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第12話 ルチアー真意
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ルチアーノが部屋に入った瞬間室内の空気は一変した。
別に先ほどディーノと話していた時と見た目が変わっている訳でも無く、口調が変わったという訳でも無い。極めて自然体だ。
しかし纏っている空気感が別物なのだ、全員が喉元に刃物を近づけられて様な圧迫感を感じる。
三人は慌てて立ち上がり、ルチアーノが席に着くのを待った。
「別にわざわざ立たなくても良いのに」
「・・・いえ、やりたくてやっているので」
オーウェンの言葉にディオンもアンベルトも頷く。
常人であれば全身が震えて言葉も上手く発せなく成る様な緊張感の中でも、流石に長年ルチアーノと行動を共にしてきた幹部達は大丈夫らしい。
最初こそ表情が引きつっていたが、今では肩の力が抜けて自然体になっている。
「それじゃあ会議始めるか。全員、着席ッ」
ディーノがそう言って椅子に腰を下ろすのと殆ど同時に、三人も腰を下ろした。
傍から見れば放任主義で、各々が自由奔放に活動している統率が取れていないファミリーに見えがちなレヴィアスファミリーであるが、実際は真逆である。
幹部全員がルチアーノという男に心酔していて、彼のカリスマ性の元に素晴らしい統率を見せているのだ。
「それじゃあ本題に入るか。ディオンでもアンベルトでも、または各々別に発言しても良い、、、俺に言いたいことを言ってみろ」
本格的に会議が始まった。
ディオンが口を開こうとしたが、考えるよりも先に行動したアンベルトが先に感情を音に変えて吐き出した。
「俺からの質問は、この訳の分からない受け身戦略の真意を聞かせて貰いたい。そして今回の侵攻を行ってきたグレイズファミリーへの報復攻撃の許可が欲しい」
アンベルトは感情がかなり曇っていたが、オーウェンが釘を刺した通りに極力理性的な発言に成るよう心掛けた。
「行動の真意と報復の許可か、、、ディオンとオーウェンは何か有るか?」
ルチアーノは言葉の途中で考える様に間を作り、他の二人にも質問は無いかと投げ掛けた。
「吾輩も殆ど同じ質問をしようとしていたのだ。よって質問無しッ!」
「私も、今は大丈夫です」
どうやら二人が言いたかった事は全てアンベルトが代弁してくれた様だ。
皆今まで口には出していなかったが、受け身で防衛し続けるだけの現状に少なからず不信感と苛立ちを感じていた。
「そうか、ではアンベルトの質問に今は全神経を傾けるとしよう。先ずは戦略の真意から、、、この件に関しては俺の脳内で立てているビジョンを先ずは語らなくては成らないだろう」
ルチアーノは再び言葉の合間に間隔を作り、言葉をストックしてから自らのビジョンを話始める。
「まず初めに俺の最終的な目標を言わせて貰うと、俺の目標は全てのビッグファミリーと同盟を結び戦争を無くす事だ」
その発言を聞いた瞬間、全員の表情に様々な変化が表れる。
ある者は眉が跳ね上がり、ある者は眉間に皺を寄せて、また有る者は頭を抱えたが、全員溢れそうになる言葉を何とか堪えた。
「今までの受け身期間の真意は俺達が征服によって他ファミリーを潰す気が無いこと、領土的な野心が無い事を示す為のアピールだった」
その言葉を聞いて、一人の幹部の表情が憎悪で埋まったがすぐに無表情で繕われる。
それ故、その者の変化に気が付いた者は一人もいなかった。
「俺は若い頃全ての世界を手中に収め、今より少しでも良い世界を作ろうと必死だった。しかし年を取って無駄に知恵を付けちまった、、、いくら俺達が強くても他のファミリー全てに連合軍を作られれば終わりだし、仮に一強状態に成ったとしてもVCFに本腰を入れられれば確実に潰される。なら他のファミリーと平和的に共存し、俺達の限られた世界の中で少しでも良い世界を作るしかないんだよ」
その言葉に再び全員の表情が歪むが、それでもボスが話終えるまで必死に耐える。
「其処で敵意が無い事を他ファミリーに示し、互いに不干渉の立場で平和的な同盟の席に着いてもらおうと思っている。べリアスにも、ガイムにも、そしてグレイズにもッ、、、」
ダンッ!!という拳を円卓に叩き付ける音が響き、全員の視点が一点に集まる。
その視点が集まった先に居たのは、表情筋を限界まで収縮し大量の血管を隆起させて般若のような表情に変化したアンベルトであった。ついに感情が爆発したのである。
