キング・オブ・アウト ~半分が裏社会に呑み込まれた世界で法則の力『則』と法則のを超えた力『則獣』を駆使してマフィアの頂点を目指す!!

NEOki

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第9話 終わらぬ戦い

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「・・・気は済んだか?」



 ルチアーノはようやく上げた拳を下した弟子達に言った。

 オーウェンは口の端に滲んだ血をハンカチで優雅に拭い、ディオンは膝に手を突いて荒い息を上げ、オーウェンは地面に転がって瀕死の状態だった。

 毎回何故かオーウェンがボコボコに成るのだ。

 恐らくそういう星の元に生まれたのだろう。



「はい。そもそも私は巻き込まれただけで被害者です」



「きょ、今日はこの程度にしておいてやるのである、、、」



「おはえら、、、かほにひさいれふのはなひだほ(お前ら、顔に膝入れるのは無しだろ)」



 三者三様の返答が帰ってきて、喧嘩は完全に終結した様だった。

 ルチアーノの弟子たちはお猿さんなので、一度喧嘩して頭の血を降ろさないと建設的な話し合いが出来ないのである。



「オーウェン君、君は被害者では無く加害者です。足元に膝を入れられた被害者が転がっているので肩を貸して連れて来なさい」



 ルチアーノの命令を受けてオーウェンはアンベルトの元に行き、立ち上がる手助けをする。



「立てるか? さっきは悪かったな、攻撃を躱そうと思って体を動かしたら膝が当たってしまった」



「お前が俺の顔面に膝を叩き込んだのかよ、、、」



「済まない、だが元々ひん曲がっていた鼻筋が真っ直ぐに成って男前が増したぞ。鼻血もとってもチャーミングだ」



「たった今第二ラウンドのゴングが聞こえたぞ」



 再び喧嘩の火蓋が切られそうに成ったが、ルチアーノが手で制して止める。

 流石にこれ以上生産性が一つも無い時間を作るわけにはいかない、この戦争が片付いたとしてもまだまだ課題は山積みなのだ。



「そろそろ情報の擦り合わせを始めるぞ。お前たちが他所様に恥ずかしい真似してないか確認しないとな、、、必要とあれば俺がお礼参りしなきゃならない」



 皆『お礼参り』という言葉だけで意味を察し、自信の籠った笑みを浮かべる。



「安心してくださいボス、二名の幹部と遭遇しましたが、礼儀正しく紳士的に討伐しました。134区の西側は半壊しましたが、人的被害は僅かです」



「吾輩も問題ないのである! こ、こっちは幹部一名を相手にしたがッ、多分オーウェンよりもこっちの幹部の方が強かったのだ!! 149区のおおよそ半分が瓦礫の山に成ったが、こっちの人的被害も僅かである」



「俺も幹部一名と交戦、町はほぼ全壊しました。だけど住民は全員無事、兵士数人が死亡した程度で済みました」



 どうやら全員無事勝利したらしいが、何処も被害は甚大な様である。

 しかしグレイズファミリーの幹部と遭遇して全員勝利、しかも無傷で帰還とは中々我が弟子たちも強くなったものだとルチアーノは満足そうに頷く。



「うんうん、まあ多少の犠牲が有ったとは言え全員が無事再会できた事を素直に嬉しく思う。アンベルトの人命を第一にする姿勢は大切だぞ、今後も励む様に!」



「・・・うすッ」



 アンベルトが軽く返事を返した時、ディオンが言葉を挟んできた。



「少し良いであるか、ボス?」



「ん? どうしたディオン??」



 突然雰囲気が真面目に成ったディオンに視線が集まる



「ボスにも考えが有るとは分かっているが、、、それならば尚更聞かせて貰いたい。何時まで受け身で守りに徹し続けるおつもりなのだ?」



 その一言で全員の空気感がピシりと張り詰める。



「確かに我々は今までの戦いに全て勝利し、敵の侵攻によって一区も奪われてはいない。しかしダメージを受けるのは何時も我々の方だ。敵も我々も貴重な兵士は死んでいるが、我々だけ生活の基盤である街を破壊されて兵士ではない女子供まで殺されている! こんな状況フェアでは無いではないか!! もしやボスは客観視と戦術的思考のし過ぎで、この前線に居る人間一人一人に命が有りッ家を破壊され途方に暮れる心が有るという事をお忘れなのでは無いかッ!!」



「おいディオンッ、口を慎め私情を挟むな!」



 オーウェンが熱く成り始めたディオンを窘める様に言った。

 適度にブレーキを掛けて同僚であり友であるディオンが失言でルチアーノの逆鱗に触れるのを止める彼なりの優しさだ。

 しかしその優しさを理解した上でディオンは止まらなかい。



「止めるなオーウェンッ! 吾輩は処罰覚悟で申しておるのだ、、、」



「ああ、俺もディオンの意見に賛成だ。俺からもボスに今の行動の目的を聞かせて欲しい」



 ディオンの発現になんとオーウェンまで乗り始めた。



「俺もここ半年間の戦争で何度も町を焼かれて泣く奴らの顔を見てきた、俺が支配を任されている土地が被害に遭った事も有る、、、そいつらは戦争が終わったからって忘れてませんよ? 半年経っても、そしてこの先何年経っても恨みと悲しみは消える事が無い。ならせめて敵首都を火の海に変え、敵のボス首持ち帰ってケリを付けてやりたい。俺たちが味わった苦しみを敵に与え、その火で死者の供養をする、、、俺達とボスの力なら可能ですよね?」



 アンベルトの瞳には本気の殺意と覚悟が宿っていた。

 このアンベルトという男は幹部の中で最も優しく愛に溢れた男、そして愛と優しさとは殺意に最も近い感情なのだ。

 情の厚さ故に今の状況が我慢できないのだろう。



「お前まで、、、何を言っているんだッ!!」



 オーウェンは慌ててアンベルトに駆け寄り、頬を思いっ切り殴り飛ばした。

 ボスの決めた方針に明らかな反意を示し、今後の戦略に口出しするという余裕で処罰のラインを超えた行為を自分が暴力を振るう事によってあやふやにしようとしたのだ。



「要らない気を使わないでくれオーウェン。お前に庇われるつもりは無い、この場で八つ裂きにされようとも構わない覚悟で俺は言ってんだッ!!」



 アンベルトは殴られても一切たじろかず、口端から薄っすらと血を滲ませながらルチアーノを睨み付ける。

 その瞳をルチアーノは正面から受け止め、そして数秒視線が交差した後に口を開いた。



「お前たちの気持ちは良く分かった、然るべき場所で然るべき言葉を用いて説明する事にしよう。帰るぞ、今夜の会議は長く成る、、、腰を据えられる場所で語り合おうじゃないか」



 ルチアーノはそう言うと振り返って歩き出しす。

 オーウェンはホッとした表情を見せ、ディオンとアンベルトは直ぐに回答を貰えなかった事に不満気であったが素直に後を追ったのだった。
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