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第42話 屍の上を歩く
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「……行くしか無い、行くしか無いんだよッ」
トムハットは自分の両足を叩いて、震えを無類やり止める。
全神経が『この先に行くのは危険だ、引き返せ』と警告を脳に送ってくるが、その警告を無視して前に進まなくてはならない。
(コイツは……ディーノを殺しに来てたピエロと姿がまるっきり同じだな。しかし何故コレだけ全く同じ姿の人間が存在する? しかも何故、この場所に敵方の死体が転がっている?)
異様過ぎる景色に何処を見ても『何故』が湧いてくる。
しかしその全てを一々考えていても埒が空かないし、答えが与えられる訳でも無いので全ての情報を無視する事に決めた。
「ディーノ、大丈夫か? 何なら私がおぶってやるから、目を瞑ってても良いんだぞ」
トムハットは自分の震えを止めた後、しゃがんでディーノと同じ目線に成りながら話し掛けた。
覗き込んだディーノの瞳は恐怖で小刻みに揺れていた。
しかし……
「大丈夫、ちゃんと一人で歩けるッ」
震えているが力強い声でそう宣言し、最後に歯を食い縛っているかの様な表情を見せた。
恐らく途轍もない恐怖を感じているのだろうが、父の為に逃げ延びるという覚悟で打ち勝って見せたのだ。
その成長した姿にトムハットは涙が出そうになり、恥ずかしい事に勇気まで貰ってしまった。
「ハハッ、そうかそうか……」
トムハットは嬉しそうに何度も頷き、其れからディーノと手を繋いで歩き始める。
水路の殆どをピエロの死体が埋め尽くしており、一々どかしながら進む訳にもいかないので死体の上を歩いて進む事となった。
死体は想像以上にブヨブヨしており、踏んだときの圧力で血液が噴き出したり体内に溜まっていたガスが吹き出る音がする。
そしてその度にディーノは小さな悲鳴を上げた。
(この場所で一帯何人死んだんだ……血の匂いがじゅうまんしていて頭痛と吐き気がするッ)
無数の死体と血の匂いによって気分が悪くなり、一言も言葉を発さなくなった。
言葉を発する為に口を開けば、この空間の空気が流れ込んできてほぼ確実に夕食を戻してしまうからだ。
ディーノは覚束ない足下でふらふらに成りながらも何とか前に進んでいたのだが、突然足に何かが引っ掛かり転ぶ。
そして何かが自分の右足に絡まったのだろうと思い、その何かを外そうと視線を足下に落とした。
其処で目にしたモノは……
「痛いンッ……痛いンゴッ……」
下半身を切断された状態でニヤニヤと笑顔を浮かべながら、ディーノの右足をガッシリと掴むチャムラップの姿であった。
「うッ、うわあぁぁぁぁぁぁッ!!」
ディーノはホラー映画のワンシーンの様な光景に顎が外れそうになる程絶叫する。
下半身を切断されて血を流しながら、そして『痛い』と言いながら自分の右足を笑いながら掴んでくるピエロが心底気持ち悪かったのだ。
「ディーノッ!? 待ってろッ今助けるぞ!!」
ディーノの異変を察したトムハットが慌てて駆け寄り、足を掴んでいたピエロの顔を何度も本気で蹴り付けた。
すると大分弱っていた様で、すんなり足を手放しピクリとも動かなくなる。
どうやら完全に絶命した様だ。
「ハアッハアッ……未だ死んでない奴もいるのか?? クソッどう成ってんだ!!」
トムハットは全力の蹴りを連続で叩き込み乱れた呼吸のまま、この異様で不気味な状況への怒りを口に表した。
もし未だ生きているピエロがいるのなら、地面に転がっている死体の一つ一つを警戒しながら進まなくてはならない。
そして血走った視線で周囲を見回した後、漸く死体の上で放心状態になっているディーノに視線を移した。
「ディーノ、大丈夫か?」
「う、うんッ……大丈夫」
トムハットの質問にディーノは真っ青な顔で大丈夫だと言った。
どう見ても大丈夫な訳が無い、顔は血の気が引いて全身を恐怖でブルブルと震わせながら何とか立ち上がろうとしている。
しかし腰が抜けてしまったのか、足腰が言うことを聞かず立ち上がれない。
「もう大丈夫だディーノ、よく頑張ったな。後は私がおぶってやるから、背中で休んでろ」
トムハットはこれ以上歩かせるのは不可能だと判断し、しゃがみながら背中を向ける。
最初は其れでも自分の足で歩こうとしていたディーノであったが、一向に震えが収まらず諦めてトムハットの首に両手を回した。
しっかりとディーノが捕まった事を確認し、ゆっくり立ち上がって再び歩き出す。
(どの死体がまだ生きているのか分からない、、、地面に転がっている死体一つ一つに警戒しながら進まなくてはッ)
トムハットは地面に転がっている死体一つ一つに視線を落し、極力傷が浅そうな死体や綺麗な死体は避けて通った。
しかし注意して見れば見る程全ての個体が生きているかの様に感じ、今にも起き上がって襲い掛かられそうである。
(来るなら来い……ッ!! 何が何でもディーノだけは守りきる、この子はファミリーに残った最後の希望だッ!!)
