キング・オブ・アウト ~半分が裏社会に呑み込まれた世界で法則の力『則』と法則のを超えた力『則獣』を駆使してマフィアの頂点を目指す!!

NEOki

文字の大きさ
52 / 120

第52話 側に居る

しおりを挟む
 その考えは全く忌避感も無く、最も確実な案としてトムハットの中に立ち上がった。

 もう既に自分が生きて帰る事など眼中に無かった為、ディーノが助かるならばそれ以外の全てを差し出す事に迷いは無かったのである。



 そしてトムハットは折れて既に刃渡りが半分しかないナイフを掲げ、極力敵意剥き出しに見える表情を作り背後の兵士を振り返る。

 その血走った目と掲げたナイフを前にして、どうやら相手の兵士は優秀だったようで即座に引き金に指を掛けた。

 トムハットは兵士の素早い判断に心からの感謝を捧げた。



 そして弾丸が発射されるまでの僅か0,01秒の間に走馬灯が駆け巡り、地下でディーノに中断させられた追憶を再開する。



 ルチアーノに気に入られてレヴィアスファミリーに加入したトムハットであったが、戦闘や諜報の才能は全くと言っていい程なかった。

 そして他メンバーの足を引っ張るという理由で戦闘員としての居場所を奪われ、数少ない表社会出身の知識人というスキルを生かして若いメンバーや子供達の教育に充てられたのである。



 始めは不服であったが、慣れれば案外教師としての仕事も楽しかった。

 裏社会も表社会も子供の本質は変わらない、皆一様に未来に対する希望と無限の可能性を秘めており愛情に溢れている。

 だが問題や心の傷を抱える子も多くいて、その子達の為に東奔西走する日々は充実していた。



(だが、その日々が何時しか悲しみと苦しみに変わる。本物の愛情を注げば注ぐ程失った時の悲しみは深くなる……)



 トムハットが育てた子供達もやがて大人に成り、皆マフィアの兵士として戦場に赴き死んでいった。

 子供達から届く感謝と近況報告の手紙が、気が付けば死亡通知の手紙に変化していた悲しみは形容しがたい。

 瞼を閉じれば明るく笑った顔が浮かぶあの少年が、誰よりも賢く自分の授業を楽しんで聞いてくれたあの少年が、先生を強く成って守ってあげると笑っていた少年が今のこの瞬間既に世界の何処を探しても存在しない。

 にも関わらず自分はのうのうと歳を取り、子供達を育て上げて地獄の戦場へ送り出し続けている。

 その事実に耐えられなかった。



(あの世の子供達には何と話掛ければ良いのだろう? いや、そもそもあの世など存在しないのだろうな。死に意味など無いのだから……)



 眠れない夜が続き、毎晩今日死んだ子供達の『死んだ意味』について考えた。

 しかし何も思い付かないのである。

 大勢の子供達が亡くなったが戦争は無くなっていない、飢えに苦しむ子供は減らない、不幸な人間だけが増えて幸福な人間だけが減っていく。

 そして同時に自分の行いの意味を見出さなく成っていった。



(段々と自分の行いに胸が張れなく成った。叶えられない夢を見させ、其れを利用し戦場へ向かわせる自分が悪魔の様に思えたんだ)



 その後休暇を利用して尋ねた教え子達が突発的に発生した戦闘から自分を守って殺されるという体験をしたトムハットは、正式に教師としての仕事を降りたのだった。



(そんな時、ボスが本当に幼かったディーノを連れて私の前に現われたッ)



 その光景は今でも鮮明に覚えている。

 まだ言葉を覚えたばかりでヨチヨチ歩きのディーノの手を引き現われたルチアーノが、勉強と生活の面倒を見ろと言ってきたのだった。

 その当時はもっと武芸に精通した適任者がいると思ったが、今なら何故ルチアーノが自分にディーノを預けたのかがハッキリと分かる。



(始めは暇つぶしと母を殺されたディーノへの同情で始めた仕事だったが、気付けば私の生きる意味になっていた)



 ディーノは有りとあらゆる才能に溢れ、何よりも人を無意識に動かせる不思議な空気感を持った子供であった。

 顔が良いとか声が良いとかそういう問題では無い、何故か常に目が留まり、行動が気になってしまい、助けて上げたいと思わせる不思議な力があるのだ。

 直ぐに分かった、この子は特別な人間であると。



(あの子のお陰で私は答えを得たんだ、凡人数万人の死に意味を与えるのは死後のたった一人の天才であると。死そのものには意味が無い、意味を持たせるのは後々の人間であると)



 その答えに行き着いてからトムハットは全ての時間をディーノに捧げた。

 この子がこの混沌とした時代で息絶えた人間全員の死に意味を与えられる程の偉業を成す人間であると信じたのだ。

 しかし年月が経つに連れてそんな事などどうでも良くなっていた。



(ディーノ、俺はお前と過ごしたこの数年間は人生最高の数年間だ。お前が私を必要としてくれた事が嬉しかった、めきめき成長していくお前の姿が好きだった。誰よりも優しく賢く才能に溢れて無邪気に笑うお前を見ていると、死んでいった子供達が結集して生まれ変わった様に感じたんだ……)



 弾丸がトムハットの身体を貫いていく。

 凄まじい衝撃が幾つも身体の中を通り過ぎ、身体が持っていたエネルギーをゴッソリと持って行かれて膝から崩れ落ちた。



(あぁ、こうやって死ぬのか…。生まれた意味も分からない詰まらない人生だと思っていたが、こうして振り返えると愛に溢れた良い人生だったな。人に愛され人を愛する事ができた人生とは何と素晴らしい事か…)



 自らの死を受け入れて瞳を閉じ、最後の眠りに付こうとしたその時、奥に見える運河にボートの上から此方を見ているディーノを発見した。

 その瞬間熱もエネルギーも消え去った身体の奥から僅かな力が湧いてきて、その絞りかすの様な力を振り絞りトムハットは叫んだ。



「振り返るなッ!! 前をッ向けェェ!! 私は常にッお前の側に居るッ!!!!」



 そう叫んだ瞬間背後にあったタンクが着弾に寄って爆発し、トムハットの身体は灼熱の炎に包まれて消えた。

 凄まじい轟音と衝撃波によって辺りは騒然と成り、巡回や警備などを行っていた兵士全ての注意を爆発現場一点に集めることに成功してトムハットの目的は達成されたのである。



 その後燃えさかる炎の中から一つの赤い球が抜け出し、ディーノの乗った船の後を追いかけていったのだった。



 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました

髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」 気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。 しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。 「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。 だが……一人きりになったとき、俺は気づく。 唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。 出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。 雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。 これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。 裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか―― 運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。 毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります! 期間限定で10時と17時と21時も投稿予定 ※表紙のイラストはAIによるイメージです

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

処理中です...