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第52話 側に居る
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その考えは全く忌避感も無く、最も確実な案としてトムハットの中に立ち上がった。
もう既に自分が生きて帰る事など眼中に無かった為、ディーノが助かるならばそれ以外の全てを差し出す事に迷いは無かったのである。
そしてトムハットは折れて既に刃渡りが半分しかないナイフを掲げ、極力敵意剥き出しに見える表情を作り背後の兵士を振り返る。
その血走った目と掲げたナイフを前にして、どうやら相手の兵士は優秀だったようで即座に引き金に指を掛けた。
トムハットは兵士の素早い判断に心からの感謝を捧げた。
そして弾丸が発射されるまでの僅か0,01秒の間に走馬灯が駆け巡り、地下でディーノに中断させられた追憶を再開する。
ルチアーノに気に入られてレヴィアスファミリーに加入したトムハットであったが、戦闘や諜報の才能は全くと言っていい程なかった。
そして他メンバーの足を引っ張るという理由で戦闘員としての居場所を奪われ、数少ない表社会出身の知識人というスキルを生かして若いメンバーや子供達の教育に充てられたのである。
始めは不服であったが、慣れれば案外教師としての仕事も楽しかった。
裏社会も表社会も子供の本質は変わらない、皆一様に未来に対する希望と無限の可能性を秘めており愛情に溢れている。
だが問題や心の傷を抱える子も多くいて、その子達の為に東奔西走する日々は充実していた。
(だが、その日々が何時しか悲しみと苦しみに変わる。本物の愛情を注げば注ぐ程失った時の悲しみは深くなる……)
トムハットが育てた子供達もやがて大人に成り、皆マフィアの兵士として戦場に赴き死んでいった。
子供達から届く感謝と近況報告の手紙が、気が付けば死亡通知の手紙に変化していた悲しみは形容しがたい。
瞼を閉じれば明るく笑った顔が浮かぶあの少年が、誰よりも賢く自分の授業を楽しんで聞いてくれたあの少年が、先生を強く成って守ってあげると笑っていた少年が今のこの瞬間既に世界の何処を探しても存在しない。
にも関わらず自分はのうのうと歳を取り、子供達を育て上げて地獄の戦場へ送り出し続けている。
その事実に耐えられなかった。
(あの世の子供達には何と話掛ければ良いのだろう? いや、そもそもあの世など存在しないのだろうな。死に意味など無いのだから……)
眠れない夜が続き、毎晩今日死んだ子供達の『死んだ意味』について考えた。
しかし何も思い付かないのである。
大勢の子供達が亡くなったが戦争は無くなっていない、飢えに苦しむ子供は減らない、不幸な人間だけが増えて幸福な人間だけが減っていく。
そして同時に自分の行いの意味を見出さなく成っていった。
(段々と自分の行いに胸が張れなく成った。叶えられない夢を見させ、其れを利用し戦場へ向かわせる自分が悪魔の様に思えたんだ)
その後休暇を利用して尋ねた教え子達が突発的に発生した戦闘から自分を守って殺されるという体験をしたトムハットは、正式に教師としての仕事を降りたのだった。
(そんな時、ボスが本当に幼かったディーノを連れて私の前に現われたッ)
その光景は今でも鮮明に覚えている。
まだ言葉を覚えたばかりでヨチヨチ歩きのディーノの手を引き現われたルチアーノが、勉強と生活の面倒を見ろと言ってきたのだった。
その当時はもっと武芸に精通した適任者がいると思ったが、今なら何故ルチアーノが自分にディーノを預けたのかがハッキリと分かる。
(始めは暇つぶしと母を殺されたディーノへの同情で始めた仕事だったが、気付けば私の生きる意味になっていた)
ディーノは有りとあらゆる才能に溢れ、何よりも人を無意識に動かせる不思議な空気感を持った子供であった。
顔が良いとか声が良いとかそういう問題では無い、何故か常に目が留まり、行動が気になってしまい、助けて上げたいと思わせる不思議な力があるのだ。