トムハットは何度も恐怖に負けて足を止めそうになるが、その度に背中で震えている少年を意識して心を建て直しながら一歩ずつ歩みを進めていく。
ファミリーにとって最も死んでは成らない存在、其れはルチアーノでは無くディーノだ。
ディーノがいれば血縁は続くし、未来と才能に溢れるこの子だけがレヴィアスファミリーと表社会の架け橋となる可能性を秘めた存在なのである。
自分の身が如何成ろうとも、この子だけは守り抜く。
しかしトムハットの覚悟とは裏腹に何事も無く水路の半分まで到達した。
途中で何体かまだ息のある者もいたが、苦しそうに息を吹き出しながら狂言を吐き出すのみで全くの無害であった。
良く良く見てみると、殆どのピエロが胸に深い傷があって入念にトドメを刺されたようである。
そうなると少し安心して、頭を回す余裕が生まれ始めた。
(コレだけの人間をどうやって殺したのだろう……傷から見ればどうやら重火器では無く刃物で斬り殺されたようだが。だとすればかなりの腕前だぞ)
接近戦で数百人の敵を前にして勝利する事は不可能に近い。
人間を一、二人斬れば確実に刃こぼれを起こすし、十人も斬ればそもそも刀自体が折れる。
複数人でこの地獄絵図を生み出したと想像する事もできるが、少なくともこの死体の半数くらいの人数は必要になってくるだろう。
其れだけの大人数がこの地下水道で行動すれば音が反響して自分達の耳に届いている筈だ。
しかしそんな音は全く聞こえていない。
(となると一人、若しくはごく少数の人間がコレだけのピエロを殺した事に成る。凄まじい腕前だッ)
この大量殺人を犯した人物は確実に『則』を操っているだろう、もしかすると『則獣』の力を用いた可能性も有る。
ほぼ確実にマフィアファミリーの幹部クラス、VCFの大佐クラスの実力を持った人物だ。
(しかしこの場所は一部の人間しか知らない筈、何故コレだけの敵に侵入されている? そして何故このピエロ達は殺されたんだ……)
考えても考えても脳内にはクエスチョンマークしか浮かんで来ない。
(何故レヴィアスファミリーの首都であるこの場所まで侵入されている? しかも何故ボスの警護が手薄になる今日を狙った様に現われた? 分からない事が多すぎるッ)
結局幾ら考えても答えは出ず、気付けば水路も終盤に差し掛かっていた。
あと数十メートル歩けば梯子が現われ、その梯子から上層に上がれば好きなマンホールのフタから自由に外へ出られる。
「ディーノ、後もう少しだぞ」
「本当?」
「ああ、もう9割近く歩き終えた。もう少しで梯子が見えてくるから、其れを登ればこんな血生臭い所とはおさらばッ……」
トムハットが震え続けるディーノを励まそうとしたとき、突如後方から何か重い物が落下して地面に落ちる音する。
そして突如バシャバシャバシャッという血溜まりを踏み抜く音が反響しながら、凄まじい速度で迫ってきたのだった。
トムハットは自分の両足を叩いて、震えを無類やり止める。
全神経が『この先に行くのは危険だ、引き返せ』と警告を脳に送ってくるが、その警告を無視して前に進まなくてはならない。
(コイツは……ディーノを殺しに来てたピエロと姿がまるっきり同じだな。しかし何故コレだけ全く同じ姿の人間が存在する? しかも何故、この場所に敵方の死体が転がっている?)
