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第10話 帰還
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「パパ達は今日何処に行ってきたの?」
久しぶりの再会を祝した熱い抱擁の後、ディーノは父に質問を投げ掛けた。
「う~ん、、、ちょっと出張してきたんだ。新しいビジネスの話を纏める為にクライアントと今後のアジェンダを擦り合わせて互いのプロフィットを最大限にッ、、、」
「嘘ついてるでしょ? パパが難しい言葉使う時はいつも僕に嘘をついてる時だ!!」
「え・・・ッ!? そ、そんなこと無いぞ??」
戦車が突進してきても、白刃が首から1センチ先を通り過ぎても、隕石が降ってきていても余裕の有る態度を崩さなかった男がこの時初めてたじろいた。
子供の純粋で澄んだ瞳には、大人の姑息な嘘などお見通しの様だ。
しかしルチアーノはどうしても息子にマフィアの話をしたくないようで、背後に居たオーウェンにアイコンタクトで助けを求める。
オーウェンは静かに頷き、ディーノの腰に手を回して持ち上げた。
「会いたかったですぞ~、我が次なる主ぃ~!! 貴方の忠実なる下部、オーウェン只今参上致しましたッ!!」
オーウェンは満面の笑みを浮かべて、ディーノを掲げて見上げる様な形で話掛けた。
ディーノもオーウェンの顔を見て嬉しそうに表情を綻ばせる。
「お帰りオーウェン! 今日もカッコイイね」
「ディーノ様のご尊顔には敵いません。柔らかく艶やかな黒髪、宝石の様な瞳、薔薇の花弁も嫉妬する唇、、、将来が楽しみですな。花嫁選びには困りますまい」
「うん、僕とってもカッコ良いマフィアに成るんだ!!」
その言葉を受けてオーウェンの表情が固まる。
これ以上は危険であると判断して視線を周囲に張り巡らせると、次の助け舟を発見して手の中で目をキラキラさせている王子様を自分の身体に引き付ける。
「ねえオーウェン、戦い方を教えてよ。もっと強く成らないとパパのお仕事に付いて行っちゃいけないって言われたんだ、、、」
ディーノはグッと距離が近づいた瞳を潤ませながらオーウェンを見詰める。
ついつい甘くなって、この子が望む返事を与えてあげたいと思ってしまうが此処は何としてでも耐えなくては成らない。
「そうですね、、、では私から一つ技をお教えしましょう」
「え、なになに!!」
オーウェンの発言にディーノは空中でバタバタしながら興奮を表す。
「其れはですね、、、舞空術ですぞ! そ~れッ!!」
「う、うわあああッ!!」
ニヤリと悪戯な笑みをその端正な顔に浮かべたオーウェンは、突如ディーノの身体を宙に放り投げてしまった。
ディーノは突然の事に驚愕の声を上げたが、直ぐに大きくてゴツゴツした腕に包み込まれる。
「素晴らしい舞空術であったぞ、二代目!! この技を極めれば直に空を鳥の様に駆け回る事が出来るであろう!!」
「あ、ディオン!!」
大きくてゴツゴツした腕の正体はディオンであった。
強面で凹凸が多い顔を優しく歪め、腕の中で輝いているファミリーの宝をしっかり包み込んでいる。
「今日はディオンも帰って来たんだね!! 最近帰って来ない事も多かったし、帰ってきても直ぐに出て行っちゃから寂しかったよ」
「吾輩も寂しかったのである、何度遠征先の枕を涙で濡らした事かッ」
「もう大げさ~! そうだ、ディオンが僕に戦い方を教えてよ!! 僕もディオンみたいにムキムキに成りたいしッ強くなりたいんだ」
「おうおう、そうであるか~、、、」
ディーノの言葉を受けてディオンは思考を巡らせているかの様に瞳をグルングルン動かし、そしてゆっくりとディーノの身体を地面に下した。
そして顎の髭を何度か撫でた後にゆっくりと頷いて口を開いた。
「其れではとっておきの技を一つお教えしよう。とびきり強力な蹴り技であるぞ!!」
「本当ッ!?」
とびきり強力な蹴り技を教えてもらえると聞いてディーノは鼻息を荒くする。
「うむ、強烈過ぎて当たればどんな大男でも悶絶させ戦闘不能にすることが出来る。加えて二代目の様にまだ未発達の肉体でも大して問題無くダメージを教えることが可能なのだ」
