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第72話 大人の世界
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ディーノとマルク、そしてターゲットは正面から向き合い、互いに構えを作った状態で膠着状態が発生していた。
互いに全神経を張り巡らし、敵の間合い・呼吸・集中の波を計り合ってる。
その時、ディーノの声がその膠着を破る。
「俺が行く、お前は俺に合わせてろ!!」
「お、おいッ!! ちょっと待てよ!!」
ディーノはそう叫んでマルクの制止を振り切り、力強く拳を握り込み雄叫びを上げながら敵に向かって突進した。
しかし雄叫びを発しながら突進したので、先手を打つ最大のメリットである『敵の不意を突く』という点を完全に放棄していたのだ。
此れではカウンターを合わせてくれと言っている様な物で、綺麗に攻撃を躱されて迎撃の拳がめり込んだ。
「ブフゥ!!」
突進してた分の自らのエネルギーが上乗せされた攻撃を受け、ディーノは進行方向とは正反対の方向に弾き返される。
鼻を潰されて鼻孔から鮮血が飛び散った。
「おい、待てって言ってんだろ!! お前一人で突っ込むなッ格闘戦は俺に任せろ。頭は良いが喧嘩の腕はからっきしだろうが! 直ぐに下がれッ!!」
「うるせえッ! コイツは俺の獲物だッ邪魔すんじゃねえよ!!」
ディーノはマルクの発言を無視して立ち上がり、再び拳を振り上げてギラギラした目でターゲットの方を睨んだ。
そして再び一直線に突っ込み拳を振り下ろすが、全て往なされて攻撃が一つも当らない。
其れもその筈で、ディーノの攻撃は全て振りかぶりが大きく動きに無駄が多い。
その結果攻撃を放つ前に軌道から威力まで全て予測されてしまい、最適で最小の動きで攻撃を回避されてしまう。
(なる程、コイツが頭脳で先程良い蹴りを放った奴が武力か。ならば、血迷って突っ込んで来た頭を早々に潰そうッ)
ターゲットはディーノを早々に処理する事に決め、凶暴な笑みを浮かべた。
大振りで笑えるほど真っ直ぐに飛んでくる拳を身体を翻しながら回避し、そして出現した巨大な隙で一気に崩しに掛る。
前のめりになったディーノの水月・喉・顎に連続で拳を打ち込んだ。
「カア、ハッ!?」
無駄を極限まで省いたコンパクトで高速の連撃に、ディーノの体感では三カ所の急所が同時に衝撃を与えられた様だった。
そして喉に攻撃を受けた事によって、苦悶の呻きすら満足に発する事は出来ない。
「ハガッ、カッアァ……アガアアッ」
ディーノは喉を押さえて苦しそうな音を発し、口からか零れた唾液には大量の血液が混じっていた。
急所を三カ所も同時に攻撃され、真っ直ぐに立っているのも苦痛だった。
しかしディーノは根性だけでダンゴムシの様に蹲ろうとする上半身を持ち上げ、再びファイティングポーズを取った。
未だゴングは鳴らない。
「確実に堪えがたい吐き気と目眩、そして呼吸する度に激痛が走っている筈だ。やせ我慢とは言え、一度堪えた事は評価してやる」
そう言ってターゲットは手を叩き拍手をした。
しかし彼が言うとおりダメージが深刻なのは一目瞭然で、ディーノの目は虚で身体は振り子のようにゆっくり左右に揺れている。
極め付けは意識が朦朧としているのか、口が半開きになり血の混じった涎が垂れていた。
明らかにダウン寸前だ。
「さっさと寝ろ、楽になれッ」
ターゲットは先ずは一体を仕留める為、拳を振り上げて決着の一撃を準備する。
其れはまるでディーノへの当て付けの様に大袈裟で過剰なまでに振りかぶり、軌道が簡単に予想できるカウンターを合わせてくれと言わんばかりの動きであった。
しかしディーノはその拳を虚な目で見詰めるのみで、ピクリとも動かない。
拳は真っ直ぐ、顔面を貫かんばかりのストレートで放たれた。
