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第22話 息子を最強の兵士に、、、
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「此れが俺の息子、ディーノの写真だ。可愛いだろ?」
ルチアーノは懐から息子の写真を出し、ライオネルに見せる。
「ほう」
旧友が写真を懐から取り出す様子を見て、ライオネルは面白い物でも見たかの様に顔を緩めてニヤニヤしながら呟いた。
その呟きの声色にルチアーノが何か気恥ずかしい物を感じ取る。
「何だよッ」
「いやなに、まさかお前が懐に息子の写真を入れているとは思わなかったものでな。すっかり親馬鹿になりおって、天下のルチアーノも人間だったという事か」
「うるせえな、さっさと見ろよッ」
別に恥ずかしがる事では無いのだろうが、何故かムズムズする感情が湧き上がってライオネルの顔を無理矢理写真に近づける。
間近でディーノの写真をみたライオネルは不思議そうに両目をパチパチさせた。
「此れがお前の息子か? この天使の様な笑顔を浮かべている少年がか??」
その発言にルチアーノは少しムッとする。
「明らかに俺の息子だろうが、笑顔だって瓜二つすぎて鏡と勘違いする位だぜ。ほら、ニイ~!!」
満面の笑みをライオネルに見せ付ける。
しかしゆっくりと首を横に振られ、ビルの崩壊に巻き込まれても傷一つ付かなかった男の心にピシリッとヒビが入った。
「お前の笑顔は昔から目が笑えていなくて作り物臭いぞ、戦ってる時の笑顔以外はな。だがまあ、その獣臭い笑顔が遺伝しなくて良かったよ」
「獣臭いって、、、でも母親似なのもそれはそれで嬉しいかな」
ルチアーノは少し声のトーンを落として言った。
ディーノは色眼鏡を通さずに見ると確かに母親の要素が色濃く表れていて、目の形や肌の色、そして性格も母親譲りである。
肌の色がルチアーノは異常に白く昔からコンプレックスに感じていたし、何より性格が母親に似てくれた事が嬉しい。
物心が付くまでは自分の冷酷で人間性が欠如した性格が遺伝してはいないか、という事一番心配だったのだが嬉しいことに優しく暖かい少年に育ってくれた。
「お前の嫁さん、、、会ったこと無いけど美人だったんだな。お前で薄められても、此れだけ美しい子供が生まれるとは」
「ああ、俺の人生で最大の幸福は妻に出会えた事だ。俺と妻とディーノの三人で一緒に居られた時期が一番幸せだった、、、」
妻の話題が出て突然辺りの空気が重くなる。
ルチアーノの瞳から光が消えて、意識だけが過去に取り残されたままの抜け殻のように姿から精気という物が感じられなくなった。
「ああッ、この話は止めだ!! 今は今の話だけをしよう!!」
ライオネルは自分が踏み入ってはいけないルチアーノの一番綺麗で脆い部分を土足で汚した事を悟り、話題を強引に変える。
そして友人に新しい精神的急所ができた事を胸に刻み、この話題をブラックリストにぶち込んだ。
「今一番にお前と話し合わなくてはいけないのは育て方の話だッ!! 息子を表社会で真っ当に生活させたいというお前の望みは分かる。だが何故、VCFに入隊させる必要がある? お前は何を息子に望んでいるんだッ!!」
「ああ、その話か、、、」
ライオネルが諭すような強い語調の中に相手への思いを込めながら言葉を発し、ルチアーノは弱々しい言葉で応じた。
「お前にはディーノをレヴィアスに終止符を打つ、最強の戦士に育て上げて欲しい。そして俺をディーノが殺し、レヴィアスを最も犠牲が少ない形で消滅させる」
ルチアーノが思い描いている未来を理解した瞬間、ライオネルの表情が固まる。
そしてこの男が自分の息子に親殺しの大罪を背負わせようとしている事を理解し、爆発した怒りにまかせてルチアーノを掴み上げた。
「貴様ッ、息子に自分を殺させるつもりか!!」
ライオネルは凄まじい形相で怒鳴りつける。
