キング・オブ・アウト ～半分が裏社会に呑み込まれた世界で法則の力『則』と法則のを超えた力『則獣』を駆使してマフィアの頂点を目指す！！

第55話 残り二人

「何だッ……この、力はッ！！」



　空一面を覆っていたチャムラップを一瞬で細切れにし、復活も許さない程徹底的に破壊し尽くしたルチアーノの力を見てネイサンが驚愕の声を発する。

　力の格が違ったのだ、その攻撃はまるで大自然の御技であった。

　明らかに人間が単身で発生させて良い現象の域を超えた力であった。



（桁違いである事は元々分かっていた、しかしこれ程とはッ！！　アレだけ複雑な技を大した貯めも無く発動させるコントロール能力、天に届くほどの竜巻を斬撃のみで生み出せる則との共鳴力、そして連戦によるダメージと疲労にも関わらず大技を放てる耐久力。何もかもが人域を逸脱している！！）



　数多の攻撃を喰らったルチアーノの身体には確実にダメージと疲労が蓄積されているはずだった。

　しかし、たった今チャムラップを屠ったルチアーノの力は寧ろ序盤に比べて増加している。

　自分が負ければ息子が殺されるという極限状態で裏社会の№2と戦っていたのだ、序盤に手を抜いていた筈が無い。

　だが其れではルチアーノが今発している力の説明が全く付かなのだ。



　追い詰めたと思っていたら逆に追い詰められていた状況に地団駄したくなったその時、地面からズボッという音を出して腕が飛び出てきた。

　そしてその腕が地面を掘り返してもう一本の腕が、そして二本の腕が土をどかしてピエロの被り物を被った顔とスーツを着た胴体が出て来た。

　チャムラップは生きていたのである。



「チャムラップ……生きていたのかッ」



「ウッス、生きてたッス！！　でももう逃げさせて貰うッス！！　ウッス、もう無理ッス！　これ以上は復活できないし暫くは分身も出来ないんで無理ッス！！　ウ～ッス！！」



「なッ、何だと！！」



　土の中から現われて早々尻尾を巻いて逃げ始めたチャムラップにネイサンは驚愕する。



「ネイサンも無理しないで逃げた方が身のためッスよ？　多分アノ人燃費が悪いから長くは保たないだろうけど、今この瞬間だけを切り取ればボスと同じくらい強いッスよ？　じゃ、バイバイッス～」



　そう言って一目散に逃げ出したチャムラップの背中をネイサンは呆然とした目で眺める。

　自分が立てた完璧に近いプランが足下から崩れ落ちていくバラバラという音が聞こえた気がした。



（は、破帝と同等の強さだとッ！？　しかも此れだけの戦いの後に何故ッ）



「此れで残り二人だな」



　全ての全ての計画が狂わされ呆然と足下を眺めていたネイサンの耳に、空から投げかけられた言葉が飛び込んで来た。

　その言葉に鼓膜を揺らされた瞬間、ネイサンの全身毛が恐怖によって総毛立つ。

　全ての作戦が成功して勝利を確信していたネイサンの脳裏に『敗北』の二文字が過ぎったのはこの瞬間であった。



「おっと、丁度今ずっと不幸を送りつけていた奴が逃げ出したな。此れで残り一人だ、良かったなネイサン俺と二人きりだぞ」



「何だとッ！？　そんな馬鹿なッ！！」



　余りにも絶望的過ぎる発言にネイサンは嘘だと信じたかった。

　しかしBIFのエイジェントとして身につけた嘘を見抜く技術がルチアーノの目の動き、呼吸、口調、顔色からその発言が真実であると全肯定してしまう。



（クソクソクソクソクソォーーッ！！　あの腰抜け共がッ、戦況の雲行きが悪くなれば即座に手のひらを返して逃げ出すとはッ！！　やはり薄汚いマフィア等と手を結ぶべきでは無かったわ！！）



　ネイサンは腹の中で逃げ出したチャムラップとバカラに対する罵詈雑言を吐き散らして現実逃避を行う。

　しかしそんな事をしても事態は一向に好転せず、ルチアーノがネイサンの方へ向かって歩み寄って来た。



「残念だなネイサン、チェックメイトだ。大人しく首を差し出せ、死刑で許してやるッ」



「ふざけるな薄汚いマフィア風情がッ！！　私に上から物を言うな何の生産性も無いクズがッ！！　貴様こそ私に首を差し出せ、お前もお前の妻もお前の息子もッ！　全員私の出世の養分となるために存在しているのだ！　生きているだけで他人を不幸にするお前の首をッ私の出世という価値のある物に変えてやる！　そうなるべきなのだよ！！」



　ネイサンは迫るルチアーノに向かって発狂した様子で言葉を放つ。

　そしてヤケクソに成った様に全ての力を解放し、黄金のオーラが溢れて目から雷光が漏れ出始めた。

　何が何でも勝利を掴むという貪欲な意志が伝わって来る。



「本当に救いようのない奴だな、此処で命乞いでもしてくれれば多少は可愛げが有ったのによ」



「命乞いをするのは貴様の方だッ！！　私が座るのは常に勝者の椅子ッ敗北は一度たりとも許さない。貴様の全てを奪ってやるぞ、地位も名誉も富も幸せも全てだッ！！　貴様は全てを奪われて惨たらしく殺されるべき何だよッルチアーノォォォッ！！」



「勝手に言ってろ、地獄でなッ！！」



　等々レヴィアスファミリーの本拠地で発生したルチアーノ暗殺事件も、ネイサンとルチアーノの直接対決によって最終盤に突入する。

　この戦いが終わったとき生きていた方が、次の時代の王者と成るのだ。