そして、ターゲットの顔面に拳がめり込んで吹飛ばされた。
完全に油断をしていた所に攻撃を叩き込まれたターゲットは大きく体勢を崩し、上半身を反らせた状態で三歩後退る。
しかし意地と体幹筋のお陰で状態を立て直し、地に腰を着ける事は無かった。
「グッ…何がッ起こった?? 何故、貴様……」
「二回も引っ掛かってくれてありがとよ、オッサン。身体の耐久度とパンチのキレだけは此処で負け知らずなんだよッ」
そう言ってディーノは拳同士を打ち付け、ニヤリと笑う。
ディーノが今まで見せていた戦闘に不慣れな姿は全て演技であり、実際はこの街の誰もタイマンでは敵わない程の腕っ節を誇っていた。
そして演技によって相手の油断を引き出し、一撃必殺のクロスカウンターを合わせたのである。
其れは余りにも美しいカウンターであった。
必殺の速度で真っ直ぐ拳が迫る中、ディーノの瞳がキラリと輝く。
そして攻撃の軌道から逃がす為に上半身を回転させ、其れと同時に弓を引き絞るように腕を振り上げてパワーを貯める。
そして余裕の表情で自分か向かって来るターゲットの顔に標準を合わせ、最短距離で一切エネルギーに無駄が無いパンチを叩き込んだった。
そのパンチの威力とキレは、戦闘のプロであるターゲットも目を見張る程レベルである。
しかし、ターゲットが目を見張った理由は其れだけでは無い。
(確実に威力を殺す為に則で防御した筈だ……其れが貫通された!! つまり、この年端も如何にガキが則を利用したという事ッ!!)
胸を覆い尽くしたのは怒りでも屈辱でも無く、好奇心ッ!!
何の期待もしていなかった場所で出会った金の卵、戦闘と殺しを生業とする者としてこの少年が何処まで行けるのか確かめたく成ってしまったのだ。
ターゲットは顔を笑顔で埋めた。
「良いぞッ、素晴らしい!! 唯のコソ泥だと思っていたが、想像の100倍は楽しめそうだ。追い込むだけ追い込めば何が出てくるのか確かめたく成ってしまったよ」
そう言ってターゲットは体勢を立て直し、頬の傷から漏れ出す血を拭った。
「へッ、もう楽しむ所の騒ぎじゃないだろ。俺のパンチは綺麗に決まった、頬骨が砕け脳が揺れている筈だ。目眩がしてどっちが上か下すら覚束ない状態だろ?」
ディーノは自らの勝利を確信して余裕の笑みを浮かべる。
拳は確かに敵の顔面を捉えており感触も充分、相手の笑顔や立ち姿は間違い無くやせ我慢の筈だった。
痛みに対する耐性は人によって差が有るが、脳は平等だ。
あれ程の衝撃を頭部に受け、脳に何のダメージも受けていない人間がこの世に存在する訳が無い。
確実に脳味噌は頭蓋骨の中で激しく暴れ、平衡感覚と身体の制御が失われているだろう。
しかしターゲットは一切表情を崩さない。
「悪いが私をそこらのチンピラと同じ尺度で測ってもらっては困る。則を利用して衝撃をある程度散らせた、ダメージは軽度だ」
「則? 何だそりゃ?? 等々頭がイカれて妄言しか吐けなくなったか」
訳の分からない理論を展開して自分は効いていないアピールするターゲットをディーノは冷ややかな目で眺めた。
一方のターゲットはその言葉を受け、思考する為に黙り込む。
(則を知らない、若しや先天的に第13神経が覚醒している特殊体質か?? 又は無意志の内に過去で脳が覚醒する程の体験をしているか……どちらにしろ特別な存在だッ)
ターゲットは嬉しい結論を手に入れて笑顔を作り、更に検証を続ける事を決定した。
本来の目的とは離れてしまっているが、最終的に痛めつける事は変わらないと自分で自分に言い聞かせる。
そして目の前に現われた少年の限界を調べる為、一段ギアを上げた。
「そうか……では此れは見たことがあるか? もし見たことも無く、対応する事も出来なければお前達は死ぬ事になる。大人の世界は理不尽で残酷なんだ、私の期待に応えてくれよ? 少年?」
「だから、アンタさっきから何言ってッ……」
