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第45話 ヒーローと肩を並べる
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トムハットが柵を乗り越えようとした瞬間、凄まじい衝撃が走ってビル全体が揺れた。
突然の衝撃によって自殺を止められコンクリートの床で頭を打ったトムハットは、何かを訴えるかの様に強く脈打つ心臓の鼓動を感じる。
そして謎の義務感とワクワクにに引き摺られ、衝撃の正体を探る為に下の階へ降りていった。
世界が今この瞬間代わり始める、そんな根拠の無い予感がしたのだ。
電源が落とされてエレベーターが使えなかったので、恥も外聞もなく階段を一段飛ばしで駆け下りて衝撃の発生源を目指す。
何度も階段を踏み外して転げ落ちるが、全身血まみれで服が破けても走り続ける。
途中何度も警備員の男達に止められそうになったが殴り飛ばしてでも走り続けた。
久し振りに掻いた汗と自分を包み込んで駆け抜けて行く風が気持ちよく、止まる事など脳の片隅にすら無かったのだ。
そして遂に、遂に出会ったのである。
その場所は爆発か何かによって外壁の右半分が吹飛ばされ、外から入り込んだ日差しが地面に散らばったガラズで反射して眩しく輝いていた。
地面には気絶させられている警備員達が転がり、数人の男達が会社の金庫から金と貴重な情報を運び出しまがら豪快に笑っている。
何もかもメチャクチャで物も人も乱雑に転がされ荒れ放題の光景にも関わらず、神秘的な美しさを感じ取って身体が震え始めた。
自分を長い間縛り首の様に苦しめ続けた『権力への畏怖』や『規則への遵守』、そして『財力への服従』など欠片も無い。
有るのは何物にも縛られない絶対的で力強い自由だけ。
「凄い……コレこそ私が求めていたものだッ」
トムハットは余りの衝撃と感動に力が抜け、膝にガラスの破片が突き刺さるのも気にせず座り込んだ。
強烈なダウナー系ドラッグを決めたような脱力感を今でも覚えている。
そんな朦朧とした目で自分達を眺めているトムハットに一人の男が気付き、『眠らせときますか?』と言いながら近づいてくる。
そして腕が振り上げられ顔面に拳が飛ぶ寸前、声が響いた。
『止めとけ、敵じゃねえよ。良い眼をしている……きっとコッチの人間だ』
コレがルチアーノとトムハットの出会い。
黙々と作業を続けて奪った荷物を車に放り込む様子をトムハットは羨望の眼差しで食い入る様に眺め、何か叫びたい衝動に駆られた。
しかし、自分のモヤモヤと感動を同時に言い表せる言葉が思い浮かばず「あ、あぁ…」という音が漏れるだけ。
そうこうしている間に気付けば作業は終わり、男達は車に乗り込んで脱出しようとしていた。
するとリーダーらしき男、ルチアーノが薄笑いを浮かべながら近づいてきて話し掛けてくる。
『お前、俺達に憧れてんだろ? 乗れよ、トラックの荷台しか空いてないがアジトに着くまで生きてたら仲間にいれてやるよ』
そう言ってトラックの荷台を明けて手招きされた。
普通は会社の金庫を襲撃した犯人に付いていくなど正気の沙汰では無い、しかしトムハットは迷い無くその荷台に飛び込んだのである。
恐らく安定も安全も無く、有るのは絶対的な自由と退屈しない保証だけ。
其れだけで誰もが憧れる巨万の富と『ランプス家』の肩書きを捨てて、醜い底辺マフィアに身を落とすには充分過ぎる理由であった。
「トムハット~ッ!! 落ちてた長い棒を見つけてきたよ~ッ!!」
少年の活力に溢れて澄み切った高音に、老人の回顧は遮られた。
ディーノが何か移動の支えとなる棒状の物を見つけてきたらしい、想像の何倍も早い帰還だ。
「ああ、ディーノ。助かった……」
トムハットは身体を起こしてディーノが運んできてくれた金属製のパイプを見る。
嘗てこの水路を作ったときに使われたものなのか、殆ど錆びておらず真っ直ぐでへこみも無い見事な杖代わりであった。
「済まないッ、少し手を貸してくれ……」
「うん」
トムハットはディーノの手を借りて何とか立ち上がり、鉄パイプに体重を掛ける。
腱を噛み千切られた右足は体重を掛けると激痛が発生するので、左足一本でケンケンをする様にしながら少しの距離を移動した。
「ああ、何とか移動くらいなら出来そうだッ……。移動を再開しようディーノ、あと少しで外に出られる筈だ」
そう言ってトムハットはゆっくり前に進んだ。
金属製のパイプを地面に突き立てた時のカツーンッカツーンッという音が無音の地下水路に響く。
「大丈夫、トムハット? 肩貸そうか??」
「大丈夫だよ、片足が使えなくなった位如何という事は無い。第一私とお前では身長が違いすぎて肩の貸しようが無いだろ? おチビさん??」
「そうだけど……」
ディーノが心配して掛けてくれた言葉にトムハットは笑顔で応じ、冗談を言いながら頭を撫でる。
しかしディーノは浮かない顔でトムハットの顔を見上げていて、若しかすると自分を背負っていたせいで逃げ遅れたと思っているのだろうか?