しかしルチアーノは抵抗する素振りすら見せず、余りにも軽々と身体を持ち上げられながら薄笑いの瞳で見返す。
「別に俺はお前に此処で殺されても構わない、お前は俺の人生で生まれた数少ない本物の友人だ。でも俺の大切な部下達がお前に殺されたじゃ納得しない、、、確実にVCFとの全面戦争になる筈だ。其れを俺も世界も望まない、、、」
ルチアーノは闇しか存在しない真っ黒な瞳でライオネルを見詰める。
此処でようやくルチアーノに嘗て自分が圧倒され、無力感と屈辱を叩き付けられた野望の炎が消えている事に気が付いた。
「お前自身が、死を望んでいるとでも言うのか??」
「ああ、俺にはもう何も残っていない。だからせめてディーノが成長を終えて裏社会を駆逐する救世主になるまで、仮初の平和を維持することに全力を捧げるつもりだ。何も望まない、託す事しか出来ないんだ」
此処でライオネルは言葉で言い表し様が無い嫌悪感を覚えてルチアーノを掴んでいた両手を離す。
引かれる力を失ったルチアーノの身体は力なく地面に倒れ、全身を地面に打ち付けたにも関わらず無表情のまま空を見上げた。
「俺の旅はもう終わっているんだよ、、、もう俺に出来る事は残っていない。残っているのは、少しでも俺の夢の犠牲者を増やさない様に風呂敷を畳むという責務だけ」
「・・・そうか」
ライオネルはルチアーノの言葉を一言一句否定したくて仕方が無かったが、否定の言葉が出てこなかった。
どれ程思考を巡らせてもルチアーノが死なないで済む終わり方は浮かんで来ない。
其れほどルチアーノ・バラキアの名は、裏の人間にとっても表の人間にとっても大きな意味を持つ存在と成っていたのだ。
「もし仮にディーノがお前を殺しに来たとして、、、お前は全力で迎え撃つつもりか?」
「仮にじゃない、俺が生きていたのなら確実にディーノは俺を殺しに来てくれる。そして当然俺も死力を尽くして迎え撃つさ。何せ俺とルーナの息子を親友のお前が鍛えるんだ、俺も全力を出さないと勝負にならないよ。息子と過ごす最後の時間くらい全力で成長を感じさせてくれ、、、」
ルチアーノは当然の様にそう言った。
その姿に失望とも絶望とも取れる感情を抱いたライオネルは重々しく口を開く。
「今のお前にワシから掛ける事ができる言葉は何一つ無い、、、だが此れだけは保証してやろう、お前の息子はこのワシが責任を持って育て上げる。ワシも、貴様も、そして破帝をも上回る様な英雄に育て上げてみせよう。この五十年近く続いた裏と表の戦いに終止符を打つ最後の英雄、ワシら失敗作の不手際を全て帳消しにできる様な伝説として歴史に名を刻ませてみせる」
ライオネルはルチアーノの隣に腰を落として言った。
そしてその言葉を聞いて、ルチアーノは嬉しそうに優しい笑みを浮かべる。
「そうだ、お前に幾つか言っておかなくちゃいけない事が有る」
「なんだ? 次はもう会う機会が作れないかもしれん、今の内に言っておいてくれ」
「じゃあお言葉に甘えて、、、ディーノは俺の息子だ、どんな試練でも必ず乗り越えて限界を幾度も塗り替える力を持っている。だからどんなキツい修業でも容赦無くつけてやってくれ」
ルシアーのは人差し指を一本ピンと立てながら言った。
「元よりそのつもりよ。ワシらが嘗て師匠に付けて貰った地獄の様な修業を2割増しで行わせるつもりじゃ」
「懐かしいな、其れなら安心だ。じゃあ二つ目は、アイツが士官学校を卒業した時にこの本を渡してくれ」
そう言ってルチアーノは懐から今度はボロボロの本を取り出した。
ライオネルはその日記を受け取り、不思議な物でも見るような目でその本を凝視する。
「これは、何の本だ??」
「ディーノの母親、ルーナが死ぬ前日まで書いていた日記だ。アイツの事をどう思い何を望んでいたのかが事細かに書いてある、、、幼い今のディーノには残酷過ぎてまだ読ませていないが、心が充分成長しきった時にこの本を渡してやってくれ。その時にはこの本が過去の傷ではなく、未来を創造する為のエネルギーになる筈だ」」