「出て来い、『プレディオーネ』」
ディーノが発した言葉を遮りながらターゲットがその名前を唱えた瞬間、彼の身体の中心から一つの白い球が飛び出した。
そしてその玉を纏う様に真っ黒な靄が集まり、其れが人型に凝結して人型の怪物が現われる。
神聖さを感じさせる純白の鎧を、醜さと邪悪さをその身から放つ怪物が身につけた違和感と嫌悪感の化身であった。
そして此処から戦いは一方的な暴力へと変化する。
互いに全神経を張り巡らし、敵の間合い・呼吸・集中の波を計り合ってる。
その時、ディーノの声がその膠着を破る。
「俺が行く、お前は俺に合わせてろ!!」
「お、おいッ!! ちょっと待てよ!!」
ディーノはそう叫んでマルクの制止を振り切り、力強く拳を握り込み雄叫びを上げながら敵に向かって突進した。
しかし雄叫びを発しながら突進したので、先手を打つ最大のメリットである『敵の不意を突く』という点を完全に放棄していたのだ。
此れではカウンターを合わせてくれと言っている様な物で、綺麗に攻撃を躱されて迎撃の拳がめり込んだ。
「ブフゥ!!」
突進してた分の自らのエネルギーが上乗せされた攻撃を受け、ディーノは進行方向とは正反対の方向に弾き返される。
鼻を潰されて鼻孔から鮮血が飛び散った。
「おい、待てって言ってんだろ!! お前一人で突っ込むなッ格闘戦は俺に任せろ。頭は良いが喧嘩の腕はからっきしだろうが! 直ぐに下がれッ!!」
「うるせえッ! コイツは俺の獲物だッ邪魔すんじゃねえよ!!」
ディーノはマルクの発言を無視して立ち上がり、再び拳を振り上げてギラギラした目でターゲットの方を睨んだ。
そして再び一直線に突っ込み拳を振り下ろすが、全て往なされて攻撃が一つも当らない。
其れもその筈で、ディーノの攻撃は全て振りかぶりが大きく動きに無駄が多い。
その結果攻撃を放つ前に軌道から威力まで全て予測されてしまい、最適で最小の動きで攻撃を回避されてしまう。
(なる程、コイツが頭脳で先程良い蹴りを放った奴が武力か。ならば、血迷って突っ込んで来た頭を早々に潰そうッ)
ターゲットはディーノを早々に処理する事に決め、凶暴な笑みを浮かべた。
大振りで笑えるほど真っ直ぐに飛んでくる拳を身体を翻しながら回避し、そして出現した巨大な隙で一気に崩しに掛る。
前のめりになったディーノの水月・喉・顎に連続で拳を打ち込んだ。
「カア、ハッ!?」
無駄を極限まで省いたコンパクトで高速の連撃に、ディーノの体感では三カ所の急所が同時に衝撃を与えられた様だった。
そして喉に攻撃を受けた事によって、苦悶の呻きすら満足に発する事は出来ない。
「ハガッ、カッアァ……アガアアッ」
ディーノは喉を押さえて苦しそうな音を発し、口からか零れた唾液には大量の血液が混じっていた。
急所を三カ所も同時に攻撃され、真っ直ぐに立っているのも苦痛だった。
しかしディーノは根性だけでダンゴムシの様に蹲ろうとする上半身を持ち上げ、再びファイティングポーズを取った。
未だゴングは鳴らない。
「確実に堪えがたい吐き気と目眩、そして呼吸する度に激痛が走っている筈だ。やせ我慢とは言え、一度堪えた事は評価してやる」
そう言ってターゲットは手を叩き拍手をした。
しかし彼が言うとおりダメージが深刻なのは一目瞭然で、ディーノの目は虚で身体は振り子のようにゆっくり左右に揺れている。
極め付けは意識が朦朧としているのか、口が半開きになり血の混じった涎が垂れていた。
明らかにダウン寸前だ。
「さっさと寝ろ、楽になれッ」
ターゲットは先ずは一体を仕留める為、拳を振り上げて決着の一撃を準備する。
其れはまるでディーノへの当て付けの様に大袈裟で過剰なまでに振りかぶり、軌道が簡単に予想できるカウンターを合わせてくれと言わんばかりの動きであった。
しかしディーノはその拳を虚な目で見詰めるのみで、ピクリとも動かない。
