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第53話 別れの痛み
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兵士と遭遇という最悪のトラブルを謎の力によって突破したディーノは、運河に浮かべたボートの上で揺られていた。
運河は常に水が流れ続けているので何もせずともゆっくりとノートは流れていく。
(確か、トムハットに静かに身体を屈めてろって言われてたよね……)
ディーノは言いつけを守って身体を屈めて船体の影に隠れる。
そして恐ろしい程静かな深夜の運河の真ん中で此れからの生活に思いを巡らせていた。
(……きっとパパなら大丈夫だよ。パパはとっても強いってオーウェンもディオンも、アンベルトも言ってたもん!! 其れよりも今は自分の事を考えないとッ)
自分ではどうしようも無い父への心配を一端放置し、別のことを考える。
(この街もよく分からないけど大変な事に成っちゃったし、僕も一生懸命修業してパパの助けにならないと。強いパパが強く成れるって言ってる場所なんだから、きっと凄く強く成れるぞ! 寂しいけど、一杯頑張る……)
自分でも甘えた事を言ってはいけないと分かっているが、どうしても口からは『寂しい』という言葉が漏れてしまう。
そして一度漏れ出してしまうと『寂しい』という気持ちが止まらなくなって、頭が其れだけで埋め尽くされてしまった。
(トムハットとも会えないのか……其れが一番嫌だな。パパが居なくても今まではトムハットが居てくれたもんッ。トムハットが居ないと寂しいよ)
もうトムハットとも会えないと考えると途轍もなく悲しくなり、涙が溢れてくる。
物心が付いた時には既にトムハットがずっと側にいてくれた。
お腹が空いておやつが欲しい時、怖い夢を見た時、一緒に遊んで欲しい時、心細い時、意味も無く一緒に居たい時に廊下を駆け抜けて抱きつくことがもう出来ない。
その事実が切なくて仕方が無いのだ。
(ダメだよ泣いちゃ……強く成るって決めたんだ。パパもトムハットも悲しい顔をしていたけど、きっと僕が強く成ったら喜んでくれる筈だから。次パパとトムハットに会ったときに笑ってくれるなら、僕は何だってやる!!)
ディーノの世界は殆どルチアーノとトムハットの二人で完成していて、その二人が全てなのだ。
その二人が悲しい顔をしている事に我慢できず、自分に出来る事ならどれだけ過酷な事であろうとやっあげたいと本気で思っている。
本当に二人の事が大好きだった。
(その為にはしっかりと逃げ切って、僕の師匠に成ってくれる人の元まで辿り着かないと!)
ディーノは自分が今やるべき事を再確認し、爆発が発生するその時を待って身体を屈める。
しかし幾ら待っても爆発の音は聞こえず混乱が発生している気配も感じない。
其処でディーノは顔を少し上げ、周囲の情報を確認しようと辺りを見回してしまったのである。
(えッ、何でッ……トムハットッ!?)
其処でディーノが見た光景は余りに残酷であった。
ディーノが顔を上げ岸の方を見て目に飛び込んできたのは、明かりで照らされたタンクの前でトムハットが弾丸で打ち抜かれている光景であった。
自分が見ている光景の意味を理解した瞬間、全身が凄まじい速度で震えだし滝の様な涙と鼻水が溢れ出した。
余りの衝撃に何かを叫ぼうとしたが、何を叫んで良いのか分からず口をパクパク動かすことしか出来ない。
そしてその時、トムハットがディーノの存在に気付き遺言に近い魂の叫びを轟かせた。
「振り返るなッ!! 前をッ向けェェ!! 私は常にッお前の側に居るッ!!!!」
その声に鼓膜が揺らされた瞬間、せき止めていた何かが壊れた様に感情と言葉が溢れだす。
もう何をしようともトムハットは助からない、でもそんなこと一切関係なく叫ばずには居られなかったのだ。
大きな声を出せば兵士に見つかって殺されると分かっていても関係無かった。
「と、トム八ット! まっでッ行かないでよ、嫌だッ嫌だよ嫌ッ!! 一人にしないでッ……」
ディーノは渾身の力を振り絞って最後にトムハットへ縋り付こうとしたが、其れを予期していたかのように発生したタンクの大爆発によって声は全て掻き消される。
そしてトムハットが凄まじい爆発の中に巻き込まれる光景を目撃したディーノは余りの衝撃と悲しみによって身体が痙攣してボートの上に倒れ込んだ。
「とッとととトムハットがッ、ばばば爆発にッの、呑み込まれてッ死んじゃった……ウブッ、オエエエッ!!」
倒れたディーノの脳内でトムハットが弾丸に身体を貫かれて爆発に呑み込まれるシーンが高速で何度もリピートし、それに対する拒絶感から凄まじい吐き気を催す。
少年の精神は限界を迎えて、何度も嘔吐を繰り返して次第に意識が混濁していく。
(嘘だ……これは、夢だよッ……だって、約束したッんだ。いつか帰って来たら、またッ会えるって……)
此処でディーノの脳味噌は現実を直視する事を辞め、完全にシャットダウンされる。
しかしボートは人形の様に動かなくなったディーノを乗せてドンドン加速して激流へと向かっていき、そして大きくボートが揺れ始めた。
何度もボートが転覆しそうな程の揺れが発生するが、ディーノの意識は固く閉ざして現実に戻って来ようとはせず唯静かに涙を流し続ける。
その姿はまるで、生きる事を完全に拒絶しているかのようであった。
そしてボートは暫く激流で飛び跳ねながら進んだ後、前方に現われた巨岩に衝突して転覆。
ディーノは何の抵抗も示さず一瞬宙を舞い、ピシャリという一つの命が呑み込まれたにしては余りにも軽すぎる音を上げて激流に呑み込まれた。