「そんな顔をしないでくれ……お前のお陰で私はアノ腕無しピエロから逃げ切れたんだ。さっき教えただろ? 後ろに守るべき人がいるから限界を超えられるってなッ」
「そっか。じゃあトムハットもパパと同じ、ヒーローだね!!」
完全に陰りが消えたわけでは無いが、少し明るさが戻った表情でディーノが言った。
しかしその言葉に少し居心地の悪さを覚える。
「其処まで言わせるつもりは無かったんだが、ボスと同列に並ぶのは余りにも……」
ディーノの中でルチアーノと同じ『ヒーロー』の称号を貰えたことは大変嬉しくもあったが、それ以上に恐れ多かった。
トムハットの中では出会ったアノ時以来、ルチアーノは彼の中でもヒーローなのだ。
まさか自分が小さな少年の中でとは言え、ルチアーノと並び称される程の賞賛を受ける日が来るとは思いもしなかったのである。
「何も変わらないよ、パパもトムハットもどっちもヒーロー!! だって僕を守ってくれたもん!!」
「ディーノ……」
お世辞でも何でも無く自分が思った事をそのまま言葉として吐き出している様な発言と、曇り一つ無い視線に言葉が詰まる。
そして何と返答すれば良いのか分からない程戸惑ってしまった。
ヒーローなら、ルチアーノならばこの様な眩しい視線を向けられた時にどの様な発言と行動を取るのだろうか?
「……さあ、行くぞッ」
トムハットは結局どのような表情すれば良いのか分からず、顔を赤く染めながら歩き始めた。
その不自然な反応をディーノは不思議がって顔を覗き込む。
そして真っ赤に染まった顔と若干涙ぐんだ顔を見て何かを理解し、一緒に歩き始める。
「フフッ……」
ディーノの小さな笑い声を残し、二人は外の世界へ向けて前を向いたのだった。
突然の衝撃によって自殺を止められコンクリートの床で頭を打ったトムハットは、何かを訴えるかの様に強く脈打つ心臓の鼓動を感じる。
そして謎の義務感とワクワクにに引き摺られ、衝撃の正体を探る為に下の階へ降りていった。
世界が今この瞬間代わり始める、そんな根拠の無い予感がしたのだ。
電源が落とされてエレベーターが使えなかったので、恥も外聞もなく階段を一段飛ばしで駆け下りて衝撃の発生源を目指す。
何度も階段を踏み外して転げ落ちるが、全身血まみれで服が破けても走り続ける。
途中何度も警備員の男達に止められそうになったが殴り飛ばしてでも走り続けた。
久し振りに掻いた汗と自分を包み込んで駆け抜けて行く風が気持ちよく、止まる事など脳の片隅にすら無かったのだ。
そして遂に、遂に出会ったのである。
その場所は爆発か何かによって外壁の右半分が吹飛ばされ、外から入り込んだ日差しが地面に散らばったガラズで反射して眩しく輝いていた。
地面には気絶させられている警備員達が転がり、数人の男達が会社の金庫から金と貴重な情報を運び出しまがら豪快に笑っている。
何もかもメチャクチャで物も人も乱雑に転がされ荒れ放題の光景にも関わらず、神秘的な美しさを感じ取って身体が震え始めた。
自分を長い間縛り首の様に苦しめ続けた『権力への畏怖』や『規則への遵守』、そして『財力への服従』など欠片も無い。
有るのは何物にも縛られない絶対的で力強い自由だけ。
「凄い……コレこそ私が求めていたものだッ」
トムハットは余りの衝撃と感動に力が抜け、膝にガラスの破片が突き刺さるのも気にせず座り込んだ。
強烈なダウナー系ドラッグを決めたような脱力感を今でも覚えている。
そんな朦朧とした目で自分達を眺めているトムハットに一人の男が気付き、『眠らせときますか?』と言いながら近づいてくる。
そして腕が振り上げられ顔面に拳が飛ぶ寸前、声が響いた。
『止めとけ、敵じゃねえよ。良い眼をしている……きっとコッチの人間だ』
コレがルチアーノとトムハットの出会い。
黙々と作業を続けて奪った荷物を車に放り込む様子をトムハットは羨望の眼差しで食い入る様に眺め、何か叫びたい衝動に駆られた。
しかし、自分のモヤモヤと感動を同時に言い表せる言葉が思い浮かばず「あ、あぁ…」という音が漏れるだけ。