「すっげーッ!! ねえねえッ早く教えてよディオン!!」
「はは、只今教えますぞ~。先ずは素早く敵の背後へ回り込み、、、体を半身に、、、」
ディオンは構えを実際に見せ、ディーノの身体を支えながら動きを教えていく。
ディーノもその教えを真剣に学び、一秒でも早く物にしようと何度も動きを繰り返して吸収しようとしする。
ディオンは意外に三弟子の中で一番後輩に教えるのが上手く、子供の扱いもお手の物であった。
そして丁度その時、二階から片付けを終えたトムハットが降りてくる。
「お帰りなさいませボス。随分早いお戻りで」
「おお、ただいまトムハット。家に大事は無かったか?」
「お蔭様で平穏無事、欠伸を堪えるのに必死なくらいですよ。強いて言えばディーノに何度か外に出たいとせがまれた位ですかね」
「そうか、、、」
その言葉を聞いた瞬間ルチアーノの表情に影が落ち、それから何か考え込む様な仕草をみせて数秒黙った。
しかし結局答えが出なかった様で、煮え切らない表情のまま顔を上げた。
「もう直ぐディーノの誕生日だ、その時くらいは時間を作って一緒に外出しようと思う。外は危険すぎるから俺か幹部の誰かが付いてないと、、、」
ルチアーノはまるで悪事を働き、母親に咎められている子供の様に表情を歪める。
ディーノが外を自由に歩けないのは全て自分の行いのせいで、自分の子供に生まれてしまったばかっかりに子供として当然の尊厳を奪われているという自責の念に胸が締め付けられた。
「私がもう少し強くて、ディーノを守りながら外出できるだけの実力が有れば、、、」
「いや、お前のせいじゃない。お前が居てくれて良かった、、、そのお蔭であの子は普通の子供と同じく、いやッそれ以上に純粋で愛に溢れた子供に成ってくれた」
二人は感情が積もった瞳で熱心に蹴り技を習っているディーノに視線を送る。
その瞳は完全に父親の物であった。
しかし突如その視界の中に人影が割り込んでくる、アンベルトの陰だ。
「何時まで廊下に突っ立ってるんですか? さっさと会議終わらせないと直ぐに出発時刻に成っちまいますよ?」
「ああ、そうだな済まない」
ルチアーノは夢から覚めたような表情を見せ、一瞬言葉を詰まらせながら言った。
アンベルトはその様子をみて小さな溜息を付き、頭を掻きながらながら言葉を続ける。
「タダでさえ時間が無いんすから、このままだとディーノと二人の時間を作ってやれなッ、、、」
其処まで言ってアンベルトの身体は突如硬直。
そして急に全身の力が抜け去った様に膝から崩れ落ち、床の上でジタバタしながら絶叫した。
「ウオオオッ!! ぼ、坊主お前ッ、どどど何処蹴ってんだバカ野郎ォォォ!!」
地面に崩れ落ちたアンベルトは必死に股の間を抑え、涙目になりながら後ろでしたり顔をしながら見下ろしているディーノに叫んだ。
教わっていた『とびきり強力な蹴り技』が炸裂したのだった。
「やったあ!! 成功したよディオン!!」
「うむ、流石二代目素晴らしいバトルセンスである! これぞ我が秘伝の技『金的蹴り』であるぞ!!」
「ディオンてめえッ!! なんちゅう技教えてんだッ! 坊主も他人の金玉蹴り上げるんだから少しは躊躇えッ!!」
アンベルトは地面に横たわり、顔を真っ青にしたまま叫ぶ。
「おー、偉いぞディーノ弱い九歳にしてウチの三大幹部の一人を倒すとは将来有望だな! 明日からアンベルトの席にはお前が座るか!! そして世界最強であるこの俺が直接異名を付けてやろう、お前の異名は『ゴールデンブレイク』だ!!」
「わーい! 僕はゴールデンブレイクだー」
人様の金玉を蹴り上げた息子をルチアーノは満面の笑みで褒め称えた。
親バカにも程が有る行為にアンベルトが依然股間を抑えながらキレ続ける。
「ちょ、俺ッ此れで幹部の座から降ろされるんですか!? 其れにアンタ、息子に何て異名付けてんだよ! そんな手配書張り出されたら表歩けねえよッ!!」
「うさいぞ、金玉喘ぎ」
「もしかしてそれ俺の異名ッ!?」
アンベルトは地面を転がりながらツッコミ続け、数分後に青い顔のまま何とか立ち上がった。
結局彼を心配する者はだれ一人として現れないままであったが、、、