直ぐに分かった、この子は特別な人間であると。
(あの子のお陰で私は答えを得たんだ、凡人数万人の死に意味を与えるのは死後のたった一人の天才であると。死そのものには意味が無い、意味を持たせるのは後々の人間であると)
その答えに行き着いてからトムハットは全ての時間をディーノに捧げた。
この子がこの混沌とした時代で息絶えた人間全員の死に意味を与えられる程の偉業を成す人間であると信じたのだ。
しかし年月が経つに連れてそんな事などどうでも良くなっていた。
(ディーノ、俺はお前と過ごしたこの数年間は人生最高の数年間だ。お前が私を必要としてくれた事が嬉しかった、めきめき成長していくお前の姿が好きだった。誰よりも優しく賢く才能に溢れて無邪気に笑うお前を見ていると、死んでいった子供達が結集して生まれ変わった様に感じたんだ……)
弾丸がトムハットの身体を貫いていく。
凄まじい衝撃が幾つも身体の中を通り過ぎ、身体が持っていたエネルギーをゴッソリと持って行かれて膝から崩れ落ちた。
(あぁ、こうやって死ぬのか…。生まれた意味も分からない詰まらない人生だと思っていたが、こうして振り返えると愛に溢れた良い人生だったな。人に愛され人を愛する事ができた人生とは何と素晴らしい事か…)
自らの死を受け入れて瞳を閉じ、最後の眠りに付こうとしたその時、奥に見える運河にボートの上から此方を見ているディーノを発見した。
その瞬間熱もエネルギーも消え去った身体の奥から僅かな力が湧いてきて、その絞りかすの様な力を振り絞りトムハットは叫んだ。
「振り返るなッ!! 前をッ向けェェ!! 私は常にッお前の側に居るッ!!!!」
そう叫んだ瞬間背後にあったタンクが着弾に寄って爆発し、トムハットの身体は灼熱の炎に包まれて消えた。
凄まじい轟音と衝撃波によって辺りは騒然と成り、巡回や警備などを行っていた兵士全ての注意を爆発現場一点に集めることに成功してトムハットの目的は達成されたのである。
その後燃えさかる炎の中から一つの赤い球が抜け出し、ディーノの乗った船の後を追いかけていったのだった。
もう既に自分が生きて帰る事など眼中に無かった為、ディーノが助かるならばそれ以外の全てを差し出す事に迷いは無かったのである。
そしてトムハットは折れて既に刃渡りが半分しかないナイフを掲げ、極力敵意剥き出しに見える表情を作り背後の兵士を振り返る。
その血走った目と掲げたナイフを前にして、どうやら相手の兵士は優秀だったようで即座に引き金に指を掛けた。
トムハットは兵士の素早い判断に心からの感謝を捧げた。
そして弾丸が発射されるまでの僅か0,01秒の間に走馬灯が駆け巡り、地下でディーノに中断させられた追憶を再開する。
ルチアーノに気に入られてレヴィアスファミリーに加入したトムハットであったが、戦闘や諜報の才能は全くと言っていい程なかった。
そして他メンバーの足を引っ張るという理由で戦闘員としての居場所を奪われ、数少ない表社会出身の知識人というスキルを生かして若いメンバーや子供達の教育に充てられたのである。
始めは不服であったが、慣れれば案外教師としての仕事も楽しかった。
裏社会も表社会も子供の本質は変わらない、皆一様に未来に対する希望と無限の可能性を秘めており愛情に溢れている。
だが問題や心の傷を抱える子も多くいて、その子達の為に東奔西走する日々は充実していた。
(だが、その日々が何時しか悲しみと苦しみに変わる。本物の愛情を注げば注ぐ程失った時の悲しみは深くなる……)
トムハットが育てた子供達もやがて大人に成り、皆マフィアの兵士として戦場に赴き死んでいった。
子供達から届く感謝と近況報告の手紙が、気が付けば死亡通知の手紙に変化していた悲しみは形容しがたい。
瞼を閉じれば明るく笑った顔が浮かぶあの少年が、誰よりも賢く自分の授業を楽しんで聞いてくれたあの少年が、先生を強く成って守ってあげると笑っていた少年が今のこの瞬間既に世界の何処を探しても存在しない。