「・・・了解した」
ライオネルは自分の手に収まっている本の質量がその話を聞いた瞬間ズンッと重くなった様感じる。
この日記が最後の英雄を生み出す重要なピースと成る予感があった。
自分が何故生まれ、何を望まれたのかを明確に知る事は世界を変える直接的なエネルギーである『信念』を生み出す重要な要素だ。
過去に目を逸らしていては未来を作る事は出来ない。
「じゃあ三つ目。アイツが成長した後にもしも俺について質問をしてきたら、お前が見てきた俺の全てを話してやってほしい。一番長い間俺を見続けたお前が、ルチアーノ・バラキアの光も闇も全てつまびらかに。その結果ディーノが俺を極悪人であると判断しても構わない、息子が父親を必ず尊敬する必要なんて無いからな」
ルチアーノはディーノに裏社会への興味を募らせない様に、極力自分がどんな人生を歩んできたのかを話していなかった。
自ら明かさなかった事を卑怯だと思われるかも知れないが、裏表両方の世界を知った後に自分を息子に評価して貰いたいのである。
「わかった。本心で言えば貴様への恨み言をグチグチ垂れ流してやりたい所だが、一応中立の立場で話してやるわい。だが所詮お前の息子だ、どうせ同じ様に夢だの野望だの絵空事に目を輝かせる決まっとるわ」
ライオネルはこの件に関して言えば全く心配していない。
写真に写っている笑顔を見れば分かる、ルチアーノ譲りの眩い光を秘めている強い瞳をしているのだ。
どうやら一筋縄ではいかない、鍛えるのに苦労しそうな弟子に成りそうだった。
「ハハッ、そうだな俺の息子だもんな、、、其れじゃあ最後の四つ目、出来ればお前にもディーノの事を息子だと思って欲しい」
ルチアーノの言葉にライオネルが息を詰まらせる。
「わ、ワシが父親をしろという事か?」
「ああ、本当なら俺が全て与えてやりたかったが時間が其れを許さない。だからその分お前が与えてやって欲しいんだ、喧嘩の仕方とか社会で生きていく方法とか世界の面白さを。其れはディーノを外に出してやれなかった俺が未だ教れていない事だ」
「じゃが、喧嘩の仕方なら未だしもそれ以外の事は、、、」
「お前なら大丈夫だよ。お前が一緒に寝食を共にして、教えたいと思った事を教えてやれば必ず立派な大人に成長する。俺が保証するよ、お前ほど父親に向いてる人間はいないッ」
そう断言されてライオネルは恥ずかしいような困った様な表情を見せる。
考えてみれば人生の殆どを屋内で過ごし、社会や他の子供と接した事の無い小さな少年を預かり育て上げるのだ。
責任は重大で、ライオネル自身の手にディーノの此れからの人生が掛っていると言っても過言では無い。
「完全に父親の役目を果たせるかは分からんが、ベストを尽くす事だけは約束しよう。今言える事は其れだけだ」
「ああ、充分だよ。その言葉を最後に聞けて安心した、、、じゃあそろそろ帰るよ」
ルチアーノはライオネルの言葉を受けて嬉しそうに笑い、背中を向けて帰ろうとした。
互いに多くの部下を待たせている状況だ、余り長居をしてしまうと不審がられてしまう可能性が有る。
「そうだな、、、だが最後に一言」
「ん?」
ライオネルの言葉にルチアーノは振り向いた。
「最低でも息子に殺されるまでは、何としてでも生き残れよ」
その言葉はルチアーノの身を本気で案じている言葉であった。
ライオネルは対マフィア組織のトップである、レヴィアスファミリーを取り巻く雲行きが色々と怪しく成り始めている事を知っているのだろう。
「大丈夫だよ、俺を誰だと思ってんだッ」
ルチアーノは話の間鳴りを潜めていた威風を解放し、凶暴で視線だけで弱者の心臓を止める笑顔を見せ付けた。
その表情は自信に満ち溢れていて、ライオネルに嘗ての鬼神の如き姿が思い出される。
「フッ、そうだな。貴様の強さはワシが一番知っとるわッ!!」