「あぁ、、、腹の奥がまだ気持ち悪い、、、ディオンてめえ覚えてろよッ必ず後で同じ苦しみを与えてやる・・・ッ!!」
「お、やっと喘ぎ終えたかアンベルト!」
「いや、ボスその言いかッ、、、」
「それじゃあそろそろ会議に行くぞ。俺はディーノと少し話をしてから行く、、、この際だ、俺が行くまでの時間を利用して日頃の不満を紙にでも書き出しとけ」
ルチアーノはアンベルトの言葉を途中で遮りって先に部下たちを会議室に向かわせる。
そしてルチアーノは一人息子の元へ向かい、まだ小さく頼りない肩をガッシと掴んでから言葉を投げ掛けた。
「長い間家を空けて済まなかったな。寂しい思いはしなかったか?」
「ううん、トムハットが何時も居てくれたから寂しく無かった。ちょっと退屈だっただけ」
ディーノは真っ直ぐな瞳でルチアーノを見上げ、そして首を小さく横に振った。
その言葉を受けてトムハットは恥ずかしい様な嬉しい様な表情を見せ、ルシアーノは安心したように優しい笑顔を見せる。
「そうか、、、トムハットは多少うるさいが、知識・精神・人間性の全てに優れた素晴らしい人物だ。困った時は必ず彼を頼り、彼の様な人間を目指すんだぞ」
「ううん」
ディーノは首を横に振り、父から投げ掛けられた言葉を拒絶する。
その反応にディーノは驚愕を浮かべ、トムハットは分かっていたかの様な複雑な表情になった。
「僕はね、パパみたいな大人に成りたいんだ。パパみたいに強くッ誰よりも強く成りたいんだ」
「・・・良いかディーノ。世界は強さだけが全てじゃない、本当に大切お前自身が他の誰を差し置いてでも幸福に成る事なんだ。お前の年齢で強い事をカッコイイと感じるのは良くある事なんだが、パパの強さに憧れるのは駄目だ」
「でも、強くないと世界を変えられないんだ、、、僕は世界を変えなくちゃならないんだよ」
そのディーノが発した言葉を聞いた瞬間、ルチアーノの奥底で眠ってた振り傷が鈍い痛みを発して彼の意識を遥か昔の世界に引きずり込んだ。
『・・・俺は世界を破壊しなくちゃならない。理由なんて初めから無かった。生まれたその瞬間に使命を与えられ、その為だけに命を削ってきた。俺が街をビルを人を破壊するという行為は、お前達が空気を吸って飯を喰って寝るのと同じ、、、体に刻み付けられた本能なんだよ』
山の様に巨大な影がそう言葉を発し、ルチアーノの意識は現在に戻ってきた。
「ぐうッ、、、!」
鋭い痛みが脳の根幹を貫き、ルチアーノは小さく唸り声を発する。
遠い過去の亡霊が、何故かディーノと重なってしまった。
「パパ? 大丈夫??」
突然うめき声を上げ、泣きそうな程悲しい表情に変化した父の顔をディーノが覗き込む。
その感情が伝播してしまったのか、少年の瞳にまで透明で美しい涙が溜まって溢れそうに成ってる。
「ああっ、大丈夫だディーノ! パパは元気だぞ。お願いだから泣かないでおくれ、お前の涙が何よりもパパには辛いんだ、、、」
そう言ってルチアーノはそっと指をで涙を掬い、少し強めに息子の小さな体を抱きしめた。
「会議が終わったら時間を作る。お前の部屋に行くから待っててくれるか?」
「うんッ、、、待ってる」
「そうか、ありがとう、、、」
ルチアーノは最後に息子の頭を優しく撫で、トムハットにディーノを預ける。
そして再びボスの表情に戻って部屋を後にした。
久しぶりの再会を祝した熱い抱擁の後、ディーノは父に質問を投げ掛けた。
「う~ん、、、ちょっと出張してきたんだ。新しいビジネスの話を纏める為にクライアントと今後のアジェンダを擦り合わせて互いのプロフィットを最大限にッ、、、」
「嘘ついてるでしょ? パパが難しい言葉使う時はいつも僕に嘘をついてる時だ!!」
「え・・・ッ!? そ、そんなこと無いぞ??」
戦車が突進してきても、白刃が首から1センチ先を通り過ぎても、隕石が降ってきていても余裕の有る態度を崩さなかった男がこの時初めてたじろいた。
子供の純粋で澄んだ瞳には、大人の姑息な嘘などお見通しの様だ。
しかしルチアーノはどうしても息子にマフィアの話をしたくないようで、背後に居たオーウェンにアイコンタクトで助けを求める。