「すみませんボス、、、聞き間違いならそう言って下さい。同盟を組むファミリーの中に、グレイズが含まれているのは俺の聞き間違いですよねッ?」
「いや、聞き間違いじゃない。俺はグレイズとも平和的な同盟をッ、、、」
ドッゴォン!!という先ほどを遥かに上回る衝突音が響いて、高級そうな円卓が粉々に砕け散った。
その衝撃の中心にいたアンベルトは、木片と化した円卓を気にする様子も無くルチアーノを怒炎噴き出る瞳で睨み付け、刃の様な言葉を投げつけた。
「其れで俺達が納得するとでも思ってるんですか? 多くの兵士が、非戦闘員がッ、女がッ子供がグレイズに殺されたんだぞ! その怨敵と全てを忘れて手を結べる筈が無いだろうが!! 手を結ぶとしたら敵兵士五千人を処刑してからだッ、敵が代償を支払うまで徹底的に破壊すべきだ!!」
アンベルトは完全に自制心が弾き飛ばされ、後半は感情を吐き出し体を震わせていた。
「・・・その報復の連鎖を繰り返したのがこの十年だろ」
ルチアーノが覇気の籠った言葉を放った。
オーウェンとディオンは一瞬体をビクッと揺らしたが、アンベルトは烈火の如き怒りでその覇気を相殺し正面からぶつかり合う。
「俺達の目的は最初から一度も変わっていない、この世界を俺達の力で少しでも良い場所に変える事だろ? しかし現実は真逆、確かに金持ちは減ったが貧乏人が増えただけだ。今までの方法では限界が来ている、何処かが痛みを受け入れて拳を納めなくてはならない」
「何故その役割を俺達が担わなくてはならないのですか!! その役目を負うのは悪逆非道の限りを尽くすグレイズにこそ相応しいッ、人々から金を巻き上げ貧困を深めたベリアスにこそ相応しいッ、人々が苦しんでいても見殺しにし続けたガイムにこそ相応しいッ!! 何故、人々の為世界の為に活動し続けてきた我々が一番の傷を負わなくては成らないッ?!」
ルチアーノがどんな言葉を投げ掛けようとも、アンベルトは一切引こうとしない。
彼は部下や人々の悲しみと怒りを代弁する役割が有るのだ、他の幹部にはできない自分に与えられた最大の役割を果たす責務が有る
「他のファミリーが拳を降ろすのを期待し続けた事こそが今までの失敗だろ。他人を変化させる事は不可能だ、、、今のままじゃ駄目だと、変わらなくてはいけないと考えているなら自分達が変わるしか選択肢は無い!!」
「いや其れは違うッ! 今までが甘過ぎたんですよ!! 中途半端に敵を痛めつけるだけで、敵を完全に滅ぼそうと行動した事は一度もない。敵が言葉で拳を降ろさないなら、腕を支えている腱を切り落とせば良いッ!! 抵抗する気力も起きなくなる程徹底的に破壊すれば勝手に従属してきます、その時に暖かく迎え入れれば良い」
「もし仮に其れを実行すると、今まで死んできた人間の三倍は死ぬぞ」
「敵に痛みを教える為ならッ命を喜んで差し出す人間か此処には大勢います!」
此処まで言い終えたルチアーノとアンベルトは再び膠着状態となる。
比喩でも何でも無く、二人の間に火花が散っている様な、真剣で鍔競り合いをしている様な幻覚が見えた。
数秒の沈黙の後、ルチアーノがようやく口を開く。
「・・・はあ、まあ元々こうなる予想はしていた。その場合の折衷案も既に考えてある」
「せ、折衷案?」
ルチアーノの発言にアンベルトが拍子抜けした様に裏返った声を上げ、場の緊張感が僅かに和らいだ。
しかし直ぐに次はどんな案が飛び出してくるのかという緊張感が充満する。
そしてルチアーノはゆっくりと話し始めた。
「先ず、俺は既に全てのビッグファミリーに対して停戦・期限なしの不干渉・ファミリー間の境界での軍事行動の禁止などを盛り込んだ同盟の加入を求める書状を送っている。この同盟に向こうが素直に応じれば、俺達は怒りも憎しみも放棄して傷を抱えたまま平和を手に入れる事になる」
「な、もう送っているだとッ、、、」
「待てアンベルト!! 反論するのは話を聞いた後だッ先ずは黙って耳を傾けろ!!」
ルチアーノの言葉を受けて再び怒りが爆発したアンベルトをオーウェンが止める。
そしてアンベルトは渋々といった様子で再び椅子にもたれ掛かった。
「このまま素直に同盟を受け入れれば其れでいい、全ファミリーが手を繋いで争いを無くす。しかしもしも応じないファミリーが一つでもあったならッ、全兵力を速やかにそのファミリーへ投入し首都を火の海に変える。そして無理矢理同盟を結ばせる、、、此れでどうだ?」
この提案は確かに折衷案に成っていた。