ライオネルも自らの不安を笑い飛ばし、彼もルチアーノと双璧を成す最強としての威風を解き放つ。
二人の威風がぶつかり合い空間が揺れ始めた。
「10月4日の正午に87区の緩衝地帯で待っているッ!! 其処に信頼出来る部下に任せてディーノを連れてこい!! お前は安心して息子が成長し殺しに来る瞬間を待てッ必ず一人前の男にディーノを育て上げる事を約束するッ!!」
「アアッ! 頼んだぞライオネル!! 次会う時は互いにあの世だろうな」
「ハハッ、違いない!! 精々あの世で酒の肴に困らぬよう全力で生きようではないか!」
二人は互いに両足を折りたたみ、力を貯める。
「「ではッ、さらばだ!!」」
ルチアーノとライオネルが同時に地面を蹴り付け、重力を突き破って飛翔して互いの部下達が待っている本陣に帰還する。
互いに人生最大の友人にもう二度と会えない事に寂しさを感じながら、其れでも確固たる覚悟で振り返ること無く空を舞ったのだった。
ルチアーノは懐から息子の写真を出し、ライオネルに見せる。
「ほう」
旧友が写真を懐から取り出す様子を見て、ライオネルは面白い物でも見たかの様に顔を緩めてニヤニヤしながら呟いた。
その呟きの声色にルチアーノが何か気恥ずかしい物を感じ取る。
「何だよッ」
「いやなに、まさかお前が懐に息子の写真を入れているとは思わなかったものでな。すっかり親馬鹿になりおって、天下のルチアーノも人間だったという事か」
「うるせえな、さっさと見ろよッ」
別に恥ずかしがる事では無いのだろうが、何故かムズムズする感情が湧き上がってライオネルの顔を無理矢理写真に近づける。
間近でディーノの写真をみたライオネルは不思議そうに両目をパチパチさせた。
「此れがお前の息子か? この天使の様な笑顔を浮かべている少年がか??」
その発言にルチアーノは少しムッとする。
「明らかに俺の息子だろうが、笑顔だって瓜二つすぎて鏡と勘違いする位だぜ。ほら、ニイ~!!」
満面の笑みをライオネルに見せ付ける。
しかしゆっくりと首を横に振られ、ビルの崩壊に巻き込まれても傷一つ付かなかった男の心にピシリッとヒビが入った。
「お前の笑顔は昔から目が笑えていなくて作り物臭いぞ、戦ってる時の笑顔以外はな。だがまあ、その獣臭い笑顔が遺伝しなくて良かったよ」
「獣臭いって、、、でも母親似なのもそれはそれで嬉しいかな」
ルチアーノは少し声のトーンを落として言った。
ディーノは色眼鏡を通さずに見ると確かに母親の要素が色濃く表れていて、目の形や肌の色、そして性格も母親譲りである。
肌の色がルチアーノは異常に白く昔からコンプレックスに感じていたし、何より性格が母親に似てくれた事が嬉しい。
物心が付くまでは自分の冷酷で人間性が欠如した性格が遺伝してはいないか、という事一番心配だったのだが嬉しいことに優しく暖かい少年に育ってくれた。
「お前の嫁さん、、、会ったこと無いけど美人だったんだな。お前で薄められても、此れだけ美しい子供が生まれるとは」
「ああ、俺の人生で最大の幸福は妻に出会えた事だ。俺と妻とディーノの三人で一緒に居られた時期が一番幸せだった、、、」
妻の話題が出て突然辺りの空気が重くなる。
ルチアーノの瞳から光が消えて、意識だけが過去に取り残されたままの抜け殻のように姿から精気という物が感じられなくなった。
「ああッ、この話は止めだ!! 今は今の話だけをしよう!!」
ライオネルは自分が踏み入ってはいけないルチアーノの一番綺麗で脆い部分を土足で汚した事を悟り、話題を強引に変える。
そして友人に新しい精神的急所ができた事を胸に刻み、この話題をブラックリストにぶち込んだ。
「今一番にお前と話し合わなくてはいけないのは育て方の話だッ!! 息子を表社会で真っ当に生活させたいというお前の望みは分かる。だが何故、VCFに入隊させる必要がある? お前は何を息子に望んでいるんだッ!!」
「ああ、その話か、、、」
