力で勢いに乗る新興ファミリーの『べリアスファミリー』、配下込みで24区」
ビッグファミリーという大きな四角の中に大小様々な円を描き、大きな順位にレヴィアス・グレイズ・ガイム・べリアスと記入していく。
「この国は225の区に分かれていて、その内131区がマフィアの世界に成っている。此れは単純計算だが、もし全てのマフィアが連携して力を合わせれば表社会を遥かに上回る戦力に成るって事だ。一週間で国土全てを裏社会で覆いつくせるだろうな」
「でもそうは行かないんでしょ?」
「その通りだ。そもそもマフィア同士は仲間じゃないし、常に小競り合いをして戦力を削ぐぎ合っている。噂によると表社会の諜報組織が糸を引いて争いを誘発させ続けているらしい。まあとにかく、全てのファミリーが手を取り合う事は絶対に有り得ないって話だな」
少年は熱心にトムハットの話を聞き、ノートにメモして記憶を刻み付けていく。
「次は表社会の勢力だ。過半数を裏社会に呑まれたとは言え、表社会は法と政治の下で統制されている。それを一つのファミリーだと捉えるなら、94区を支配する一大勢力。とても一つのファミリーで渡り合える相手じゃない、、、」
少年はトムハットが放った最後の言葉に何か含みを感じたが、話はどんどん進んでいき流されてしまった。
「表社会の勢力はVersus Civilian Force、通称『VCF』だ。兵士の数はウチの10倍で、中にはボスと戦える様な怪物が何人も在籍している。恐らく現在最強の組織は此処だな」
「ウチよりも強いの!?」
少年が自分の所属しているファミリーを遥かに上回る勢力の話を聞いて驚愕の声を上げる。
「一概に戦えば負けるとは言えない。ボスが本気で奇襲を仕掛ければVCFのトップを討ち取る位は簡単な筈だ、、、だが、完全に組織を壊滅させる事は不可能だろうな」
「そっか、、、じゃあ若しかしてッVCFに攻められたらウチは無くなっちゃうの?」
まるで大好きなヒーローがピンチに陥っているかの様に少年は言った。
彼にとってこのファミリーは憧れの象徴で、厳しい戦いを何度も乗り越えボロボロで帰還し、それでも自分に優しく笑いかけてくれるマフィア達はヒーローなのだ。
「ふふ、安心しろ。VCFもそれ程万能な組織ではない。VCFは表社会の全ての武力を司る為にマフィアの何倍も仕事量が多く、人員が足りていないんだ。加えて活動全てに政府上層部の決議を通す必要が有るので行動が遅く慎重だ。一つのファミリーに全兵力を投入する余裕はとても無いだろう」
「・・・つまり、ウチが負ける事は無いってこと?」
「う~む、、、一概にそうとは言えんが、、、」
「はっきりしてよバカぁ!!」
「仕方ないだろ! こういう問題は数百数千の要素が絡み合うから明言し辛いんだよ!!」
少年は何とかハッキリさせて安心したかったのだが、トムハットもこの話は正に時と場合が関わる話なので安易に結論は出せないのだ。
「とにかく、100%中99%大丈夫だ。お前のお父さんと幹部連中が上手くやるから何も心配は無いよ。お前は何も気にせず馬鹿みたいにスクスク育てば良い」
「ぐぬぅ、、、また僕を子供扱いして、、、」
「現に子供なんだから仕方ないだろ?」
何時も最終的には『子供だから気にしなくて良い』と言われる事が少年は何時も不満だった。
少年は時々自分が着ている清潔で解れ一つない衣服がとても恥ずかしく感じる。
窓を見れば自由で活気があふれる街があり、様々な表情を見せる空のキャンパスは無限に広がっているにも関わらず自分は眺める事しかできない。
ヘトヘトに成って帰ってきた男たちが笑いながら自分の苦労話を吐き出し、酒で飲み込む姿にずっと羨ましく感じていたのだ。
「次パパが帰ってきたらお願いしよう、、、」
少年は小さく呟いた。
「ん? 何か言ったか??」
「何でもない!! 其れよりも話を続けて!!」
少年はすねた様に言い、話の続きを催促した。
「う~ん、、、此れで主な勢力は全て紹介したんだが、後は表にあまり出ない正体不明の勢力が二つある。一つは『BIF』、もう一つは『旧世界の怪物達』」
「その勢力は他の5つと何が違うの?」
「二つとも何処に存在しているのか不明なんだよ。BIFは政府の諜報活動専門の組織で、表に出る事が殆ど無く都市伝説化している。そして旧世界の怪物達は正確に言うと組織じゃない、嘗て破帝に仕えたサンフェルノファミリー最高幹部達だ。ボスと同じ『ビッグネーム』に数えられているにも関わらずコイツ等は全員行方不明、基本的に今の世界へ干渉はしてこないから気にしなくても良いがな」
「ねえトムハット、そのビッグネームって何?」
少年は一つの単語に食いついた。
意味は様分からないが、とっても響きがカッコイイ。
「ん? 教えてなかったかな、、、ビッグネームってのは個人に政府が勝手に付けた称号だ。一人で世界に多大な影響力を与える裏社会の住人に付けられ、現在9人がその称号をもっている。さっき話した四つのビッグファミリーのボス達と旧世界の怪物達だな」
「へえ~、やっぱりパパは凄いんだね!! 国から大物だって直接認められてるんでしょ? 決めたッ僕は将来パパの後を継いでマフィアに成って、其れでビッグネームの称号を貰うんだ!! 早くマフィアに成って世界を変えられる位強く成らなくちゃ!!」
その言葉を聞いてトムハットはハッとした。
今まで異常に裏社会の話をせがまれる事はあったが、少年の口から夢としてマフィアに成ると聞いたのは初めてだったからだ。
自分がこの小さな少年の未来に大きな影響を与えてしまった予感を感じ取る。
(楽しそうに聞いてくれるものだから、ついつい話過ぎてしまった。始めはマフィアの、それもボスの息子として生まれたのなら知っておくべき知識だと思っていた、、、しかし本当に知るべきだったのか? この子の幸せを考えるなら何も知らないまま表の世界で平凡に暮らした方が」
トムハットは静かに窓の外を見た。
少年が四角いキャンバスの先に無限の自由を感じ取ったのとは正反対に、彼は青空にむらが有って濁っている様に感じた。
この少年は世界最強の弱点、一歩でも外にでればその全てを狙われる宿命に有る。
本当に平凡で穏やかな暮らしをさせるというボスの願いは実現可能なのか?
その時、玄関が開く音がした。
「あ、パパだ!!」
その音に少年がいち早く音に反応して部屋から飛び出していく。
「もう帰ったのか!? 予定では帰宅は明日の筈ッ」
トムハットは慌ててホワイトボードを消す。
裏社会の話を少年にする事はボスに禁じられている為証拠は残せない。
必死な形相で後片付けをするトムハットを置き去りにして、少年は階段を二段飛ばしで駆け下り父の居る玄関へ向かった。
大きな階段を下りるともう玄関は目の前。
数人の人影が有ってその中の一人、ルチアーノが一番に気が付いて振り向いた。
「お、わざわざ出迎えに来てくれたのか!!」
ルチアーノは大きく腕を開いて、弾丸の様に突進してくる少年を待ち構える。
少年もその腕の中で目掛けて飛び込み、ルチアーノが衝撃を受け止めながら後ろに転がって少年に掛かる衝撃を最小限に抑えた。
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高校2年の夏。
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地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
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