オーウェンは静かに頷き、ディーノの腰に手を回して持ち上げた。
「会いたかったですぞ~、我が次なる主ぃ~!! 貴方の忠実なる下部、オーウェン只今参上致しましたッ!!」
オーウェンは満面の笑みを浮かべて、ディーノを掲げて見上げる様な形で話掛けた。
ディーノもオーウェンの顔を見て嬉しそうに表情を綻ばせる。
「お帰りオーウェン! 今日もカッコイイね」
「ディーノ様のご尊顔には敵いません。柔らかく艶やかな黒髪、宝石の様な瞳、薔薇の花弁も嫉妬する唇、、、将来が楽しみですな。花嫁選びには困りますまい」
「うん、僕とってもカッコ良いマフィアに成るんだ!!」
その言葉を受けてオーウェンの表情が固まる。
これ以上は危険であると判断して視線を周囲に張り巡らせると、次の助け舟を発見して手の中で目をキラキラさせている王子様を自分の身体に引き付ける。
「ねえオーウェン、戦い方を教えてよ。もっと強く成らないとパパのお仕事に付いて行っちゃいけないって言われたんだ、、、」
ディーノはグッと距離が近づいた瞳を潤ませながらオーウェンを見詰める。
ついつい甘くなって、この子が望む返事を与えてあげたいと思ってしまうが此処は何としてでも耐えなくては成らない。
「そうですね、、、では私から一つ技をお教えしましょう」
「え、なになに!!」
オーウェンの発言にディーノは空中でバタバタしながら興奮を表す。
「其れはですね、、、舞空術ですぞ! そ~れッ!!」
「う、うわあああッ!!」
ニヤリと悪戯な笑みをその端正な顔に浮かべたオーウェンは、突如ディーノの身体を宙に放り投げてしまった。
ディーノは突然の事に驚愕の声を上げたが、直ぐに大きくてゴツゴツした腕に包み込まれる。
「素晴らしい舞空術であったぞ、二代目!! この技を極めれば直に空を鳥の様に駆け回る事が出来るであろう!!」
「あ、ディオン!!」
大きくてゴツゴツした腕の正体はディオンであった。
強面で凹凸が多い顔を優しく歪め、腕の中で輝いているファミリーの宝をしっかり包み込んでいる。
「今日はディオンも帰って来たんだね!! 最近帰って来ない事も多かったし、帰ってきても直ぐに出て行っちゃから寂しかったよ」
「吾輩も寂しかったのである、何度遠征先の枕を涙で濡らした事かッ」
「もう大げさ~! そうだ、ディオンが僕に戦い方を教えてよ!! 僕もディオンみたいにムキムキに成りたいしッ強くなりたいんだ」
「おうおう、そうであるか~、、、」
ディーノの言葉を受けてディオンは思考を巡らせているかの様に瞳をグルングルン動かし、そしてゆっくりとディーノの身体を地面に下した。
そして顎の髭を何度か撫でた後にゆっくりと頷いて口を開いた。
「其れではとっておきの技を一つお教えしよう。とびきり強力な蹴り技であるぞ!!」
「本当ッ!?」
とびきり強力な蹴り技を教えてもらえると聞いてディーノは鼻息を荒くする。
「うむ、強烈過ぎて当たればどんな大男でも悶絶させ戦闘不能にすることが出来る。加えて二代目の様にまだ未発達の肉体でも大して問題無くダメージを教えることが可能なのだ」
「すっげーッ!! ねえねえッ早く教えてよディオン!!」
「はは、只今教えますぞ~。先ずは素早く敵の背後へ回り込み、、、体を半身に、、、」
ディオンは構えを実際に見せ、ディーノの身体を支えながら動きを教えていく。
ディーノもその教えを真剣に学び、一秒でも早く物にしようと何度も動きを繰り返して吸収しようとしする。
ディオンは意外に三弟子の中で一番後輩に教えるのが上手く、子供の扱いもお手の物であった。
そして丁度その時、二階から片付けを終えたトムハットが降りてくる。
「お帰りなさいませボス。随分早いお戻りで」
「おお、ただいまトムハット。家に大事は無かったか?」
「お蔭様で平穏無事、欠伸を堪えるのに必死なくらいですよ。強いて言えばディーノに何度か外に出たいとせがまれた位ですかね」
「そうか、、、」
その言葉を聞いた瞬間ルチアーノの表情に影が落ち、それから何か考え込む様な仕草をみせて数秒黙った。
しかし結局答えが出なかった様で、煮え切らない表情のまま顔を上げた。