ライオネルが諭すような強い語調の中に相手への思いを込めながら言葉を発し、ルチアーノは弱々しい言葉で応じた。
「お前にはディーノをレヴィアスに終止符を打つ、最強の戦士に育て上げて欲しい。そして俺をディーノが殺し、レヴィアスを最も犠牲が少ない形で消滅させる」
ルチアーノが思い描いている未来を理解した瞬間、ライオネルの表情が固まる。
そしてこの男が自分の息子に親殺しの大罪を背負わせようとしている事を理解し、爆発した怒りにまかせてルチアーノを掴み上げた。
「貴様ッ、息子に自分を殺させるつもりか!!」
ライオネルは凄まじい形相で怒鳴りつける。
しかしルチアーノは抵抗する素振りすら見せず、余りにも軽々と身体を持ち上げられながら薄笑いの瞳で見返す。
「別に俺はお前に此処で殺されても構わない、お前は俺の人生で生まれた数少ない本物の友人だ。でも俺の大切な部下達がお前に殺されたじゃ納得しない、、、確実にVCFとの全面戦争になる筈だ。其れを俺も世界も望まない、、、」
ルチアーノは闇しか存在しない真っ黒な瞳でライオネルを見詰める。
此処でようやくルチアーノに嘗て自分が圧倒され、無力感と屈辱を叩き付けられた野望の炎が消えている事に気が付いた。
「お前自身が、死を望んでいるとでも言うのか??」
「ああ、俺にはもう何も残っていない。だからせめてディーノが成長を終えて裏社会を駆逐する救世主になるまで、仮初の平和を維持することに全力を捧げるつもりだ。何も望まない、託す事しか出来ないんだ」
此処でライオネルは言葉で言い表し様が無い嫌悪感を覚えてルチアーノを掴んでいた両手を離す。
引かれる力を失ったルチアーノの身体は力なく地面に倒れ、全身を地面に打ち付けたにも関わらず無表情のまま空を見上げた。
「俺の旅はもう終わっているんだよ、、、もう俺に出来る事は残っていない。残っているのは、少しでも俺の夢の犠牲者を増やさない様に風呂敷を畳むという責務だけ」
「・・・そうか」
ライオネルはルチアーノの言葉を一言一句否定したくて仕方が無かったが、否定の言葉が出てこなかった。
どれ程思考を巡らせてもルチアーノが死なないで済む終わり方は浮かんで来ない。
其れほどルチアーノ・バラキアの名は、裏の人間にとっても表の人間にとっても大きな意味を持つ存在と成っていたのだ。
「もし仮にディーノがお前を殺しに来たとして、、、お前は全力で迎え撃つつもりか?」
「仮にじゃない、俺が生きていたのなら確実にディーノは俺を殺しに来てくれる。そして当然俺も死力を尽くして迎え撃つさ。何せ俺とルーナの息子を親友のお前が鍛えるんだ、俺も全力を出さないと勝負にならないよ。息子と過ごす最後の時間くらい全力で成長を感じさせてくれ、、、」
ルチアーノは当然の様にそう言った。
その姿に失望とも絶望とも取れる感情を抱いたライオネルは重々しく口を開く。
「今のお前にワシから掛ける事ができる言葉は何一つ無い、、、だが此れだけは保証してやろう、お前の息子はこのワシが責任を持って育て上げる。ワシも、貴様も、そして破帝をも上回る様な英雄に育て上げてみせよう。この五十年近く続いた裏と表の戦いに終止符を打つ最後の英雄、ワシら失敗作の不手際を全て帳消しにできる様な伝説として歴史に名を刻ませてみせる」
ライオネルはルチアーノの隣に腰を落として言った。
そしてその言葉を聞いて、ルチアーノは嬉しそうに優しい笑みを浮かべる。
「そうだ、お前に幾つか言っておかなくちゃいけない事が有る」
「なんだ? 次はもう会う機会が作れないかもしれん、今の内に言っておいてくれ」
「じゃあお言葉に甘えて、、、ディーノは俺の息子だ、どんな試練でも必ず乗り越えて限界を幾度も塗り替える力を持っている。だからどんなキツい修業でも容赦無くつけてやってくれ」
ルシアーのは人差し指を一本ピンと立てながら言った。
「元よりそのつもりよ。ワシらが嘗て師匠に付けて貰った地獄の様な修業を2割増しで行わせるつもりじゃ」