拳は真っ直ぐ、顔面を貫かんばかりのストレートで放たれた。
そして、ターゲットの顔面に拳がめり込んで吹飛ばされた。
完全に油断をしていた所に攻撃を叩き込まれたターゲットは大きく体勢を崩し、上半身を反らせた状態で三歩後退る。
しかし意地と体幹筋のお陰で状態を立て直し、地に腰を着ける事は無かった。
「グッ…何がッ起こった?? 何故、貴様……」
「二回も引っ掛かってくれてありがとよ、オッサン。身体の耐久度とパンチのキレだけは此処で負け知らずなんだよッ」
そう言ってディーノは拳同士を打ち付け、ニヤリと笑う。
ディーノが今まで見せていた戦闘に不慣れな姿は全て演技であり、実際はこの街の誰もタイマンでは敵わない程の腕っ節を誇っていた。
そして演技によって相手の油断を引き出し、一撃必殺のクロスカウンターを合わせたのである。
其れは余りにも美しいカウンターであった。
必殺の速度で真っ直ぐ拳が迫る中、ディーノの瞳がキラリと輝く。
そして攻撃の軌道から逃がす為に上半身を回転させ、其れと同時に弓を引き絞るように腕を振り上げてパワーを貯める。
そして余裕の表情で自分か向かって来るターゲットの顔に標準を合わせ、最短距離で一切エネルギーに無駄が無いパンチを叩き込んだった。
そのパンチの威力とキレは、戦闘のプロであるターゲットも目を見張る程レベルである。
しかし、ターゲットが目を見張った理由は其れだけでは無い。
(確実に威力を殺す為に則で防御した筈だ……其れが貫通された!! つまり、この年端も如何にガキが則を利用したという事ッ!!)
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拳は確かに敵の顔面を捉えており感触も充分、相手の笑顔や立ち姿は間違い無くやせ我慢の筈だった。
痛みに対する耐性は人によって差が有るが、脳は平等だ。
あれ程の衝撃を頭部に受け、脳に何のダメージも受けていない人間がこの世に存在する訳が無い。
確実に脳味噌は頭蓋骨の中で激しく暴れ、平衡感覚と身体の制御が失われているだろう。
しかしターゲットは一切表情を崩さない。
「悪いが私をそこらのチンピラと同じ尺度で測ってもらっては困る。則を利用して衝撃をある程度散らせた、ダメージは軽度だ」
「則? 何だそりゃ?? 等々頭がイカれて妄言しか吐けなくなったか」
訳の分からない理論を展開して自分は効いていないアピールするターゲットをディーノは冷ややかな目で眺めた。
一方のターゲットはその言葉を受け、思考する為に黙り込む。
(則を知らない、若しや先天的に第13神経が覚醒している特殊体質か?? 又は無意志の内に過去で脳が覚醒する程の体験をしているか……どちらにしろ特別な存在だッ)
ターゲットは嬉しい結論を手に入れて笑顔を作り、更に検証を続ける事を決定した。
本来の目的とは離れてしまっているが、最終的に痛めつける事は変わらないと自分で自分に言い聞かせる。
そして目の前に現われた少年の限界を調べる為、一段ギアを上げた。
「そうか……では此れは見たことがあるか? もし見たことも無く、対応する事も出来なければお前達は死ぬ事になる。大人の世界は理不尽で残酷なんだ、私の期待に応えてくれよ? 少年?」
「だから、アンタさっきから何言ってッ……」
「出て来い、『プレディオーネ』」
ディーノが発した言葉を遮りながらターゲットがその名前を唱えた瞬間、彼の身体の中心から一つの白い球が飛び出した。
そしてその玉を纏う様に真っ黒な靄が集まり、其れが人型に凝結して人型の怪物が現われる。
神聖さを感じさせる純白の鎧を、醜さと邪悪さをその身から放つ怪物が身につけた違和感と嫌悪感の化身であった。
そして此処から戦いは一方的な暴力へと変化する。
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