「もう直ぐディーノの誕生日だ、その時くらいは時間を作って一緒に外出しようと思う。外は危険すぎるから俺か幹部の誰かが付いてないと、、、」
ルチアーノはまるで悪事を働き、母親に咎められている子供の様に表情を歪める。
ディーノが外を自由に歩けないのは全て自分の行いのせいで、自分の子供に生まれてしまったばかっかりに子供として当然の尊厳を奪われているという自責の念に胸が締め付けられた。
「私がもう少し強くて、ディーノを守りながら外出できるだけの実力が有れば、、、」
「いや、お前のせいじゃない。お前が居てくれて良かった、、、そのお蔭であの子は普通の子供と同じく、いやッそれ以上に純粋で愛に溢れた子供に成ってくれた」
二人は感情が積もった瞳で熱心に蹴り技を習っているディーノに視線を送る。
その瞳は完全に父親の物であった。
しかし突如その視界の中に人影が割り込んでくる、アンベルトの陰だ。
「何時まで廊下に突っ立ってるんですか? さっさと会議終わらせないと直ぐに出発時刻に成っちまいますよ?」
「ああ、そうだな済まない」
ルチアーノは夢から覚めたような表情を見せ、一瞬言葉を詰まらせながら言った。
アンベルトはその様子をみて小さな溜息を付き、頭を掻きながらながら言葉を続ける。
「タダでさえ時間が無いんすから、このままだとディーノと二人の時間を作ってやれなッ、、、」
其処まで言ってアンベルトの身体は突如硬直。
そして急に全身の力が抜け去った様に膝から崩れ落ち、床の上でジタバタしながら絶叫した。
「ウオオオッ!! ぼ、坊主お前ッ、どどど何処蹴ってんだバカ野郎ォォォ!!」
地面に崩れ落ちたアンベルトは必死に股の間を抑え、涙目になりながら後ろでしたり顔をしながら見下ろしているディーノに叫んだ。
教わっていた『とびきり強力な蹴り技』が炸裂したのだった。
「やったあ!! 成功したよディオン!!」
「うむ、流石二代目素晴らしいバトルセンスである! これぞ我が秘伝の技『金的蹴り』であるぞ!!」
「ディオンてめえッ!! なんちゅう技教えてんだッ! 坊主も他人の金玉蹴り上げるんだから少しは躊躇えッ!!」
アンベルトは地面に横たわり、顔を真っ青にしたまま叫ぶ。
「おー、偉いぞディーノ弱い九歳にしてウチの三大幹部の一人を倒すとは将来有望だな! 明日からアンベルトの席にはお前が座るか!! そして世界最強であるこの俺が直接異名を付けてやろう、お前の異名は『ゴールデンブレイク』だ!!」
「わーい! 僕はゴールデンブレイクだー」
人様の金玉を蹴り上げた息子をルチアーノは満面の笑みで褒め称えた。
親バカにも程が有る行為にアンベルトが依然股間を抑えながらキレ続ける。
「ちょ、俺ッ此れで幹部の座から降ろされるんですか!? 其れにアンタ、息子に何て異名付けてんだよ! そんな手配書張り出されたら表歩けねえよッ!!」
「うさいぞ、金玉喘ぎ」
「もしかしてそれ俺の異名ッ!?」
アンベルトは地面を転がりながらツッコミ続け、数分後に青い顔のまま何とか立ち上がった。
結局彼を心配する者はだれ一人として現れないままであったが、、、
「あぁ、、、腹の奥がまだ気持ち悪い、、、ディオンてめえ覚えてろよッ必ず後で同じ苦しみを与えてやる・・・ッ!!」
「お、やっと喘ぎ終えたかアンベルト!」
「いや、ボスその言いかッ、、、」
「それじゃあそろそろ会議に行くぞ。俺はディーノと少し話をしてから行く、、、この際だ、俺が行くまでの時間を利用して日頃の不満を紙にでも書き出しとけ」
ルチアーノはアンベルトの言葉を途中で遮りって先に部下たちを会議室に向かわせる。
そしてルチアーノは一人息子の元へ向かい、まだ小さく頼りない肩をガッシと掴んでから言葉を投げ掛けた。
「長い間家を空けて済まなかったな。寂しい思いはしなかったか?」
「ううん、トムハットが何時も居てくれたから寂しく無かった。ちょっと退屈だっただけ」
ディーノは真っ直ぐな瞳でルチアーノを見上げ、そして首を小さく横に振った。
その言葉を受けてトムハットは恥ずかしい様な嬉しい様な表情を見せ、ルシアーノは安心したように優しい笑顔を見せる。
「そうか、、、トムハットは多少うるさいが、知識・精神・人間性の全てに優れた素晴らしい人物だ。困った時は必ず彼を頼り、彼の様な人間を目指すんだぞ」