「懐かしいな、其れなら安心だ。じゃあ二つ目は、アイツが士官学校を卒業した時にこの本を渡してくれ」
そう言ってルチアーノは懐から今度はボロボロの本を取り出した。
ライオネルはその日記を受け取り、不思議な物でも見るような目でその本を凝視する。
「これは、何の本だ??」
「ディーノの母親、ルーナが死ぬ前日まで書いていた日記だ。アイツの事をどう思い何を望んでいたのかが事細かに書いてある、、、幼い今のディーノには残酷過ぎてまだ読ませていないが、心が充分成長しきった時にこの本を渡してやってくれ。その時にはこの本が過去の傷ではなく、未来を創造する為のエネルギーになる筈だ」」
「・・・了解した」
ライオネルは自分の手に収まっている本の質量がその話を聞いた瞬間ズンッと重くなった様感じる。
この日記が最後の英雄を生み出す重要なピースと成る予感があった。
自分が何故生まれ、何を望まれたのかを明確に知る事は世界を変える直接的なエネルギーである『信念』を生み出す重要な要素だ。
過去に目を逸らしていては未来を作る事は出来ない。
「じゃあ三つ目。アイツが成長した後にもしも俺について質問をしてきたら、お前が見てきた俺の全てを話してやってほしい。一番長い間俺を見続けたお前が、ルチアーノ・バラキアの光も闇も全てつまびらかに。その結果ディーノが俺を極悪人であると判断しても構わない、息子が父親を必ず尊敬する必要なんて無いからな」
ルチアーノはディーノに裏社会への興味を募らせない様に、極力自分がどんな人生を歩んできたのかを話していなかった。
自ら明かさなかった事を卑怯だと思われるかも知れないが、裏表両方の世界を知った後に自分を息子に評価して貰いたいのである。
「わかった。本心で言えば貴様への恨み言をグチグチ垂れ流してやりたい所だが、一応中立の立場で話してやるわい。だが所詮お前の息子だ、どうせ同じ様に夢だの野望だの絵空事に目を輝かせる決まっとるわ」
ライオネルはこの件に関して言えば全く心配していない。
写真に写っている笑顔を見れば分かる、ルチアーノ譲りの眩い光を秘めている強い瞳をしているのだ。
どうやら一筋縄ではいかない、鍛えるのに苦労しそうな弟子に成りそうだった。
「ハハッ、そうだな俺の息子だもんな、、、其れじゃあ最後の四つ目、出来ればお前にもディーノの事を息子だと思って欲しい」
ルチアーノの言葉にライオネルが息を詰まらせる。
「わ、ワシが父親をしろという事か?」
「ああ、本当なら俺が全て与えてやりたかったが時間が其れを許さない。だからその分お前が与えてやって欲しいんだ、喧嘩の仕方とか社会で生きていく方法とか世界の面白さを。其れはディーノを外に出してやれなかった俺が未だ教れていない事だ」
「じゃが、喧嘩の仕方なら未だしもそれ以外の事は、、、」
「お前なら大丈夫だよ。お前が一緒に寝食を共にして、教えたいと思った事を教えてやれば必ず立派な大人に成長する。俺が保証するよ、お前ほど父親に向いてる人間はいないッ」
そう断言されてライオネルは恥ずかしいような困った様な表情を見せる。
考えてみれば人生の殆どを屋内で過ごし、社会や他の子供と接した事の無い小さな少年を預かり育て上げるのだ。
責任は重大で、ライオネル自身の手にディーノの此れからの人生が掛っていると言っても過言では無い。
「完全に父親の役目を果たせるかは分からんが、ベストを尽くす事だけは約束しよう。今言える事は其れだけだ」
「ああ、充分だよ。その言葉を最後に聞けて安心した、、、じゃあそろそろ帰るよ」
ルチアーノはライオネルの言葉を受けて嬉しそうに笑い、背中を向けて帰ろうとした。
互いに多くの部下を待たせている状況だ、余り長居をしてしまうと不審がられてしまう可能性が有る。
「そうだな、、、だが最後に一言」
「ん?」
ライオネルの言葉にルチアーノは振り向いた。
「最低でも息子に殺されるまでは、何としてでも生き残れよ」