一度平和を享受する最後のチャンスを与え、受け入れなけれな徹底的に叩き潰すという内容に全員が思考を巡らせて黙り込む。
唯一人、予め思考を纏めていたルチアーノだけが話続けた。
「お前たちは憎いグレイズやベリアスがこの同盟の誘いを受けても、争いと混乱を求めて突っぱねる事を待っていれば良い。そうすれば思う存分、全力で戦う事を俺は許可しよう」
ルチアーノの言葉を受け入れて整理するのに時間が掛ったが、ようやく幹部達も自分なりに考えが纏まる。
「私はその案に賛成ですね。相手がどの様な戦略を取ってくるとしても、我々まで誇りを捨てて通告も無しに攻め込むのは過去に泥を塗る事に成る。やるなら敵が明確に戦闘の意思を示した後に叩き潰しましょう」
「・・・吾輩も其れならば。平和と安全の保障が手に入るのならば、民にも怒りを堪えて前を向く様に説得する事ができるだろうしな。ただし、敵が拒んだ時には全力で戦わせてもらうぞ!」
オーウェンもディオンも一応納得はした様だった。
しかし一番感情的に成っていたアンベルトが中々答えを出せずに、頭を抱えて考え込んでいる。
そしてオーウェンやディオンに比べて優秀とは言えない脳味噌をフル回転させ、あらゆる可能性を考え終えた後に口を開く。
「・・・この同盟を受け入れたとしても、向こうが素直に約束を守り続けるとは限らねえ。もし同盟を結んだ後に戦争を仕掛けるファミリーが現われたらどうするんですか?」
アンベルトが発したのは質問の言葉であった。
しかしディーノはその質問が来ることまで予期していたかの様に、スピディーで的確な返答によって応じる。
「もし盟約違反の行動を取ったファミリーが現われた場合は、それ以外のファミリーの連合軍で軍事的制裁を加える事になる。そして盟約違反の判断は、各ファミリーの影響力が及ばない完全中立で独立した組織に任せる。その組織の運営は各ファミリーから平等に選出した委員に任せようと考えている」
「・・・分かりました。正直モヤモヤした感情は腹の奥に残っていますが、俺の脳味噌で穴を見つける事は出来なかったんで賛成します。本当は平和が一番だって事はわかってるんでね」
ルチアーノの的確な説明を受けて、アンベルトは完全に納得はしていない様だったが一応賛成に回った。
これで幹部全員の賛成を得て、憂いなく同盟を結ぶことが出来る。
「最後に一つ」
アンベルトが声を発した。
当然誰も止める事は無く、ルチアーノは顎をしゃくって発言を促す。
「もし同盟を拒絶するファミリーが現われた時、もしくは盟約に違反したファミリーが現われた時は、、、俺が一番最初に出撃する権利をくださいッ」
「・・・ああ、約束しよう」
ルチアーノは言葉を発するまでに少し間隔を開けたが、アンベルトからの提案を受け入れ約束を結んだ。
約束が結ばれた事を受け、アンベルトもようやく激情から解放されて隆起していた血管も元に戻り始める。
「他に話が有る奴はいるか? ・・・いないな。では此れで今回の会議は終了する、各々の部下にはお前達から話しておくように。では、解散」
ルチアーノはそう言い残して会議室を後にする。
こうして此れからのレヴィアスファミリーの行方を大きく左右する可能性があった会議が終了し、此処から凄まじい速度で世界が動き始める事となるのだった。
別に先ほどディーノと話していた時と見た目が変わっている訳でも無く、口調が変わったという訳でも無い。極めて自然体だ。
しかし纏っている空気感が別物なのだ、全員が喉元に刃物を近づけられて様な圧迫感を感じる。
三人は慌てて立ち上がり、ルチアーノが席に着くのを待った。
「別にわざわざ立たなくても良いのに」
「・・・いえ、やりたくてやっているので」
オーウェンの言葉にディオンもアンベルトも頷く。
常人であれば全身が震えて言葉も上手く発せなく成る様な緊張感の中でも、流石に長年ルチアーノと行動を共にしてきた幹部達は大丈夫らしい。
最初こそ表情が引きつっていたが、今では肩の力が抜けて自然体になっている。
「それじゃあ会議始めるか。全員、着席ッ」
ディーノがそう言って椅子に腰を下ろすのと殆ど同時に、三人も腰を下ろした。
傍から見れば放任主義で、各々が自由奔放に活動している統率が取れていないファミリーに見えがちなレヴィアスファミリーであるが、実際は真逆である。
幹部全員がルチアーノという男に心酔していて、彼のカリスマ性の元に素晴らしい統率を見せているのだ。
「それじゃあ本題に入るか。ディオンでもアンベルトでも、または各々別に発言しても良い、、、俺に言いたいことを言ってみろ」