にも関わらず自分はのうのうと歳を取り、子供達を育て上げて地獄の戦場へ送り出し続けている。
その事実に耐えられなかった。
(あの世の子供達には何と話掛ければ良いのだろう? いや、そもそもあの世など存在しないのだろうな。死に意味など無いのだから……)
眠れない夜が続き、毎晩今日死んだ子供達の『死んだ意味』について考えた。
しかし何も思い付かないのである。
大勢の子供達が亡くなったが戦争は無くなっていない、飢えに苦しむ子供は減らない、不幸な人間だけが増えて幸福な人間だけが減っていく。
そして同時に自分の行いの意味を見出さなく成っていった。
(段々と自分の行いに胸が張れなく成った。叶えられない夢を見させ、其れを利用し戦場へ向かわせる自分が悪魔の様に思えたんだ)
その後休暇を利用して尋ねた教え子達が突発的に発生した戦闘から自分を守って殺されるという体験をしたトムハットは、正式に教師としての仕事を降りたのだった。
(そんな時、ボスが本当に幼かったディーノを連れて私の前に現われたッ)
その光景は今でも鮮明に覚えている。
まだ言葉を覚えたばかりでヨチヨチ歩きのディーノの手を引き現われたルチアーノが、勉強と生活の面倒を見ろと言ってきたのだった。
その当時はもっと武芸に精通した適任者がいると思ったが、今なら何故ルチアーノが自分にディーノを預けたのかがハッキリと分かる。
(始めは暇つぶしと母を殺されたディーノへの同情で始めた仕事だったが、気付けば私の生きる意味になっていた)
ディーノは有りとあらゆる才能に溢れ、何よりも人を無意識に動かせる不思議な空気感を持った子供であった。
顔が良いとか声が良いとかそういう問題では無い、何故か常に目が留まり、行動が気になってしまい、助けて上げたいと思わせる不思議な力があるのだ。
直ぐに分かった、この子は特別な人間であると。
(あの子のお陰で私は答えを得たんだ、凡人数万人の死に意味を与えるのは死後のたった一人の天才であると。死そのものには意味が無い、意味を持たせるのは後々の人間であると)
その答えに行き着いてからトムハットは全ての時間をディーノに捧げた。
この子がこの混沌とした時代で息絶えた人間全員の死に意味を与えられる程の偉業を成す人間であると信じたのだ。
しかし年月が経つに連れてそんな事などどうでも良くなっていた。
(ディーノ、俺はお前と過ごしたこの数年間は人生最高の数年間だ。お前が私を必要としてくれた事が嬉しかった、めきめき成長していくお前の姿が好きだった。誰よりも優しく賢く才能に溢れて無邪気に笑うお前を見ていると、死んでいった子供達が結集して生まれ変わった様に感じたんだ……)
弾丸がトムハットの身体を貫いていく。
凄まじい衝撃が幾つも身体の中を通り過ぎ、身体が持っていたエネルギーをゴッソリと持って行かれて膝から崩れ落ちた。
(あぁ、こうやって死ぬのか…。生まれた意味も分からない詰まらない人生だと思っていたが、こうして振り返えると愛に溢れた良い人生だったな。人に愛され人を愛する事ができた人生とは何と素晴らしい事か…)
自らの死を受け入れて瞳を閉じ、最後の眠りに付こうとしたその時、奥に見える運河にボートの上から此方を見ているディーノを発見した。
その瞬間熱もエネルギーも消え去った身体の奥から僅かな力が湧いてきて、その絞りかすの様な力を振り絞りトムハットは叫んだ。
「振り返るなッ!! 前をッ向けェェ!! 私は常にッお前の側に居るッ!!!!」
そう叫んだ瞬間背後にあったタンクが着弾に寄って爆発し、トムハットの身体は灼熱の炎に包まれて消えた。
凄まじい轟音と衝撃波によって辺りは騒然と成り、巡回や警備などを行っていた兵士全ての注意を爆発現場一点に集めることに成功してトムハットの目的は達成されたのである。
その後燃えさかる炎の中から一つの赤い球が抜け出し、ディーノの乗った船の後を追いかけていったのだった。
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