「ううん」
ディーノは首を横に振り、父から投げ掛けられた言葉を拒絶する。
その反応にディーノは驚愕を浮かべ、トムハットは分かっていたかの様な複雑な表情になった。
「僕はね、パパみたいな大人に成りたいんだ。パパみたいに強くッ誰よりも強く成りたいんだ」
「・・・良いかディーノ。世界は強さだけが全てじゃない、本当に大切お前自身が他の誰を差し置いてでも幸福に成る事なんだ。お前の年齢で強い事をカッコイイと感じるのは良くある事なんだが、パパの強さに憧れるのは駄目だ」
「でも、強くないと世界を変えられないんだ、、、僕は世界を変えなくちゃならないんだよ」
そのディーノが発した言葉を聞いた瞬間、ルチアーノの奥底で眠ってた振り傷が鈍い痛みを発して彼の意識を遥か昔の世界に引きずり込んだ。
『・・・俺は世界を破壊しなくちゃならない。理由なんて初めから無かった。生まれたその瞬間に使命を与えられ、その為だけに命を削ってきた。俺が街をビルを人を破壊するという行為は、お前達が空気を吸って飯を喰って寝るのと同じ、、、体に刻み付けられた本能なんだよ』
山の様に巨大な影がそう言葉を発し、ルチアーノの意識は現在に戻ってきた。
「ぐうッ、、、!」
鋭い痛みが脳の根幹を貫き、ルチアーノは小さく唸り声を発する。
遠い過去の亡霊が、何故かディーノと重なってしまった。
「パパ? 大丈夫??」
突然うめき声を上げ、泣きそうな程悲しい表情に変化した父の顔をディーノが覗き込む。
その感情が伝播してしまったのか、少年の瞳にまで透明で美しい涙が溜まって溢れそうに成ってる。
「ああっ、大丈夫だディーノ! パパは元気だぞ。お願いだから泣かないでおくれ、お前の涙が何よりもパパには辛いんだ、、、」
そう言ってルチアーノはそっと指をで涙を掬い、少し強めに息子の小さな体を抱きしめた。
「会議が終わったら時間を作る。お前の部屋に行くから待っててくれるか?」
「うんッ、、、待ってる」
「そうか、ありがとう、、、」
ルチアーノは最後に息子の頭を優しく撫で、トムハットにディーノを預ける。
そして再びボスの表情に戻って部屋を後にした。
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運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。
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※表紙のイラストはAIによるイメージです
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
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高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
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パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
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彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
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独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
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彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
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