異様過ぎる景色に何処を見ても『何故』が湧いてくる。
しかしその全てを一々考えていても埒が空かないし、答えが与えられる訳でも無いので全ての情報を無視する事に決めた。
「ディーノ、大丈夫か? 何なら私がおぶってやるから、目を瞑ってても良いんだぞ」
トムハットは自分の震えを止めた後、しゃがんでディーノと同じ目線に成りながら話し掛けた。
覗き込んだディーノの瞳は恐怖で小刻みに揺れていた。
しかし……
「大丈夫、ちゃんと一人で歩けるッ」
震えているが力強い声でそう宣言し、最後に歯を食い縛っているかの様な表情を見せた。
恐らく途轍もない恐怖を感じているのだろうが、父の為に逃げ延びるという覚悟で打ち勝って見せたのだ。
その成長した姿にトムハットは涙が出そうになり、恥ずかしい事に勇気まで貰ってしまった。
「ハハッ、そうかそうか……」
トムハットは嬉しそうに何度も頷き、其れからディーノと手を繋いで歩き始める。
水路の殆どをピエロの死体が埋め尽くしており、一々どかしながら進む訳にもいかないので死体の上を歩いて進む事となった。
死体は想像以上にブヨブヨしており、踏んだときの圧力で血液が噴き出したり体内に溜まっていたガスが吹き出る音がする。
そしてその度にディーノは小さな悲鳴を上げた。
(この場所で一帯何人死んだんだ……血の匂いがじゅうまんしていて頭痛と吐き気がするッ)
無数の死体と血の匂いによって気分が悪くなり、一言も言葉を発さなくなった。
言葉を発する為に口を開けば、この空間の空気が流れ込んできてほぼ確実に夕食を戻してしまうからだ。
ディーノは覚束ない足下でふらふらに成りながらも何とか前に進んでいたのだが、突然足に何かが引っ掛かり転ぶ。
そして何かが自分の右足に絡まったのだろうと思い、その何かを外そうと視線を足下に落とした。
其処で目にしたモノは……
「痛いンッ……痛いンゴッ……」
下半身を切断された状態でニヤニヤと笑顔を浮かべながら、ディーノの右足をガッシリと掴むチャムラップの姿であった。
「うッ、うわあぁぁぁぁぁぁッ!!」
ディーノはホラー映画のワンシーンの様な光景に顎が外れそうになる程絶叫する。
下半身を切断されて血を流しながら、そして『痛い』と言いながら自分の右足を笑いながら掴んでくるピエロが心底気持ち悪かったのだ。
「ディーノッ!? 待ってろッ今助けるぞ!!」
ディーノの異変を察したトムハットが慌てて駆け寄り、足を掴んでいたピエロの顔を何度も本気で蹴り付けた。
すると大分弱っていた様で、すんなり足を手放しピクリとも動かなくなる。
どうやら完全に絶命した様だ。
「ハアッハアッ……未だ死んでない奴もいるのか?? クソッどう成ってんだ!!」
トムハットは全力の蹴りを連続で叩き込み乱れた呼吸のまま、この異様で不気味な状況への怒りを口に表した。
もし未だ生きているピエロがいるのなら、地面に転がっている死体の一つ一つを警戒しながら進まなくてはならない。
そして血走った視線で周囲を見回した後、漸く死体の上で放心状態になっているディーノに視線を移した。
「ディーノ、大丈夫か?」
「う、うんッ……大丈夫」
トムハットの質問にディーノは真っ青な顔で大丈夫だと言った。
どう見ても大丈夫な訳が無い、顔は血の気が引いて全身を恐怖でブルブルと震わせながら何とか立ち上がろうとしている。
しかし腰が抜けてしまったのか、足腰が言うことを聞かず立ち上がれない。
「もう大丈夫だディーノ、よく頑張ったな。後は私がおぶってやるから、背中で休んでろ」
トムハットはこれ以上歩かせるのは不可能だと判断し、しゃがみながら背中を向ける。
最初は其れでも自分の足で歩こうとしていたディーノであったが、一向に震えが収まらず諦めてトムハットの首に両手を回した。
しっかりとディーノが捕まった事を確認し、ゆっくり立ち上がって再び歩き出す。
(どの死体がまだ生きているのか分からない、、、地面に転がっている死体一つ一つに警戒しながら進まなくてはッ)
トムハットは地面に転がっている死体一つ一つに視線を落し、極力傷が浅そうな死体や綺麗な死体は避けて通った。
しかし注意して見れば見る程全ての個体が生きているかの様に感じ、今にも起き上がって襲い掛かられそうである。
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ディーノがいれば血縁は続くし、未来と才能に溢れるこの子だけがレヴィアスファミリーと表社会の架け橋となる可能性を秘めた存在なのである。
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ほぼ確実にマフィアファミリーの幹部クラス、VCFの大佐クラスの実力を持った人物だ。
(しかしこの場所は一部の人間しか知らない筈、何故コレだけの敵に侵入されている? そして何故このピエロ達は殺されたんだ……)
考えても考えても脳内にはクエスチョンマークしか浮かんで来ない。
(何故レヴィアスファミリーの首都であるこの場所まで侵入されている? しかも何故ボスの警護が手薄になる今日を狙った様に現われた? 分からない事が多すぎるッ)
結局幾ら考えても答えは出ず、気付けば水路も終盤に差し掛かっていた。
あと数十メートル歩けば梯子が現われ、その梯子から上層に上がれば好きなマンホールのフタから自由に外へ出られる。
「ディーノ、後もう少しだぞ」
「本当?」
「ああ、もう9割近く歩き終えた。もう少しで梯子が見えてくるから、其れを登ればこんな血生臭い所とはおさらばッ……」
トムハットが震え続けるディーノを励まそうとしたとき、突如後方から何か重い物が落下して地面に落ちる音する。
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