本格的に会議が始まった。
ディオンが口を開こうとしたが、考えるよりも先に行動したアンベルトが先に感情を音に変えて吐き出した。
「俺からの質問は、この訳の分からない受け身戦略の真意を聞かせて貰いたい。そして今回の侵攻を行ってきたグレイズファミリーへの報復攻撃の許可が欲しい」
アンベルトは感情がかなり曇っていたが、オーウェンが釘を刺した通りに極力理性的な発言に成るよう心掛けた。
「行動の真意と報復の許可か、、、ディオンとオーウェンは何か有るか?」
ルチアーノは言葉の途中で考える様に間を作り、他の二人にも質問は無いかと投げ掛けた。
「吾輩も殆ど同じ質問をしようとしていたのだ。よって質問無しッ!」
「私も、今は大丈夫です」
どうやら二人が言いたかった事は全てアンベルトが代弁してくれた様だ。
皆今まで口には出していなかったが、受け身で防衛し続けるだけの現状に少なからず不信感と苛立ちを感じていた。
「そうか、ではアンベルトの質問に今は全神経を傾けるとしよう。先ずは戦略の真意から、、、この件に関しては俺の脳内で立てているビジョンを先ずは語らなくては成らないだろう」
ルチアーノは再び言葉の合間に間隔を作り、言葉をストックしてから自らのビジョンを話始める。
「まず初めに俺の最終的な目標を言わせて貰うと、俺の目標は全てのビッグファミリーと同盟を結び戦争を無くす事だ」
その発言を聞いた瞬間、全員の表情に様々な変化が表れる。
ある者は眉が跳ね上がり、ある者は眉間に皺を寄せて、また有る者は頭を抱えたが、全員溢れそうになる言葉を何とか堪えた。
「今までの受け身期間の真意は俺達が征服によって他ファミリーを潰す気が無いこと、領土的な野心が無い事を示す為のアピールだった」
その言葉を聞いて、一人の幹部の表情が憎悪で埋まったがすぐに無表情で繕われる。
それ故、その者の変化に気が付いた者は一人もいなかった。
「俺は若い頃全ての世界を手中に収め、今より少しでも良い世界を作ろうと必死だった。しかし年を取って無駄に知恵を付けちまった、、、いくら俺達が強くても他のファミリー全てに連合軍を作られれば終わりだし、仮に一強状態に成ったとしてもVCFに本腰を入れられれば確実に潰される。なら他のファミリーと平和的に共存し、俺達の限られた世界の中で少しでも良い世界を作るしかないんだよ」
その言葉に再び全員の表情が歪むが、それでもボスが話終えるまで必死に耐える。
「其処で敵意が無い事を他ファミリーに示し、互いに不干渉の立場で平和的な同盟の席に着いてもらおうと思っている。べリアスにも、ガイムにも、そしてグレイズにもッ、、、」
ダンッ!!という拳を円卓に叩き付ける音が響き、全員の視点が一点に集まる。
その視点が集まった先に居たのは、表情筋を限界まで収縮し大量の血管を隆起させて般若のような表情に変化したアンベルトであった。ついに感情が爆発したのである。
「すみませんボス、、、聞き間違いならそう言って下さい。同盟を組むファミリーの中に、グレイズが含まれているのは俺の聞き間違いですよねッ?」
「いや、聞き間違いじゃない。俺はグレイズとも平和的な同盟をッ、、、」
ドッゴォン!!という先ほどを遥かに上回る衝突音が響いて、高級そうな円卓が粉々に砕け散った。
その衝撃の中心にいたアンベルトは、木片と化した円卓を気にする様子も無くルチアーノを怒炎噴き出る瞳で睨み付け、刃の様な言葉を投げつけた。
「其れで俺達が納得するとでも思ってるんですか? 多くの兵士が、非戦闘員がッ、女がッ子供がグレイズに殺されたんだぞ! その怨敵と全てを忘れて手を結べる筈が無いだろうが!! 手を結ぶとしたら敵兵士五千人を処刑してからだッ、敵が代償を支払うまで徹底的に破壊すべきだ!!」
アンベルトは完全に自制心が弾き飛ばされ、後半は感情を吐き出し体を震わせていた。
「・・・その報復の連鎖を繰り返したのがこの十年だろ」
ルチアーノが覇気の籠った言葉を放った。
オーウェンとディオンは一瞬体をビクッと揺らしたが、アンベルトは烈火の如き怒りでその覇気を相殺し正面からぶつかり合う。
「俺達の目的は最初から一度も変わっていない、この世界を俺達の力で少しでも良い場所に変える事だろ? しかし現実は真逆、確かに金持ちは減ったが貧乏人が増えただけだ。今までの方法では限界が来ている、何処かが痛みを受け入れて拳を納めなくてはならない」