そして暗く冷たい水の中を当てもなく流されていったのだった。
運河は常に水が流れ続けているので何もせずともゆっくりとノートは流れていく。
(確か、トムハットに静かに身体を屈めてろって言われてたよね……)
ディーノは言いつけを守って身体を屈めて船体の影に隠れる。
そして恐ろしい程静かな深夜の運河の真ん中で此れからの生活に思いを巡らせていた。
(……きっとパパなら大丈夫だよ。パパはとっても強いってオーウェンもディオンも、アンベルトも言ってたもん!! 其れよりも今は自分の事を考えないとッ)
自分ではどうしようも無い父への心配を一端放置し、別のことを考える。
(この街もよく分からないけど大変な事に成っちゃったし、僕も一生懸命修業してパパの助けにならないと。強いパパが強く成れるって言ってる場所なんだから、きっと凄く強く成れるぞ! 寂しいけど、一杯頑張る……)
自分でも甘えた事を言ってはいけないと分かっているが、どうしても口からは『寂しい』という言葉が漏れてしまう。
そして一度漏れ出してしまうと『寂しい』という気持ちが止まらなくなって、頭が其れだけで埋め尽くされてしまった。
(トムハットとも会えないのか……其れが一番嫌だな。パパが居なくても今まではトムハットが居てくれたもんッ。トムハットが居ないと寂しいよ)
もうトムハットとも会えないと考えると途轍もなく悲しくなり、涙が溢れてくる。
物心が付いた時には既にトムハットがずっと側にいてくれた。
お腹が空いておやつが欲しい時、怖い夢を見た時、一緒に遊んで欲しい時、心細い時、意味も無く一緒に居たい時に廊下を駆け抜けて抱きつくことがもう出来ない。
その事実が切なくて仕方が無いのだ。
(ダメだよ泣いちゃ……強く成るって決めたんだ。パパもトムハットも悲しい顔をしていたけど、きっと僕が強く成ったら喜んでくれる筈だから。次パパとトムハットに会ったときに笑ってくれるなら、僕は何だってやる!!)
ディーノの世界は殆どルチアーノとトムハットの二人で完成していて、その二人が全てなのだ。
その二人が悲しい顔をしている事に我慢できず、自分に出来る事ならどれだけ過酷な事であろうとやっあげたいと本気で思っている。
本当に二人の事が大好きだった。
(その為にはしっかりと逃げ切って、僕の師匠に成ってくれる人の元まで辿り着かないと!)
ディーノは自分が今やるべき事を再確認し、爆発が発生するその時を待って身体を屈める。
しかし幾ら待っても爆発の音は聞こえず混乱が発生している気配も感じない。
其処でディーノは顔を少し上げ、周囲の情報を確認しようと辺りを見回してしまったのである。
(えッ、何でッ……トムハットッ!?)
其処でディーノが見た光景は余りに残酷であった。
ディーノが顔を上げ岸の方を見て目に飛び込んできたのは、明かりで照らされたタンクの前でトムハットが弾丸で打ち抜かれている光景であった。
自分が見ている光景の意味を理解した瞬間、全身が凄まじい速度で震えだし滝の様な涙と鼻水が溢れ出した。
余りの衝撃に何かを叫ぼうとしたが、何を叫んで良いのか分からず口をパクパク動かすことしか出来ない。
そしてその時、トムハットがディーノの存在に気付き遺言に近い魂の叫びを轟かせた。
「振り返るなッ!! 前をッ向けェェ!! 私は常にッお前の側に居るッ!!!!」
その声に鼓膜が揺らされた瞬間、せき止めていた何かが壊れた様に感情と言葉が溢れだす。
もう何をしようともトムハットは助からない、でもそんなこと一切関係なく叫ばずには居られなかったのだ。
大きな声を出せば兵士に見つかって殺されると分かっていても関係無かった。
「と、トム八ット! まっでッ行かないでよ、嫌だッ嫌だよ嫌ッ!! 一人にしないでッ……」
ディーノは渾身の力を振り絞って最後にトムハットへ縋り付こうとしたが、其れを予期していたかのように発生したタンクの大爆発によって声は全て掻き消される。
そしてトムハットが凄まじい爆発の中に巻き込まれる光景を目撃したディーノは余りの衝撃と悲しみによって身体が痙攣してボートの上に倒れ込んだ。
「とッとととトムハットがッ、ばばば爆発にッの、呑み込まれてッ死んじゃった……ウブッ、オエエエッ!!」
倒れたディーノの脳内でトムハットが弾丸に身体を貫かれて爆発に呑み込まれるシーンが高速で何度もリピートし、それに対する拒絶感から凄まじい吐き気を催す。
少年の精神は限界を迎えて、何度も嘔吐を繰り返して次第に意識が混濁していく。
(嘘だ……これは、夢だよッ……だって、約束したッんだ。いつか帰って来たら、またッ会えるって……)
此処でディーノの脳味噌は現実を直視する事を辞め、完全にシャットダウンされる。
しかしボートは人形の様に動かなくなったディーノを乗せてドンドン加速して激流へと向かっていき、そして大きくボートが揺れ始めた。
何度もボートが転覆しそうな程の揺れが発生するが、ディーノの意識は固く閉ざして現実に戻って来ようとはせず唯静かに涙を流し続ける。
その姿はまるで、生きる事を完全に拒絶しているかのようであった。
そしてボートは暫く激流で飛び跳ねながら進んだ後、前方に現われた巨岩に衝突して転覆。
ディーノは何の抵抗も示さず一瞬宙を舞い、ピシャリという一つの命が呑み込まれたにしては余りにも軽すぎる音を上げて激流に呑み込まれた。
そして暗く冷たい水の中を当てもなく流されていったのだった。
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