その言葉はルチアーノの身を本気で案じている言葉であった。
ライオネルは対マフィア組織のトップである、レヴィアスファミリーを取り巻く雲行きが色々と怪しく成り始めている事を知っているのだろう。
「大丈夫だよ、俺を誰だと思ってんだッ」
ルチアーノは話の間鳴りを潜めていた威風を解放し、凶暴で視線だけで弱者の心臓を止める笑顔を見せ付けた。
その表情は自信に満ち溢れていて、ライオネルに嘗ての鬼神の如き姿が思い出される。
「フッ、そうだな。貴様の強さはワシが一番知っとるわッ!!」
ライオネルも自らの不安を笑い飛ばし、彼もルチアーノと双璧を成す最強としての威風を解き放つ。
二人の威風がぶつかり合い空間が揺れ始めた。
「10月4日の正午に87区の緩衝地帯で待っているッ!! 其処に信頼出来る部下に任せてディーノを連れてこい!! お前は安心して息子が成長し殺しに来る瞬間を待てッ必ず一人前の男にディーノを育て上げる事を約束するッ!!」
「アアッ! 頼んだぞライオネル!! 次会う時は互いにあの世だろうな」
「ハハッ、違いない!! 精々あの世で酒の肴に困らぬよう全力で生きようではないか!」
二人は互いに両足を折りたたみ、力を貯める。
「「ではッ、さらばだ!!」」
ルチアーノとライオネルが同時に地面を蹴り付け、重力を突き破って飛翔して互いの部下達が待っている本陣に帰還する。
互いに人生最大の友人にもう二度と会えない事に寂しさを感じながら、其れでも確固たる覚悟で振り返ること無く空を舞ったのだった。
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【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました
髙橋ルイ
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「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」
気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。
しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。
「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。
だが……一人きりになったとき、俺は気づく。
唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。
出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。
雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。
これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。
裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか――
運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。
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期間限定で10時と17時と21時も投稿予定
※表紙のイラストはAIによるイメージです
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独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
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