「何故その役割を俺達が担わなくてはならないのですか!! その役目を負うのは悪逆非道の限りを尽くすグレイズにこそ相応しいッ、人々から金を巻き上げ貧困を深めたベリアスにこそ相応しいッ、人々が苦しんでいても見殺しにし続けたガイムにこそ相応しいッ!! 何故、人々の為世界の為に活動し続けてきた我々が一番の傷を負わなくては成らないッ?!」
ルチアーノがどんな言葉を投げ掛けようとも、アンベルトは一切引こうとしない。
彼は部下や人々の悲しみと怒りを代弁する役割が有るのだ、他の幹部にはできない自分に与えられた最大の役割を果たす責務が有る
「他のファミリーが拳を降ろすのを期待し続けた事こそが今までの失敗だろ。他人を変化させる事は不可能だ、、、今のままじゃ駄目だと、変わらなくてはいけないと考えているなら自分達が変わるしか選択肢は無い!!」
「いや其れは違うッ! 今までが甘過ぎたんですよ!! 中途半端に敵を痛めつけるだけで、敵を完全に滅ぼそうと行動した事は一度もない。敵が言葉で拳を降ろさないなら、腕を支えている腱を切り落とせば良いッ!! 抵抗する気力も起きなくなる程徹底的に破壊すれば勝手に従属してきます、その時に暖かく迎え入れれば良い」
「もし仮に其れを実行すると、今まで死んできた人間の三倍は死ぬぞ」
「敵に痛みを教える為ならッ命を喜んで差し出す人間か此処には大勢います!」
此処まで言い終えたルチアーノとアンベルトは再び膠着状態となる。
比喩でも何でも無く、二人の間に火花が散っている様な、真剣で鍔競り合いをしている様な幻覚が見えた。
数秒の沈黙の後、ルチアーノがようやく口を開く。
「・・・はあ、まあ元々こうなる予想はしていた。その場合の折衷案も既に考えてある」
「せ、折衷案?」
ルチアーノの発言にアンベルトが拍子抜けした様に裏返った声を上げ、場の緊張感が僅かに和らいだ。
しかし直ぐに次はどんな案が飛び出してくるのかという緊張感が充満する。
そしてルチアーノはゆっくりと話し始めた。
「先ず、俺は既に全てのビッグファミリーに対して停戦・期限なしの不干渉・ファミリー間の境界での軍事行動の禁止などを盛り込んだ同盟の加入を求める書状を送っている。この同盟に向こうが素直に応じれば、俺達は怒りも憎しみも放棄して傷を抱えたまま平和を手に入れる事になる」
「な、もう送っているだとッ、、、」
「待てアンベルト!! 反論するのは話を聞いた後だッ先ずは黙って耳を傾けろ!!」
ルチアーノの言葉を受けて再び怒りが爆発したアンベルトをオーウェンが止める。
そしてアンベルトは渋々といった様子で再び椅子にもたれ掛かった。
「このまま素直に同盟を受け入れれば其れでいい、全ファミリーが手を繋いで争いを無くす。しかしもしも応じないファミリーが一つでもあったならッ、全兵力を速やかにそのファミリーへ投入し首都を火の海に変える。そして無理矢理同盟を結ばせる、、、此れでどうだ?」
この提案は確かに折衷案に成っていた。
一度平和を享受する最後のチャンスを与え、受け入れなけれな徹底的に叩き潰すという内容に全員が思考を巡らせて黙り込む。
唯一人、予め思考を纏めていたルチアーノだけが話続けた。
「お前たちは憎いグレイズやベリアスがこの同盟の誘いを受けても、争いと混乱を求めて突っぱねる事を待っていれば良い。そうすれば思う存分、全力で戦う事を俺は許可しよう」
ルチアーノの言葉を受け入れて整理するのに時間が掛ったが、ようやく幹部達も自分なりに考えが纏まる。
「私はその案に賛成ですね。相手がどの様な戦略を取ってくるとしても、我々まで誇りを捨てて通告も無しに攻め込むのは過去に泥を塗る事に成る。やるなら敵が明確に戦闘の意思を示した後に叩き潰しましょう」
「・・・吾輩も其れならば。平和と安全の保障が手に入るのならば、民にも怒りを堪えて前を向く様に説得する事ができるだろうしな。ただし、敵が拒んだ時には全力で戦わせてもらうぞ!」
オーウェンもディオンも一応納得はした様だった。
しかし一番感情的に成っていたアンベルトが中々答えを出せずに、頭を抱えて考え込んでいる。
そしてオーウェンやディオンに比べて優秀とは言えない脳味噌をフル回転させ、あらゆる可能性を考え終えた後に口を開く。
「・・・この同盟を受け入れたとしても、向こうが素直に約束を守り続けるとは限らねえ。もし同盟を結んだ後に戦争を仕掛けるファミリーが現われたらどうするんですか?」
アンベルトが発したのは質問の言葉であった。
しかしディーノはその質問が来ることまで予期していたかの様に、スピディーで的確な返答によって応じる。