そうこうしている間に気付けば作業は終わり、男達は車に乗り込んで脱出しようとしていた。
するとリーダーらしき男、ルチアーノが薄笑いを浮かべながら近づいてきて話し掛けてくる。
『お前、俺達に憧れてんだろ? 乗れよ、トラックの荷台しか空いてないがアジトに着くまで生きてたら仲間にいれてやるよ』
そう言ってトラックの荷台を明けて手招きされた。
普通は会社の金庫を襲撃した犯人に付いていくなど正気の沙汰では無い、しかしトムハットは迷い無くその荷台に飛び込んだのである。
恐らく安定も安全も無く、有るのは絶対的な自由と退屈しない保証だけ。
其れだけで誰もが憧れる巨万の富と『ランプス家』の肩書きを捨てて、醜い底辺マフィアに身を落とすには充分過ぎる理由であった。
「トムハット~ッ!! 落ちてた長い棒を見つけてきたよ~ッ!!」
少年の活力に溢れて澄み切った高音に、老人の回顧は遮られた。
ディーノが何か移動の支えとなる棒状の物を見つけてきたらしい、想像の何倍も早い帰還だ。
「ああ、ディーノ。助かった……」
トムハットは身体を起こしてディーノが運んできてくれた金属製のパイプを見る。
嘗てこの水路を作ったときに使われたものなのか、殆ど錆びておらず真っ直ぐでへこみも無い見事な杖代わりであった。
「済まないッ、少し手を貸してくれ……」
「うん」
トムハットはディーノの手を借りて何とか立ち上がり、鉄パイプに体重を掛ける。
腱を噛み千切られた右足は体重を掛けると激痛が発生するので、左足一本でケンケンをする様にしながら少しの距離を移動した。
「ああ、何とか移動くらいなら出来そうだッ……。移動を再開しようディーノ、あと少しで外に出られる筈だ」
そう言ってトムハットはゆっくり前に進んだ。
金属製のパイプを地面に突き立てた時のカツーンッカツーンッという音が無音の地下水路に響く。
「大丈夫、トムハット? 肩貸そうか??」
「大丈夫だよ、片足が使えなくなった位如何という事は無い。第一私とお前では身長が違いすぎて肩の貸しようが無いだろ? おチビさん??」
「そうだけど……」
ディーノが心配して掛けてくれた言葉にトムハットは笑顔で応じ、冗談を言いながら頭を撫でる。
しかしディーノは浮かない顔でトムハットの顔を見上げていて、若しかすると自分を背負っていたせいで逃げ遅れたと思っているのだろうか?
「そんな顔をしないでくれ……お前のお陰で私はアノ腕無しピエロから逃げ切れたんだ。さっき教えただろ? 後ろに守るべき人がいるから限界を超えられるってなッ」
「そっか。じゃあトムハットもパパと同じ、ヒーローだね!!」
完全に陰りが消えたわけでは無いが、少し明るさが戻った表情でディーノが言った。
しかしその言葉に少し居心地の悪さを覚える。
「其処まで言わせるつもりは無かったんだが、ボスと同列に並ぶのは余りにも……」
ディーノの中でルチアーノと同じ『ヒーロー』の称号を貰えたことは大変嬉しくもあったが、それ以上に恐れ多かった。
トムハットの中では出会ったアノ時以来、ルチアーノは彼の中でもヒーローなのだ。
まさか自分が小さな少年の中でとは言え、ルチアーノと並び称される程の賞賛を受ける日が来るとは思いもしなかったのである。
「何も変わらないよ、パパもトムハットもどっちもヒーロー!! だって僕を守ってくれたもん!!」
「ディーノ……」
お世辞でも何でも無く自分が思った事をそのまま言葉として吐き出している様な発言と、曇り一つ無い視線に言葉が詰まる。
そして何と返答すれば良いのか分からない程戸惑ってしまった。
ヒーローなら、ルチアーノならばこの様な眩しい視線を向けられた時にどの様な発言と行動を取るのだろうか?
「……さあ、行くぞッ」
トムハットは結局どのような表情すれば良いのか分からず、顔を赤く染めながら歩き始めた。
その不自然な反応をディーノは不思議がって顔を覗き込む。
そして真っ赤に染まった顔と若干涙ぐんだ顔を見て何かを理解し、一緒に歩き始める。
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