「もし盟約違反の行動を取ったファミリーが現われた場合は、それ以外のファミリーの連合軍で軍事的制裁を加える事になる。そして盟約違反の判断は、各ファミリーの影響力が及ばない完全中立で独立した組織に任せる。その組織の運営は各ファミリーから平等に選出した委員に任せようと考えている」
「・・・分かりました。正直モヤモヤした感情は腹の奥に残っていますが、俺の脳味噌で穴を見つける事は出来なかったんで賛成します。本当は平和が一番だって事はわかってるんでね」
ルチアーノの的確な説明を受けて、アンベルトは完全に納得はしていない様だったが一応賛成に回った。
これで幹部全員の賛成を得て、憂いなく同盟を結ぶことが出来る。
「最後に一つ」
アンベルトが声を発した。
当然誰も止める事は無く、ルチアーノは顎をしゃくって発言を促す。
「もし同盟を拒絶するファミリーが現われた時、もしくは盟約に違反したファミリーが現われた時は、、、俺が一番最初に出撃する権利をくださいッ」
「・・・ああ、約束しよう」
ルチアーノは言葉を発するまでに少し間隔を開けたが、アンベルトからの提案を受け入れ約束を結んだ。
約束が結ばれた事を受け、アンベルトもようやく激情から解放されて隆起していた血管も元に戻り始める。
「他に話が有る奴はいるか? ・・・いないな。では此れで今回の会議は終了する、各々の部下にはお前達から話しておくように。では、解散」
ルチアーノはそう言い残して会議室を後にする。
こうして此れからのレヴィアスファミリーの行方を大きく左右する可能性があった会議が終了し、此処から凄まじい速度で世界が動き始める事となるのだった。
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そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
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これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。
裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか――
運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。
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※表紙のイラストはAIによるイメージです
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
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高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
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しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
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パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
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が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
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彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
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「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
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